18-3.カレーパン作り②と実食①

 分割した生地の個数分包み終えたら。


 成形の仕上げの中でも、大事な工程に移ります。



「今回のパンは、焼くのではなく『揚げる』ので重要なポイントになります」


「ほう! パンを揚げてしまうのか」


「なので、私が見本を見せた後に、エイマーさんには用意していただきたいのがあるんですが」


「遠慮なく言っていいとも」



 ころころとおまんじゅうのように包んだカレーパン達。


 これを手に一つずつ持って、打ち粉を振った台の上に閉じ目を下にして置く。


 そして、せっかく可愛く包んだそれを軽く上から押して少しひらぺったくするのだ。



「中の余分な空気を抜くのと、この形じゃうまく揚げれないからです。揚がると、コロッケのような見た目になります」


「……と言うことは、これの表面にも『パン粉』を?」


「はい。私も出来次第お手伝いしますので、作ってもらえますか?」


「わかった」



 パンは不味いのが、【枯渇の悪食】により染み付いてしまったこの世界の常識。


 だけど、捨てるのはもったいないので。古くなったパンをすりおろしてパン粉にする文化が、セルディアスでもホムラでも存在しているのだ。


 誰が最初に言いだしたかはわからないが、お陰でコロッケなんかのお惣菜は味の優劣はあれど庶民の食卓には人気の一品。


 私も、冒険者だった頃はパーティーの子達によく作っていた。


 このお屋敷に来てからは、コロッケサンドを今朝のお弁当に入れたところ。いつも以上に美味しくて、サイラ君の伝言によればリピーター続出らしい。


 これは是非、カツサンドの反応も知りたくなってきた。


 そこはいいとして、エイマーさんがまだ彼女とシェトラスさんが練習で焼いたパンを使ってパン粉を作ってる間に、私は成形をしていく。


 ロティは、少し分けておいたカレーのフィリングを残ってた白パンに付けて食べていた。



『おいちーでふぅ。お子ちゃま向けにゃら、ちょうどいいでふぅ!』


「この世界基準の辛さって、私よくわかってないしね。ホムラは異常だし」


『辛口、ひ〜はぁ〜!』


「そのネタ……私の記憶から見つけた?」


『テヘペロ〜☆』



 可愛いだけじゃなく、お茶目さんとは……やるな、この妖精赤ちゃん。


 レベルアップしたお陰で、少し自我も成長した証拠なのだろうか?


