36-3.洗われて、打ち明けて






 *・*・*







 すぐに全員集合といかず、私はロティと先にお風呂に入ったんだけど。


 先に一緒に入った人達と、何故こうなってしまったのだろうかとツッコミたい。



「うふふ〜、チャロナちゃん頭かゆくな〜い?」


「な、ないです」


「ロティちゃんはどうかしら?」


『にゃいでふ〜。にゅふふ〜〜!』



 何故か、 私がカレリアさんに。


 ロティがメイミーさんにと、それぞれ頭もだけど体まで当たってるこの状況は一体?



「ふふ、綺麗な緑柱ベリルの髪を洗わせていただけるなんて思わなかったわ」


「え、いや……自分で洗」


「だ〜め。しばらく会えないんだし、ちょっとだけでも触らせて? いい艶だし、ここのシャンプーによく馴染んでいるわ〜」


「ええ、私とかが教えた通り。丁寧に手入れしてるわね?」


「い、いや……まあ」



 と言う押し問答のようなのを洗われる前から繰り返して、結局のところ、全身ピッカピカにされてしまいました。


 なのに、逆はダメと言われたので、仕方なくロティと軽く湯船に浸かることに。


 今日はここでおしゃべりするのだから、しっかり浸かる長湯だとのぼせちゃうしね?



「今日は、本当にお招きありがとう。チャロナちゃん」



 丁寧に丁寧に、綺麗なブロンドを洗ってるカレリアさんが少し振り返ってきた。



「この間のカレーパンもだけど、すっごくすっごく美味しかったわ〜。私、あんな美味しいパン。今までフィーさん達のような貴族階級以上の方達だけのだと思ってたの」


「あ」



 そうか。カレリアさんは先の予定ではなるとしても、まだ『貴族』じゃない。


 今は、婚約者としてフィーガスさんのお屋敷に住んでるらしいが、それは悪く言えば居候に近かった。


 だから、これまでの食生活は、ある意味孤児だった私とそんなに変わりがなかったはず。


 彼女もそこに気づいたのか、シャワーで泡を落としてから私に向かって苦笑いしてきた。



「今いるお屋敷の皆さんは優しいけれど。フィーさんも多分言ってた強固派の人達は、最初猛反対だったわ。直接会ってはいないけど……婚約を発表した後は、毎日のように魔法鳥で嫌な手紙が来たの」



 私も、強固派とやらがどんな風なのかは詳しくわかってはいないが。


 この国の過去の国王様達が、古い慣習に囚われた反対派を認めさせるために色々と頑張ってきた。


 その名残がまだまだあるようで、王族じゃなくても貴族も困ってるって。


 とても、辛い事だ。



「私もそうだわ。結婚しても子供が男の子じゃないから、それまでは屋敷に帰ってくるなって」


「『「え!?」』」


「あら、カレリアちゃんにも言ってなかったわね?」



 相づちするように告げたメイミーさんの言葉に、居合わせた全員で驚いてしまった。


 けど、意外。


 カレリアさんはとっくに知ってると思ってたのに。



「メイミー姐さんがここにいるの、ちょっとおかしいと思ってたんですが。まさか、強固派が?」


「そうね。ご両親よりもまだご健在の祖母君が、まあ頭がお堅い方なのよ。だから、今はお忙しくて子作り出来ないうちは、娘の世話は任せて出稼ぎに行けって」


「それで……このお屋敷に?」


「そう。筆頭メイドに選ばれたのも、経験が一番長いからだけど」



 なんて、理不尽過ぎる理由。


 今の私はともかく、赤ん坊の時にこそお母さんの愛情が一番必要なのに。


 離れさせるなんて、酷すぎる。


 それが顔に出てたのか、メイミーさんもまた苦笑いした。



「けど、大丈夫よ。定期的に顔出ししていい許可はうちの旦那さんとあちらのご両親がもぎ取ってくれたの。先日も見に行ったばかりだし、私が母親ってことも理解してるようだわ」


「ほっ」



 それなら、少しは安心だ。


 まったく対策のないまま、お子さんが惨めな思いをしてるんじゃないかと心配にはなったけど。


 孤児になった私より、少しでも幸せな時間が作れているのなら、これ以上は言えない。家庭の事情なんて、異世界問わず何千通りもあるのだから。


 安心していると、お二人も体を洗い終えて湯船に浸かってきた。


 が。



(……私以外の皆さん、なんてナイスバディなんだ!)



