17-4.第一回パジャマパーティー②






 *・*・*








 真っ赤っかになっちゃったエイマーさんは、それはもう慌て出してしまった。



「え、エピア! な、ななな、何故、チャロナくんに言ってしまったんだ!」



 耳どころか、首まで真っ赤に染め上げてしまい。


 恥ずかしさも増していくにつれ、まるで私達くらいの女の子のような慌て方になっていく。


 終いには、ベッドにある枕の一つで顔を隠しながら埋まってしまった。お尻全然隠れていないんだけどね?



「あ、あの……でも、そうかなぁ?って気づいたのは、自分でなんで」


「なっ! 私はそんなにもわかりやすかったのか!」



 そろーっとエイマーさんを覗き込みながら言うと、彼女はすばやく振り向いてくれたが。


 こちらが申し訳なくなるくらい、顔は真っ赤で涙目になってしまってた。



「え……と、チャロナちゃんが気づいたの……エイマーさんが、馬車でマックスさんを褒めてた、時らしいです」


「ああ! しまった!」


『でっふでふぅ! しゅきしゅきでふたぁ!』


「ロティくん、言わないでくれ! 思い出しただけでも恥ずかしい!」



 どうやら、あの褒め言葉の攻撃?は無意識によるものらしく。


 思い返すと、悶えるで済まなくなったのかまた枕で顔を隠してしまった。



「ああもう! こんなおばさんに好かれてはマックス殿も困るだろうに!」


「ん?」


「え」


『でっふぅ?』



 エイマーさん、何か盛大に勘違い?、いや、思い込みをされている?


 たしかに、この人は私達やマックス悠花さんよりは断然年上だけど。


 まだまだ20代のはずだから、『おばさん』ではない。


 むしろ、クールビューティでメイドの少し若い先輩達からも憧れの人と思われてるのに、年増だと自分で思ってたのか。



「失礼ですが、エイマーさん」


「な……なんだい?」



 そろっと顔を出してくれた彼女の顔は、まだ赤いし涙目だけど、少し少女のようなあどけなさを感じた。



「メイミーさんのお年も伺っていないんですが……おいくつなんですか?」


「…………………………………………26、だ」


「全然お若いです!」


『でっふぅ!』



 たしかに、年齢だけじゃアラサーの手前でも十分若い!


 今の悠花ゆうかさんと年の差はそこそこあるけど、問題ない。見た目だけなら、悠花さんの方が体格すっごいし年上に見えるもん! こんなこと本人の前で言ったら怒られるかもだけど。



「若い?……だろうか」


「わ、私も、思います。お、お似合い、だと思います」


「え゛」


「うんうん。私もそう思います!」



 と言うより、エピアちゃんもだがエイマーさん達も両想いなんだからくっついちゃえ!と思うんだけど。



「…………だが、無理だよ。私は豪族のアークウェイトでも傍流に近い。身分差が大き過ぎるんだ」


「? あれ? ゆ……マックスさん、貴族じゃなくても養子に入っちゃえば、結婚とか問題ないって」


「そ! それは、たしかに……間違ってはいないが」



 どうやら、悠花さんはぜーんぜんと言っててもこの世界の大半の認識は違うようです。


 エイマーさんは、顔を隠すのをやめて、枕を抱きしめながらぽつぽつと話し出した。



「彼の母君の場合は、たしかにそうだったよ。だが、マックス殿は貴族の後ろ盾も強固過ぎるが……一人の人間としても魅力が高い。なにせ、わずか数年でSSランクの冒険者になってしまったんだから」



 たしかに。


 悠花さんの今の人生は、順風満帆に近い。


 転生特典のチートのお陰で魔力は高く、戦闘能力もお家の関係で訓練しまくってほぼほぼチート。


 外見も、男らしい体つきに女性が羨むくらいのイケメンさんだ。


 年齢もモテ期真っ只中だし、エイマーさんくらいの年の差だと、悩むのは無理ないかもしれない。



「それに……古い付き合いとは言え、こんな年上で未だに恋人もできた事がない女など迷惑だろうに」



 いえ、実はあなたが好きなんですよあの人。


 エピアちゃんとロティもそう思ったのか、全員返事はしなかった。



「随分と、長いお付き合いなんですか?」


「わ、私は……旦那様のご実家にいらした時からしか、聞いてないかな?」


「ああ、そうだよ。私が大旦那様の元で働くようになった年……かれこれ17年前だろうか」


「もう幼馴染みじゃないですか!」



 悠花さんがいつから好きだったかはわかんないけど、あの人もよく耐えたな!