 ロティの次のレベルについては、製造のPTを少しずつ貯めてることで経験値が加算されてるから、コロンのようにすぐには貯まらない。


 地道にいくしかないけど、私はお母さんじゃないが大きくなって反抗期になってしまうのではと少し心配。


 複合のせいで、負担はかけちゃったけど……AIな精霊でも基本的にいい子だから。泣く以外に、怒った感情ってあんまり見てないからね。



「よし、出来た」



 見た目、長野県のソウルフードと言われてる『おやき』に近い厚み。


 これをロティに出してもらった天板の上に乗せ、少し台の上を綺麗にしておく。


 次に用意するのは、水を入れたボウル。


 それと、エイマーさんが少し作ってくれたパン粉を入れたボウルだ。



「試作なので、このパン粉だけで作りますね」


「衣のつなぎがないようだけど、水だけで?」


「場合によっては、卵白でもいいそうなんですが。今回はこれで」



 片手にカレーパン。もう片手はパン粉の上でスタンバイ。


 持つ時に、真ん中をくぼませないように注意して。


 水の中にさっとそれを沈めて、すぐに引き上げてからパン粉のボウルへ。


 空いてる手で、パン粉を素早くかぶせて、軽く払ってから天板に戻す。


 この工程をどんどん繰り返していく。



「エイマーさん、シェトラスさんにフライヤーお借りしていいか聞いてもらえますか?」


「わかった」


「揚げるって言ってたから、低めに温めておいたよー?」


「「ありがとうございます」」



 さすがは料理長。仕事が早いです。


 シェトラスさんも仕込みがひと段落ついてから、全員でフライヤーの周りに集まった。



「今回のパンは、二次発酵させずに揚げられるんですが……お気づきかもしれませんが、ここでコロッケのような問題点が出てきます」


「「…………爆発する?」」


「正解です」



 できるだけ均一に生地を伸ばして、薄皮にならないようには気をつけてるけども。


 気をつけていても、身割れして中身が飛び出たり、うまく揚がらないのはパートさんでも普通だった。


 私が揚げることもあったけど、慣れてきてもそれは同じで。


 異世界に転生してしまった今も、二度目の人生で初のカレーパン作り。


 ここが、一番緊張してしまうのだ。



「……まずは、パン粉を少し落として適温か確かめて。大丈夫なら、カレーパンを入れます」



 試作なので、四つ。


 うまく出来たら、カイルキア様達にも食べていただく予定だ。


 今は行く事はあまりなくとも、彼が幼少期を過ごした場所の一つだもの。


 どんなパンを届けるか、確かめてもらう必要もあるから。


 カレーパンは、入れた途端シュワっと音が聞こえて、ひっくり返ることもなく、底から揚がっていくようだ。


 第一段階、無事に成功だ。



「具材に火は通っているので、外側がキツネ色に揚がれば大丈夫です」


『カレ〜カレ〜カレ〜パン〜〜っ』


「もう少しだからね?」



 タイミングを見計らって、トングでひっくり返しても柔らかくなっていた生地が割れることもなく。


 綺麗な綺麗な黄金色に揚がったカレーパンは、無事にバットの網に乗せることが出来ました。



「熱々のうちにいただきましょう!」


「「うん!」」


『でっふでっふぅ!』



 残ってたカレーパンは、無限♾収納棚に天板ごと入れておき。


 片付けを大雑把にしてから、せっかくなので小部屋でいただくことにした。


 一人一つ。


 包み紙も忘れない。


 ナイフとフォークで食べてもいいかもしれないが、パンは基本手づかみだから、これも経験してほしくて。



「うん。香ばしいパン粉の香りに……微かだが、色んな香辛料の香りもするね。これは、とても楽しみだ」



 シェトラスさんからお褒めの言葉をいただいてから。


 いざ、熱々のカレーパンに全員でかじりつく!



「ほっふ! お、美味しい!」


「素晴らしいね! もう少し辛くてもいいだろうけれど、食欲をかき立てるこの甘味とコク。一個じゃ物足りなくなりそうだ」


「ですね、料理長!」


『あちゅあちゅ〜〜おいち〜でふぅ、ご主人様ぁ〜〜〜〜!』


「うん、美味しい!」



 外はサクッと。


 中の生地はモチっとしてて熱々になったカレーがパンとよく合う!


 たしかに、この世界の辛さの基準に合わせたら物足りなく感じるが、甘めのカレーなら十分!


 それに、シェトラスさんの言う通り、一つ食べたらいくらでもほしくなっちゃう!


 まさに、揚げ物の醍醐味だ。





【PTを付与します。




『サクッと熱々カレーパン』



 ・製造30個=450PT

 ・食事1個=45PT





 レシピ集にデータ化されました!





 次のレベルUPまであと200456PT




 】





 今、私のレベルは18。



 食事以外に、製造で細々と上げてきたが、ここ数日は同じものを作っている事が多いから経験値ががっぽり入るわけじゃない。


 明日のいっしょに作る予定でいるお菓子もだけど。


 一度試作してPTを先に確認しておこうかな?



「じゃ、全部揚げてから旦那様方にお出ししてきますね!」



 食堂にじゃなくて、直接執務室に運んで欲しいと朝言われたので急いで揚げてしまう。


 悠花ゆうかさんとレクター先生も一応居ることになっているので、男の人だから一人二個。


 熱々が美味しいから、ワゴンじゃなくてこれも無限♾収納棚に入れてから徒歩でロティと向かう事にした。


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