36-1.結ばれたそれぞれ(エピア/エイマー視点)
*・*・*(エピア視点)
残り少ない料理を食べながらも、思う。
今日一日の出来事は、まるで夢なんじゃないかなって。
メイミーさんに綺麗なお洋服を着せられたのもだけど。
このお屋敷に来てから、ずっと片想いしていたサイラ君と結ばれた事。
今そのサイラ君は、上司のエスメラルダさんに祝い酒をめちゃくちゃ飲まされてへべれけ状態だけど。
チャロナちゃんの口にケーキを押し込んだのも酔った勢いだし、まあ、宴の席だから仕方がない。
「お、エピア。あんたほんとにチーズ好きだねぇ?」
まだまだ食べ足りないので、一生懸命に口を動かしてたらエスメラルダさんがこっちにやって来た。
「……チャロナちゃんが作るの、全部美味しいので特に」
「そうさね。今はいないようだが、何か知ってるかい?」
「ロティちゃんがお腹空いたって言ってから、何故か厨房に行っちゃいました」
「そうかい? 契約精霊は個々によって特性は違うらしいが、あのちんまいのはヒトと同じってとこか」
私も契約精霊についてはあんまり知らないけど、ロティちゃんは色々と特殊らしいのはわかる。
ヒト型に近い精霊がいないわけじゃないけど、見た目が少し変わったりとか成長する精霊はおとぎ話でも聞いたことがない。
だから、叔父であるラスティさんよりも、もっともっとすごい加護
「…………まだ、友達になったばかりなので全部は知らないです」
「そこは無理ないさ。それと、あんた気づいているのかい?」
「え?」
「……あたいらは表面上気安く呼べてるけど、ってことさ」
「あ」
やっぱり、エスメラルダさんも
私がわかったと声を出した途端、綺麗なルージュを引いた唇が緩く弧を描いた。
「あたいやあんた以外も結構気がついているんだよ。
「……そう、ですね」
過去の陛下達の事情について話しても、本当に知らないでいたし。
自分の髪色と顔についても、亡き王妃様と同じなのも知らないでいた。
むしろ、平凡な顔立ちと思っているのが不思議で仕方ない。
私は少し自覚してても、姫様の場合あれだけお綺麗でいるのに?
「本来なら、友達って関係はなかっただろうが。マックスも話してないんだから、女友達としてはあんたが色々と助けてやりな? 逆もあったようだし、義務抜きにしてなんか返したいと思ってるんだろ?」
「!……はい」
姫様は、背中を押してくれた。
私だけじゃなく、エイマーさんやマックスさんもそうらしいが。
今日もこれだけたくさんのお料理を作ってくれたし。
感謝してもし切れない。
だから、その分だけ、恩返し出来る事があればと、少なからず思ってはいた。
「エイも姫さんの事は気づいてる。あたいでもいいが、相談したい事があれば何でも言いな? バカの事でも構いやしないけど」
「あ、あ、ありがとうございます」
「いいさね。改めて言うが、おめっとさん。あいつもだが、あんたも幸せになりなよ? 結婚にゃ、まだまだお互い修行がいるが」
「け、けけけ!?」
いくら成人してても、まだまだ早い気がする。
エイマーさん達はそれ込みでのお付き合いらしいけど。
私達は、まだ。
手を繋ぐのが精一杯の付き合いからだ。
いきなり、そんな大胆な将来まで考えてもみなかった。
「ま、それはおいおいさ。食事も美味いが、多少は酒も……お、姫さん発見」
「え、どこですか?」
ほらっと、ワインのグラスを向けた先には、何故かカレリア様に抱きつかれてた姫様がいらっしゃった。
ロティちゃんは、彼女の頭にすがりついてたから落ちてはいなかったけど。
「はは、どうやら未来の伯爵夫人にも気に入られてしまったってとこかい?」
「姫様……チャロナちゃんは、見た目以上に魅力的ですし」
「あんたもね? おっと、どうやらエイも来たようだ。行こうじゃないか?」
「は、はい」
食べるのもそろそろ終わりにして、エスメラルダさんと向かえば。
ついこの間エイマーさんとまじえたパジャマパーティーを。
今度は、お風呂で集まってしないかと言うことになったのだ。
*・*・*(エイマー視点)
まさか、こんな早く結ばれて。
しかも、皆に祝ってもらえるなんて思いもよらなかった。
本当にチャロナくん……姫様にはパンの技術以上に世話になってしまったものだ。
(それに、今日はお風呂でおしゃべり……とは。メイミーやメイドの皆とも最近なかったのに)
今も、祝われる側だから今日くらい仕事は引き上げろと、料理長にも言われてしまった。なので、せっかくだからとカレリア……歳は逆だが未来の義姉と、少し前食事の続きをしている。
マックス……ユーカは、今未来の義兄になる予定のフィーガス殿と何か話している最中だ。
距離があるのでよく聞き取れないが、騒ぎ具合から重要な話題なのはわかった。
いつもの宴会なら、昔私の心に突き刺さった時と同様に飲んで騒いでへべれけが常だから。
「ん! んも〜〜このお料理本当に美味しいですよね!
「こらこら。フィーガス……義兄さんの話が本当なら、君の方が私の義姉になるだろう?」
「だって、二個下ですし〜。今更ですし〜。伯爵夫人の覚悟は出来てても、まだ商家の娘ですもん」
「それを言うなら、私もアークウェイトの傍流だが」
「けどけど。伯父様に気に入られてるんですから充分ですって」
「そうだろうか?」
サイラの実の祖父にあたる伯父上。
私は、彼の娘と従姉妹であるから一緒に住んではいたものの。
アークウェイトの人間であるかと聞かれたら、自信はなかった。
将来の夢も、美味しい料理が作れる料理人になりたい一心で旦那様の本邸に奉公してたから。
「私は、カイルさんのお父様がご贔屓にしてくださったお陰で、フィーさんとも出会えたんですもん。私も、冒険中ずっと叶わないって思ってたから……フィーさんが言ってくれなかったら、諦めてた」
「…………私も、今日までそう思ってたさ」
姫様のお陰で、長年の片想いが実った。
まさか、相手も同じ気持ちでいたなんて思ってもみなかったが。
大旦那様からお見合いの件を引き受けた時点で、もう諦めはついていたのに。
まさか、それすらもユーカと結ばれるための計画とは露ほども知らず……。
「で、で? ちょこっとフィーさんに聞いたんですけど、『ユーカ姐さん』が言ったんですか?」
「しー、カレリア。その名は今気安く言ってはいけないよ」
「あ、そうだった」
「ああ」
私は昔ユーカが打ち明けてくれたから知ってるだけだが。
ここにいるあと数人は、ユーカが異世界からの転生者である事を知らない。
それと、姫様が同じである事も。
それに加えて、
カレリアの場合、どこまで聞いているのだろうか?
「けど、姫様は知ってらっしゃるんですよね? ケーキのレシピも知りたいんでちょっと行ってきま〜す!」
「は!?」
いきなり話題を変えたかと思いきや、カレリアは思い立ってすぐに行動に移し。
姫様もちょうど戻って来られたので、そのまま勢いで抱きつきに行った。
そして、フィーガス……義兄さんとの合同教室の決定(ほぼ)と、女風呂での語り合いもする事になったのだった。
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