20-3.確信を得たい
*・*・*
どうして、子供達全員が私を見るなりぽかーんと口を開けてしまったのかわからないけど。
とりあえず、シュライゼン様に紹介はされてしまったから自分も名乗ろう。
「ご紹介にあずかりました、チャロナ=マンシェリーです。本日、皆さんに召し上がっていただいたパンを、僭越ながら作らせていただきました」
シュライゼン様の横で、出来るだけ失礼の無いように挨拶すると、壁側に立っていたマザー・ライアが拍手をしてくださった。
「皆さん。チャロナさんにきちんとお礼を言いましょうね?」
その言葉と拍手に、子供達全員が我に返ってくれたのかすぐに大袈裟なくらいの拍手と歓声を上げてくれた。
「すっごい美味しかった!」
「これ全部おねーちゃんが作ったの?」
「僕達にも作れますか?」
「教えてください!」
「「おせーてください!」」
最初の子が皮切りになってしまったのか。
立ち上がったかと思えばどっと押し寄せてきて、抱きつくのは我慢してくれるのか、あと一歩のところまでわらわらと集まって質問責めをしてきた。
パワフルな子供ならではの好奇心。
ホムラの孤児院にも負けない元気な子供達がここにもいるんだ。色んな理由で親許から引き離されてしまったが、支援してくださってる人達のお陰で、こうして笑顔で居られる。
その中には、隣で子供達の頭を撫でてやってるシュライゼン様もいるからか。
「うん。今日はパンじゃないけど、小麦粉を使ったお菓子を作るよ? おねーちゃんの言うことが守れたら、美味しく出来るから」
『(⌒▽⌒)わーい!』
保育士さんとか、前世の子どもパン教室からとった杵柄だけど。
意外に役に立っている。
顔文字が浮かんじゃうくらい、皆いい笑顔になったもの。
「じゃあ、俺達は準備してくるんだぞ! 残さず食べれた子だけ参加権があるんだぞ!」
『はい!』
さすがは、ご自分も好奇心旺盛だからか。
子供達の扱いが実にうまい。いや、ここを支援されてる方だから、視察に来るのが多いかも。マザー達とも古い仲だって言ってたし。
子供達も言う事を聞いて、大人しく席に戻ってからまた食べ始めてくれた。
嬉し涙はもう無いが、満面の笑みで。
作った甲斐があったなぁって、改めて思った。
「じゃー、俺達もマックス達のとこに行くんだぞ」
「そうですね」
実は、
代わりに、お願いしてる事を厨房でやってもらっているのだ。
なんでも、知り合いの職員さん達と一緒に。
あと少しで到着すると言うところで、扉が少し開いてたせいか騒ぐ声が聞こえてきた。
「オーナー、まだ切んなきゃダメなの〜!?」
「あちしも疲れてきた……」
「やれ。終わるまでやるしかない」
「そうよん。あとちょっとなんだから!」
なんだか、疲れてながらも楽しそうな雰囲気。
それと聞き覚えのある話し方から、もしや……と隙間から覗くと。
服装は、悠花さん以外孤児院の男性職員と同じだったけど。
「ずーっと芋の角切りって、つーかーれーるぅう!」
「黙れ。子供には危険だから、俺達がするんだろうが」
「あんたは普段から厨房にいるから慣れてるやろうけど、あちきらはこんな細かい作業慣れてないんやから!」
一人を除いて、口調と雰囲気があのお店の人達と同じだった。
もしかして、ここの職員の人もミュファンさんのお店で働いてるんだろうか?
「お疲れなんだぞ! 人手が多いのは嬉しいが……なんで君達までいるんだい?」
今回は空気を読まないシュライゼン様が、先に突撃されてしまったが。
どうやら、悠花さん以外の人達は、ここの職員さんじゃないみたい。
悠花さんとレイ君は手を止めていなかったが、他の三人の男の人は思いっきりため息を吐いてたもの。
「あー、出来上がったらずらかるつもりが……」
「あの……皆さん、ミュファンさんのところの?」
「おじょーちゃんにバレたやないの? フェリ」
「お前だってうっさかっただろーが!」
「お前達二人ともうるさい!」
「シュー、あんたも結構うっさいわよ?」
「…………すみません」
フェリ、と呼ばれたのがかなりいかついが男前な人。
なんでか関西弁のような口調の人もいて。
悠花さんにちょっと叱られたシューさんって人は、すっごく綺麗。
ミュファンさんとはタイプが違うけど、男装の麗人って感じ。思いっきり男の人なのは、口調で判別出来たけど。
(…………あれ、なんでかな?)