 同性だから堂々と見られるけど、タオルで隠さない立派過ぎる裸体が眩しい!


 20代以上のお二人の成熟された体が凄い!


 私も、あと数年でああなれるか!



「あら、どうかしたの〜?」



 湯に浸かっても、たぷんと揺れるカレリアさんの胸部は私にはない。



「ふふ。もしかして、慎ましやかなものよりも大胆な大きさが気になるんじゃないかしら? チャロナちゃんのも、十分に殿方には魅力的な形よ?」



 いえ、皆さんのを見てしまうと大きさに自信持てないです。



『可愛いでふ〜?』



 ロティ、それ慰めにならないから!




「……けど。カイルキア様は大きいの好きそうですし」



 この時私はうっかりし過ぎてた。


 フィルドさんに背中を押され、きちんと自覚した事でもう他の人にも話してるつもりになってたのだ。


 だから、二人が息を飲む音に、遅れて『しまった!』と慌てて口を閉じても。



「やっぱり、チャロナちゃんは旦那様が気になってたのね? 起きた直後もすっごい見てたもの」


「うわ〜うわ〜! 絶対お似合いですよ! こんなにも可愛いし!」


『でっふ、でっふぅ!』


「…………………………へ?」



 カイルキア様をよく知るお二人に反対されるかと思いきや、逆だった。


 何故、と思ってもまだまだお二人の言葉は続く。



「こうなったら、マナーレッスンで完璧なくらいな御令嬢に仕立て上げて……からの方がいいわ。見栄えだけなら、お隣に立つのは十分だし」


「ですよねですよね! うわ〜、絶対カイルさん喜びそう」


「いや待ってください?」


「「え?」」



 どうしてそこまで盛り上がってしまうんだろうか?


 身分差とか諸々の問題はあるのに、色々すっ飛ばしてるような気がしてならない。



「…………反対、しないんですか? 貴族以上に平民以下の小娘が」



 いくら、エピアちゃんが昼間に言ってた恋愛に関する歴史があっても。


 お貴族の中でもトップクラスの公爵家の方に、想いを寄せるなんて。


 普通じゃ、犯罪に近いものがあるのと思うのは。


 前世の知識を抜きにしても、まだまだチキンなチャロナは思ってしまうところだ。



「あら、問題ないわ」



 先に口を開けたのは、メイミーさん。



「王弟殿下と、侯爵家の姫君との婚姻だった大旦那さまたちだけれど。むしろ、過去の陛下達のような身分差があり過ぎる恋愛には賛成派なの。その理由で、婚約者様を失った旦那様にも、それをお薦めされてたわ」


「……婚約者様を、失った?」


「あ!……ええと、そうね。かなり幼い時の出来事なの。戦争中に、当時まだ赤ん坊だった婚約者様が……行方知れずになってね?」


「…………」



 やっぱり、私はダメなのだろうか?


 今もまだ気にされてるかわからないが、カイルキア様が婚約者様の事を、と。


 身分差が大丈夫だとしても、彼の心にいるのは……年端のいかない赤ちゃんでも、大切な人だったら、と。



「あー、飲んだねぇ!」


「待たせてすまない。…………どうしたんだい?」


「ちゃ、チャロナちゃん?」



 ああ、きっとまた酷い顔をしてるに違いない。


 それと、湯気とは違う視界の歪み方に。


 駆け寄ってきたエピアちゃんが心配そうにしてる顔が、涙で見えにくかった。

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