30-2.不確定な想い(カイルキア/シュライゼン視点)
*・*・*(カイルキア視点)
全く、自分の父親を含める上の世代のせいで、心労がまた一つ増えた気がした。
(また転移でいきなり来たかと思えば……っ)
フィーガスも実は計画に加わっていたとか、今更だが殴っておけばよかったと思う。やろうにも、俺にチャロナ達に話したらしい事柄のみ伝えるなり、さっさと帰ってしまった。
(……しかし、俺も含めて、シュラにまで断りなく画策してたとは)
シュラの場合、加わったととしたら面白半分に、かつもう少し盛り込もうとするのを阻止せんがためか。
その役割は、実の父親である現陛下だけで十分。
あとは、親世代と、幼馴染みの中で一応年長者のフィーガスが加われば事足りる。俺の場合、口が固くともマックスに余計な事を言いかねないからだろうが。
俺も自覚はし始めたばかりだが、最近どうも表情の変化がわかりやすくなったらしい。
具体的な変化の理由は最近自分でもわかり始めたが、それ以前から兆候はあったようだ。それを、フィーガスが察知してメンバーに入れなかったらしいが。
「とは言え、
今から飛ばす、魔法鳥には一言一句、真実を綴るつもりだ。
意趣返し、ではないつもりではあるが。そのままにしておいてもよくはない。
彼女は、単純に
俺自身も少し驚きはした。しかし、伯父上達の計画を知らなければ、もう少し掘り下げて動きはしたが。
実は無駄足となったのなら、今も安心は出来る。
フィーガスが種明かししたとも言ってたから、チャロナの胸中はきっと穏やかなはず。夜にまた会うが、一度確認は取りたい。
「……想う、相手か」
父上に無理やり決められる事がない限り、己には縁のない話だと思ってはいた。
だが、喪うと同時に失いかけた
けれど、短い交流の中でも、俺の失っていたと思われてた『愛情』はたしかに育んでいたらしい。
気付かされたのが、幼馴染み達と言うのは癪だが。
「カーイル。入るよ」
魔法鳥を飛ばす文面が出来たところで、所用で部屋を出ていたレクターが戻ってきた。
俺以外いないので、当然のように入ってくるが。王宮とは違い、直属の側仕えを作っていない今はレクターが乳兄弟という事で、魔法医者と兼任している。
もういっそ、と思うが、本人はあくまで魔法医者と言っているのでなかなか決められないでいるのだ。
いずれ、子爵を継ぐ身なのだから、もう少し爵位が上がれば頷くかもしれない。なら、一度父上と現アルノルド子爵に伺う機会を作ろう。
俺もこの半年で、公私共に良き相棒となったレクター以外を直属の部下に置く気がないでいるから。
それはひとまず置いておき、奴が茶かなにかを淹れてる間に窓辺に向かうことにした。
窓を大きく開けてから、手にしてた紙を何度か折って手のひらに置く。
『───────……向かえ、届け。この便りを。何よりも疾く』
詠唱を終えてから、軽く息を吹きかければ。
大きさはあまりないが、立派な『
天候の様子を見る限り、なにも問題がなければ一時間かそこらで王宮に届くだろう。
窓を閉めると、鼻にコーヒーのいい香りがついた。
「今の王宮に?」
「フィーガスが一度こちらに寄ってきた。お前はもう聞いただろうが、大雑把には今のに報告はした」
「父上達も人が悪いよね、息子の僕らにもだけどフィーガスだけって言うの。まあ、僕達はフィーよりもマックスと接点多いし、漏れないようにだろうけど」
「ああ」
まだ今日の執務は終わっていないが、そろそろ書簡の量も落ち着いてはきたので、二日後の授賞式には間に合うだろう。レクターの淹れてくれたコーヒーが殊更美味く思えた。
なにせ、国王自らやって来ると言うのだから。一部の
面倒事ではあるが、陛下が来るとなると仕方がない。
私用ならともかく、公式であるがゆえに。
「ほぼ、フィーガスが言った事と。
「それは自業自得だ」
姫とマックスが同じ世界の転生者だと言うのは、本当に偶然か今は怪しいが。
今、下にいると言う神について。
何故、この機会に来たかは謎でがあるが。
今晩会合するとなれば、一定の緊張感は持たなければならない。
その必要は、陛下やシュラにも当然ある。
「とりあえず……料理長が『神』と推測した青年。見た限りは君に負けないくらいの見目のいい青年だったよ。人当たりもいいし、うまく使用人達の中に溶け込んでいたね」
「…………そうか」
念のために見に行ってもらってたが、報告を聞いただけでも簡潔にしか想像は出来ない。
早く終えて、会合したいものだがまだ完全には終わっていない。
レクターからその前に伝え聞いた、マックス達やエピア達の『祝いの宴』とやらには間に合うように参加したいからだ。
「あと、奥さん……多分、女神『ユリアネス』様のことだろうけど。ものすっごくべた惚れな感じで姫様とかに話してたよ。姫様の
