21-2.お菓子教室
*・*・*
リンお兄ちゃんに会えた。
これは、『チャロナ』の人生の中ではいつか望んでいた事だ。
冒険者となって、旅に出た理由もそのうちの一つ。
たった一年しか一緒にいられなかったが、またいつか共に過ごしたかったのだ。
その夢は、10年越しに叶ったけれども、今は彼に伝えるタイミングではない。
彼がキツカ以上に育った、この孤児院で生活してる子供達に、お菓子作りを教える任務があるから。
「はい。皆さん、手はちゃんと洗いましたか?」
『はーい( ´ ꒳ ` )ノ』
元気に返事をしてくれた子供達は、皆いい笑顔だ。
普段はここの職員じゃないらしいんだけど、子供達とも顔見知りらしいのか。特に、フェリクスさんの周りには子供達が群がっていた。
結構人気なのかも?
「では、今から教えるお菓子は。私が育ったホムラ皇国の『おまんじゅう』をヒントにした、カライモで出来る簡単なおまんじゅうです。芋まんじゅうと言います」
この調理場は、子供達の教育訓練の一つで家庭科教室に近い設備がある。
卓はそう多くないが、中学のひとクラス分の人数だけの参加なので、なんとか組み分けは出来ている。
乳飲み子とか、まだ赤ちゃんくらいの子供達は、参加したくても厳しいので、マザーや職員の人達と別室でお留守番らしい。
今ここにいるのは、だいたいが小学生以上の子供達。
間の、幼稚園児くらいの子達はたまたまいないようだ。
「材料の下ごしらえは、既に終わってます。皆さんには混ぜたり、火を通す手前までに挑戦してもらいますね? 難しくはないんですが、怪我の可能性もあるので」
『はーい!』
「良い返事です。作り方は、説明もしますが。一度この紙を見てください」
黒板がわりのボードはあるけれど、シュライゼン様が『俺が持つ!』と挙手してくださったのでポスター以上に大きい紙を彼が持ってから、子供達には前に来てもらった。
【芋まんじゅうの作り方】
<材料>
カライモ
蜂蜜
小麦粉
<道具>
フライパン
深めの皿
大皿
蝋で加工した紙
スプーン
ボウル
<作り方>
①皮をむかずに、イモの泥を水で丁寧に洗い落とす。
②根の部分を包丁で切り、大人の指ほどの幅に輪切り。そこからサイコロ型に切る。(図を参考に)
③切ったら、水に少しの間つけておく。
④ザルに上げて、水気をよく切る。
⑤ボウルに入れて、蜂蜜をかけてよく混ぜる。
⑥小麦粉を入れて、どろっとするまでよく混ぜる。
⑦フライパンに少なめの水を入れて、火にかけて泡が立つまでわかす。
⑧用意しておいた底の深いお皿をお湯の中に置く。その上に大皿、紙を敷く。
⑨スプーン二つで形を整えながら、紙の上に乗せていく。(生地同士をくっつけないように)
⑩ふたをして、イモに火が通るまで蒸す。(15分くらい)
子供にもわかりやすいように、だいぶ砕けた言葉で書いてみたが。
中には12歳くらいの子供もいたので、大丈夫だと思う。
それと、職員も組に一人は付いているので、わからない事があれば聞けばいい。
手本を見せようかと始めは思っていたが、シュライゼン様が『自分で作ったのを見てもらいたい』と言われたので、ここは省略。
まあ、おそらく蒸し時間がそこそこあるから、もあるだろうけど。
「わからない事があったら、私やシュライゼン様達に遠慮なく聞いてください」
『はーい』
「では、やけどには注意して始めてください!」
そこからは、もう見ててハラハラドキドキだった。
年齢バラバラの子供達が、自分がやる!と言い出したり、ボウルの奪い合いとかはまあ予想通りで。
生地をパラフィン紙に落とす感じがうまくいかなかったりとか、味見して芋の無味で吐きそうになったりとか。
