17-3.初恋との出会い(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









 泣いている女の子。


 わかったのは、体格と髪の長さのお陰だ。


 顔だけだと……中性的過ぎて小学五年生くらいの見た目だからわかりにくいのよね。



(それにしても。使用人にしちゃ綺麗過ぎるわ、この子!)



 でも、あたしの声を聞いても顔を見ても、涙を流したままぽかんとしてるだけだった。


 と言うことは、シュラが会わせようとしてた子なのかも。


 もう一つ確信を持てたのは、子供サイズの白のコックスーツを着てたからなのよね。なんでか、右肩だけ酷い土汚れなんだけど。



「…………君は?」


「僕? 僕、マックス」



 シュラとか、事情を知ってる連中の前以外では、基本的に猫は被ってる。


 一応貴族でも伯爵の長男だし、まだガキンチョだし。


 色々面倒事は多いけど、これも処世術の一つだ。


 出会ったばっかのこの子の前でも、オネエか女の口調でいるわけにはいかないからね。



「マックス……くん? 失礼だが、家名を聞いても?」


「ユーシェンシー」


「!?」



 あ、この子、名前で勘付いても確認が取りたかったようね?


 別にいいけど、その後の反応がなんとなく予想出来るな〜と思ってたら。



「と言うことは……シュライゼン殿下がおっしゃっていた面白い男の子!」


「ぶ!」



 あいつ、転生者の事は伝えてないようだけどなんか言ったわね!


 どうやら、この子は使用人でも王子のあいつとは仲が良いようだけど……泣いてる理由ってまさか?とあたしは疑い始めた。


 それを聞くためにも、坊や口調はここでおしまいだ。



あたし・・・の事、どこまで聞いてんのさ」


「おお。本当に女性の言葉を……? 前世の記憶持ちとも伺っていたが」



 ほとんど全部話したんかい!


 あとでシュラには問い詰めてやりたいとこだったが、質問はまだまだあるからツッコミは後だ。



「あたしは、享年26歳だから中身だけは大人よ。あんたが、シュラの話してた……最近入ったカイルん家の調理見習い?」


「! 名乗らずで申し訳ない。エイマー=アークウェイトと申します、10歳です」


「ああ、あのやり手の資産家なアークウェイト?」



 今の親父がかなり関心を持っている豪族の事だ。


 別に豪族の娘が、貴族の使用人になるのは不思議じゃない。ただ、なんで料理人なのかは疑問が浮かぶ。


 髪は年齢的には短めだけど、メイド見習いにいてもおかしくない顔立ちなのに。



「伯父上をご存知で。私は少し遠縁なので直系ではないんですが」


「そうなの? あ、うちが伯爵でもあたしはまだ見た目坊主だし、年下だから敬語いいわよ」


「し、しかし……」


「面倒いから、やめて」


「はあ……」



 それよりも早く、あたしはこの子が泣いてる原因を知りたかった。


 だって、この口調になっても引くどころか関心してるようだし。


 二度目の人生で初の、ちゃんとした女友達が出来るチャンスを逃すものですか!



「んじゃ、こうしましょう。二人でいる時はあたしの事『ユーカ』って呼んで。前世の名前だけど、それなら気負わないでしょ?」



 超無理くりなのは承知の上だけど、これくらい心を開かなきゃエイマーって子は折れてくれないだろうから。



「……………………わかった。折れたよ、ユーカ」



 あたしの今が貴族のボンボンだから受け入れたかもしれなくても。


 これで女友達ゲット!


 おまけにボーイッシュな美少女だから、余計にウハウハしちゃうわ!


 なので、立ってるのは疲れたからそそくさとエイマーの横に腰掛けた。



「んで? せっかく友達になれたんだから、その涙と肩の汚れの理由聞いてもいいかしら?」


「…………酷く、情け無い話さ」



 そっから聞いた内容じゃ、胸糞悪いだけで済まなかったわ! シュラと仲が良いとか関係なかった!



「はぁ!? ガキだからって、胸でかいののどこが悪いのよ!」


「ゆ、ユーカ! そんなにも声を荒げると誰かが来てしまう!」



 エイマーの泣いてた理由と、肩の汚れは。


 子供でも胸の発育がいいから、ほかの見習いの男らにからかわれたんだって。


 それだけじゃなく、わざとぶつかって胸が偽物じゃないか確かめられた上に、こけさせてバウンドしないかとかいじめられたらしい。


 怪我がなかったにしても酷い話だわ!