「神の加護と同等かそれ以上か……俺達には縁がないからな」
「近いのは持ってるじゃないか」
「称号は違う」
マックスも所持はしているが、経験で得た結果とも言う。
姫の条件下による
「ま、それはいいけど。…………ねぇ、姫様にはいつ言うの?」
「…………っ、今聞くか」
「今聞かないと。だって、まだ半信半疑なとこあるでしょ? 自分でも」
「…………お前には、隠し事は出来んな」
想いがあるとは、一応自覚はしたが。
それが、あの時に失ったが故の義務か。
もう失いたくないが故の願望か。
己でも、まだ判別は出来ないでいるのが本音だ。
だから、昼前の時に感じた、温かな感情以上の気持ちはまだ探りかねている。
「少しずつで、いいと思うよ。姫様はある意味どこにも行かれない。もう失わないんだ。彼女自身が君への想いを本当に諦めかけてるなら、少しずつ手を伸ばせばいい」
「…………それだけで、いいのか?」
「恋愛初心者の僕が言うのもなんだけど、マックスとかも多分同じ事言うんじゃない? 君より先に結ばれちゃったけど」
「…………あんな風に、か」
エイマーのように、身分差などで葛藤させたりするのは、正直避けたいが。
現状、姫に本来の身分を明かせてない状態ではもう遅い。
なら、レクターが言うように、少しずつ俺も動いた方がいいかもしれない。
少なくとも、マックスが冗談半分で言った事態を想像しただけで、俺も他に渡したくはないと思いかけたから。
「とりあえず、君は急ぐことはないけど。夜は楽しもうよ。なんか、姫様すっごく美味しそうなパン料理作るって聞いたし」
「……先に味見した」
「あ、ずっるーい!」
そして、同時に思う。
この乳兄弟であり幼馴染みにも、春が訪れるようにと。
*・*・*(シュライゼン視点)
俺は可能な限りダッシュしたんだぞ!
そして、急いで父上の執務室に向かったんだぞ!
「大変なんだぞ、父上!」
扉を開け放っても、文鎮すら飛んで来ないのに少し拍子抜けになったが。入って理解した。
流石に疲れて、仮眠をとるのにソファで寝てたんだぞ。
代わりに、爺やがこっちに来てくれた。
「殿下、いかがなされましたかな?」
「爺や、父上起こしてもいいかい?」
「まだ、お休みになられたばかりですが」
「これ読んでも?」
ずずいっと、カイルから届けられた魔法鳥の手紙を渡せば。
さっと目を通した爺やも、内容が内容なので流石に少し目を丸くした。
「これは……すぐにお伝えせねばいけませんね」
「じゃ、俺が起こすんだぞ」
と言っても、一発腹パンするだけだが。
今回は眠りが浅かったのか、すぐに起きたんだぞ。
「げっほ…………なにを、する」
「重大な報告がカイルからされてきたんだぞ! 俺にも内緒にしてた事もあったから、それ込みで」
「…………なに?」
「マックスと、エイマーの事」
「…………ああ」
それについては、バレても大して堪えていないのかのろのろとソファから起き上がった。
「なーんで、回りくどい事したんだぞ。フィーガスしか知らなかったようだし」
「お前達は、マックスと接点が多い。今回の縁を確実に繋げるためにはそうするしかなかった。が、フィーガスが打ち明けたのなら自分達で答えに辿り着いたのか?」
「うーん。マンシェリーがお見合いぶっ壊したらとか、先に言ったらしいんだぞ?」
「…………ま、マンシェリー、が?」
俺がマンシェリーの名を出せば、当然のように顔を青ざめてしまった。
まあ、これは予想していた。俺も魔法鳥に書かれてなければ知らなかったんだぞ。マンシェリーも、マックスやエイマーの恋事情を知っているだなんて。
「爺やが今持ってるけど、カイルに父上からの話を聞いた時相当落ち込んでたらしいんだぞ? 自分のせいで、マックス達に迷惑をかけたんじゃないかって」
「はい、そうなっておりますね」
「う……嘘だろ…………っ!」
俺と爺やが追い打ちをかければ、がくがくのぷるぷるって女の子のような震え方をして、自分の頭を抱え出した。
それから、『ち、違う』とか『嘘だ、マンシェリー』とかブツブツ呟き出してしまったので、もう一個の重要事項を伝えにくい。
「爺や、あとのそれ言っちゃう?」
「僭越ながら、私めが」
「うん、お願い」
そうして、父上の前で屈み、耳元でなにかを呟いた途端。
とうとう、青い通り越して白くなってしまい、ソファに倒れ込んでしまったのだ。
「やれやれ、これでは執務の続きも怪しいですが」
「仕方ないんだぞ、『神』がマンシェリーのところに降りたとなれば」
亡き母上も、天上世界でどう思われてるのだろうか。
俺は、お兄ちゃんとしてもだが友人の祝いパーティーで潜入調査してくるのだぞ!
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