女の子はまだ良かったが、男の子でも小学生低学年くらいは、もうやんちゃ真っ盛り。
フェリクスさんが、意外にも率先して叱ってくださって、事態は収拾を迎えたけど。
やはり、卒業生だからか、子供達の扱いが上手い。シュライゼン様よりも、うまいかも。
「はい。蒸す間は、全員でお片づけをしましょうね?」
『はーい( ´ ꒳ ` )ノ』
まあ、洗い物はほとんどないに等しいけども。
が、蜂蜜と小麦粉だけの生地は結構頑固な汚れになるので、普通のスポンジでこすってもなかなか取れない。
さすがに、ずっと格闘してもらうわけにはいかないから、これだけは見本に
「洗剤の泡だけでは取れない汚れも多いんです。だから、こう言うのには少し熱いお湯かぬるま湯にしばらく浸しておいてください」
「おねーちゃん、取れるの?」
「うん。ほかの洗い物が終わる頃には取れるから」
7歳くらいの子供に聞かれたので答え、そのやり方で洗い直せば、少し緩まって生地の部分が綺麗に剥がれた。
「すっげ!」
「これ、他でも出来るの!?」
「うーん。マザー達の方がご存知かもしれないけど、シチューの鍋を洗う時とかにも?」
『本当ですか!?』
「……あれ?」
てっきり知ってるかと思いきや、根気よくこすってたのかもしれない。
つまりは、
しまった〜、と悠花さんを見ても苦笑いされただけで済んだからほっと出来たけど。
片付けを再開してからは、15分もあっという間で。
職員やマザー達が、それぞれのフライパンを開けてみれば。
見てくれは少々悪いが、竹串ならぬ長楊子を刺して芋の火が通っていれば完成。
私は紙を切り分けたが、ここはお皿をそのまま卓に置き、一番大きい子供が紙から引き剥がした。
「だいぶ熱いですが、出来立てが一番なので食べましょう!」
『はーい!』
お昼ご飯をあれだけ食べていたけれど。
鬼まんじゅうのいい匂いとデザートは別腹なのか。
皆やけどに注意しながらも、美味しそうに食べてくれました。
「「「「すっごい、甘〜い!」」」」
「なんか、生地が面白いよ!」
「お芋、ほくほくー」
「こんなに簡単に出来るんだ!」
『チャロナお姉ちゃん(さん)、ありがとうございました!』
「どういたしまして」
私の、前世での思い出の味。
再現出来たのも嬉しいけど、子供達の笑顔を引き出せるきっかけになれて良かった。
それからは、自分の班で余った分を私達にも分けてくれて。
充分及第点の味に満足していると、水色の髪の女の子が、私の前にやってきた。
「チャロナお姉さん!」
「はい?」
「このお菓子教室、またやってほしいです!」
真剣な目。
9歳くらいの女の子だけど、意志は固いようだ。
それと、彼女の発言がきっかけで他にいた子も黙ってしまい、私を見つめてくる。
この質問は、予想してなかったわけじゃなかったけど、一度シュライゼン様に目配せした。
すると、彼もわかっていたのか大きく頷いてくれた。
「お姉ちゃんも仕事があるから、すぐには無理だけれどまた出来るように考えておくよ!」
『わーい(⌒▽⌒)!!』
彼の答えに、子供達全員が両手を万歳して喜んだ。
「俺、パン覚えたい!」
「僕も!」
「私も!」
「けど、それじゃぁお料理教室じゃない?」
「それでもいい!」
「こらこら、パンはまだ難しいんだぞ? お菓子も立派な料理なんだぞ?」
『はーい……』
たしかに、パン作りは子供教室でもあるにはあったが。
せめて、ドーナツなら出来るんじゃないかなぁと、あとでシュライゼン様には伝えようと思った。
何はともあれ、ミッションは無事成功だ!
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