「いいわよ、来たって。この身体でも既にじい様や親父から戦闘訓練受けてんだもの!」



 生意気な、自分ちの使用人のガキ達くらいコテンパンに出来るからね!


 今じゃ、何故かこっちが年下なのに『兄貴』とか呼ばれてんだけど……。



「そ、そうなのか? しかし、危険だから私としてはやめてほしいんだが……」


「いいわよ、そんくらい! 友達が泣かされて、黙ってられないのは男でも女でも関係ないもの!」


「!?…………あ、ありがとう」



 ちょっと驚いたようだけど、やっと笑顔を見せてくれた。


 うんうん、美少女の笑顔は目の保養よ。


 あたしは今男だけど。顔が今の親父に似てるから、将来は有望されてるのよね……。体つきまで似たくないわ、特に三世代と同じとかは!



「これは前世の知識だけど、発育は個人差大きいから年齢とか関係ないわ。窮屈になる前に下着はこまめに変えた方がいいわね。将来垂れちゃうのは良くないわ」


「そ、そうか。君は、本当に前が女性だったんだね……」


「まあね!」



 そこからしばらく。


 戦争が始まる前までは、身分差はあれどシュラ達とは違う幼馴染みとして育ったのだ。


 あたしと友達になってからは、人前では『マックス様』とか呼んでたけど……時間が経って、エイマーが自分に自信が持てるようになってからは敬称が今のように変わった。


 髪もまた少し短くなって笑顔も増えたけど、二人とかシュラ達がいる前ではあたしを『ユーカ』と呼んでくれて、話すのも遊ぶのも年の差とか関係なかった。


 それがいつからか。


 あたしが、この世界の成人年齢に近づくにつれ、少しずつ距離を置かれるようになった。ユーカも、少しずつ呼ばれなくなってしまう。


 そう気づいたのは、12になる前。


 それよりずっと前に、もうあたしの中ではエイマーは『女友達』じゃなかったけど。







 ▶︎・▷・▶︎







「……あたしを受け入れてくれて、あの子も綺麗になっていくから。誰かに取られるんじゃないかと思ってたわね。好きになったきっかけって」



 ベッドに横になりながら、ひとまず振り返ってみても……残念ながら、四六時中一緒だったわけじゃないので、レクターが言うような事が思い当たらない。


 酒も飲むの止めたし、今は頭も冴えている。


 一応冷静にはなれてきたが、一人で悶々と考えてても答えが出てくるわけじゃない。



「チーちゃん見つけられなくて、カイル達が戻って来てからは……まあ、普通だけど」



 今日のようにべた褒めすることもあれば、こちらがはしゃいでもスルーするばかり。


 第三者から見れば仲が良いように見えるだろうが……距離を置かれてるのに変わりはない。


 やっぱり、レクターの言うように、『身分差』を意識されてるからかもしれないわね。



「それと……ここにはいなくとも、カイルの実家で何かあったか」



 エイマーは、ずっとカイルに仕えてきたからこの屋敷には選抜メンバーとして引き抜かれただけ。


 全員が全員、募集をかけて集めたのを選りすぐったわけじゃないわ。


 チーちゃんもある意味その一人ではあるけど。彼女の本当の在籍理由は『王女の保護』。


 いつか、シュラ達がいる王家に戻るまでの、準備が整うまで王弟の息子であるカイルの手元に置いてるわけ。



「じゃないない。チーちゃんのことは今は関係なかったわね」



 いや、今考えてるエイマーがあの子の部屋にいるんだけど。


 さすがに、押しかけられないわよ。


 いくら好きな相手と、マブダチが一緒にいても、今日のメインゲストのエピアがいっしょじゃぁね?


 あたし、嫌われてはいないと思うけどあんまりあの子と話した事ないのよ。



「いっそ、告白ついでに全部聞きたくても! こう言う時性別が変わったのは面倒いわ!」



 レズにはなれないし、あたしはエイマーだから好き。


 身分差どーのこーのの垣根は、とっくに越えてるつもりではいたけど。あの子自身はそうは思ってないのか、思い込まされたのか。


 話し合いたくても、これ以上は一人じゃ無理だ。



「…………時間かけるしかないけど。チーちゃんには相談に乗ってもらお」



 今頃仲良くパジャマパーティー楽しんでるでしょうし。


 きっと、エピアだけでなくエイマーの意中の人も聞き出してるに違いないわ!


 だって、女はいつだって恋バナ大好きだもの!


 そう思うことにして、あたしは片付けもそこそこに、レイに戻ってきていいとテレパシーしてからきちんとベッドで寝たのだった。

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