彼だけ、少し懐かしい空気をまとってるように見えたのだ。
すぐに話しかけてみたかったが、いつ子供達が来てもおかしくないので、今は仕事に専念しよう。
「チャロナ=マンシェリーです。この間はありがとうございました。それに、今日は下準備も手伝ってくださって」
「あたしが、ちょっと呼んでおいたのよー。これだけの芋のカット、レイと二人だけじゃ無理あるもの」
「ほんと、お疲れ様!」
せっかくだから、試作も兼ねて作ってみよう。
水にさらしてある芋を適量ざるに上げ、粉をパパッと計量してからタネを作っていく。
「チャロナ〜。今日のお菓子、本当にこれだけで作れるのかい?」
「不思議に思うでしょうが、安心してください。面白い食感のお菓子が出来上がります。悠花さん、フライパンでお湯を少し沸かしてもらっていーい?」
「いいわよ〜」
カットしてもらった芋に、適量のハチミツを加えてボウルの中で混ぜ。
絡まったら、小麦粉を加えて多少どろっとするまでまぜるだけ。
湯が沸いたフライパンに、少し深さがある大皿を入れてから。
「これに、蝋で加工してあるパラフィン紙を敷いて……スプーンで生地を軽く整えてから紙に乗っけていきます」
蓋をして、待つ事十五分程度。
三人にも、『
フェリさんが一番驚いてたけど、悠花さんが無視していいって言うから今のうちにお片づけ。
「
「「「「「おおおおおお!」」」」」
「これが……まんじゅう?」
歓声が上がる中、シューさんだけは一人疑問に思われていたが。
やっぱり、
今のところ、和食にも似た文化があるのは、あの国だけしか私も知らないけど。
「熱いですけど、下の紙を切り分けますね?」
でも、今は聞けない。
もう一つの可能性を思うと、きっと泣くだけで済まなくなるからだ。
だから、出来るだけ平然を装って、私は全員に芋まんじゅうこと『鬼まんじゅう』を配った。
「いっただきまーす!」
真っ先に食べ始めたのは、シュライゼン様で。
最初ははふはふしてたけど、まんじゅうをよく噛んで食べてからお顔がぱあっとなっていく。
「もちもちしてるし、甘くて美味しいんだぞ! 芋もこんなに美味しいなんて!」
「ほんと、美味し!」
「『「うっめ〜〜……」』」
「…………少し、ほっとする味だな」
シューさんの安心したような表情と、声に。
やっぱり確信を持ちたかったが、どう切り出していいのかもわからない。
【ご主人様ぁ〜いいんでふか〜?】
『ロティ?』
いきなり、テレパシーでロティが話しかけてきた。
鬼まんじゅうが食べたいかと聞けば、そうではないと返されてしまい。
【あのおにーしゃん、知ってりゅ人かもしれにゃいんでふよ?】
感覚を共有しているからか、全部バレバレだったようだ。
たしかに、この後もシューさんが作業に加わってくれるかもわからないし。
次にあのお店に行くのもいつになるかわからない。
モヤモヤのまま、抱え込んでても辛いのは自分だ。
うじうじしてないで、やっぱり確かめようと決意して三人の元に向かった。
「あ、あの」
「「「ん??」」」
全員まだ美味しそうにおまんじゅうを食べてくださっているが、もう決めたからには切り出す事にした。
「シュー……さん、に。聞きたいことがあるんです」
「…………なんだろうか?」
間違ってても、いい。
きっと、知り合いかもしれないから。
だから、言うと決めた私は、大きく深呼吸をした。
「ホムラの……キツカ孤児院にいた時、ちょっとだけ在籍してた『シュィリン=ミコトノ』さんですか!」
「え、チャロナちゃんこいつ知ってたの!?」
「何よ、シュー! あんたチーちゃんと幼馴染みとかだったの!?」
皆の反応に、あってた……と安心して力が抜けそうになったが。
シューさんが、慌てて床に座わりそうだった私の腕を掴んでくれた。
「…………久しいな、チャロナ」
「っ……リンお兄ちゃん!」
たった一年だけ、一緒に過ごしてたお兄ちゃんとこんな形で再会出来るとは思わなかった。
だけど、一個だけ確かめたい事はあった。
「お兄ちゃん、女装とかが趣味だったの!?」
「違う、あれは仕事だ!」
どうやら、完璧に悠花さんと?同類ではなかったようだ。
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