「お、幼馴染み? それは、旦那様やシュラ様達じゃ」


「いやいやいや? 身分差はありますけど、レクター先生だって旦那様とそうじゃないですか」


「まあ……彼は身分が低くとも貴族だけど。そうか……私とマックス殿も」



 自覚されたのが、めっちゃ遅いけど。


 これで少し前進出来たかな?



「こうなったら、エイマーさんも言えるように頑張りましょうよ! 身分差問題はたしかにありますけど、解決策も全くないわけじゃないし。ずっとずっと気持ちを抱え込んだままでいるのもよくありません! 当たって砕けろとまでは言いませんが」



 むしろ、悠花さん本人はいつでもウェルカム状態だし、二人の気持ちを考えると成就してほしい。


 エピアちゃんの場合、まだ少し猶予があるから大丈夫だけど。



「いや……けど。こんな年上はやはり」


「一回りも上じゃないんですから、大丈夫ですよ!」



 勝手な想像と前世の知識もあるが、年の差婚なんてすごくて当然。


 下手すると、親子の年の差くらいいてもおかしくないから。



「エイマー、さん。頑張り、ましょう? 私も、頑張ります……から」


「…………エピアに言われると、頭が痛い」



 さっきまで議題に上がり、自分なりにアドバイスしてしまったからエイマーさんも何も言えないのだろう。


 すると、彼女は少し長めのため息を吐いた。



「彼が魅力的になるにつれ……こんなおばさんが側にいては、将来のために邪魔になると思って身を引いていたんだ。だが、それはただのエゴだったようだね」


「おばさんじゃないです!」


「で、です!」


『おねーしゃん、綺麗きれーでふぅ!』


「ふふ。ありがとう。少し話せて良かったよ。けど、行き遅れには変わりないんだがね」



 たしかに。


 この世界の適齢期は、成人年齢が高校生くらいなのでだいぶ早い。


 それを思うと、エイマーさんはある意味行き遅れ。


 だけど、好きな相手が居たんだからしょうがないもの。



「しかし、参ったなぁ。実は、大旦那様から見合いはどうだとおっしゃられて……会うだけ約束してしまったんだよね?」


「何でですか!」


「いや、すまない。君が来る前に決まった事だから」



 悠花さん大ピンチ!


 これは明日のパン作りを急ピッチで終わらせて作戦会議を開くしかないではないか!


 パジャマパーティーも、明日の仕事が全員早いのでもう寝なきゃいけないからお開きになり。


 私はもんもんとした気持ちを抱え込んだまま、寝るしかなかったのだ。








 *・*・*(エイマー視点)






 三人が寝静まってから、私はベッドから体を起こした。


 広いベッドの中で、私が一番手前。真ん中がチャロナくんとロティくん。奥がエピア。


 それでも、この客間用のベッドは広いので寝返りを打っても平気だが。


 三人がよく寝ているのを確認してから、私はくすりと笑いをこぼしてしまった。



「君が、一番大変だろうに。優しい子なんだね」



 この屋敷の人間もだが、チャロナくんの『本当の身分』を知っていても、誰も何も言わない。


 何故なら、彼女の本当の家族の事をよく知っているからだ。



「まあ……シュラ様はシュラ様だからな」



 旦那様の従兄弟であり、この国の王太子。


 そして、チャロナくん……いや、マンシェリー姫様のお言葉を借りれば、彼とも幼馴染みかもしれない。


 異世界では、身分差は多少あってもこの世界程じゃないと、昔マックス殿も言っていた。


 この方も、きっとそう思われたのだろう。



「…………貴女様も、いつか恋い慕うお相手と結ばれますように」



 思い当たるのは、旦那様のカイルキア様だが。



(料理長から、極秘に伝えられた旦那様の任務が…………いい方向になれば良いのだが)



 戦争の真っ只中で、チャロナくんマンシェリー姫様に一度お会いした時にも聞かされた。


 この方はいずれ、カイル様か侯爵までの子息の中から婚約者が決まると。


 あの時は、今よりもずっと素直だったカイル様は自分だと言ってらしていた。



「…………『チャロナくん』も、拾われたからか、一番信頼を置いているしね」



 ヒナの刷り込みのようなものかもしれないが、二人に幸あれと思わずにはいられなかった。

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