15-1.感謝状決定!






 *・*・*







 色々やらかしてはしまいましたが。



「直接捕まえたのは俺になるが、踏み留めてくれたのはチャロナ達だからな! なんらかの感謝状がカイル経由で届くんだぞ! あと、多分ギルドからも!」



 孤児院見学も決まって、腹ごしらえも済んだ時に、いきなりシュライゼン様がとんでもない事を言い出した!



「あら〜、あたしはどーって事ないけど。チーちゃんにはいいカルマのランク上げになるじゃなぁい」


「うむ、君には悪いがメインはチャロナだぞ!」


「ちょ、ちょちょちょ、ちょ〜〜〜〜っと、待ってください! 私、怒っただけですよ! 自分本位にキレちゃっただけですよ!」



 ぶっちゃけ、言いたい事言いたい放題したような感覚しか記憶がないです!



「ぬ? マックスも言ってたじゃないか、口調は変わってたがなかなかに素晴らしい演説だったと。俺も言ったじゃないか! おにーちゃん、感動するくらいカッコよかったんだぞ!」


「そ、そそそ、そうだとしても感謝状だなんて受け取れません!」


「そうは言っても、俺手配しちゃったんだぞ?」


「取り消し無理ですか!」


「無理!」



 何故かごり押しさせられました。


 ここだけ貴族の権限使うだなんて、横暴すぎる!


 デメリットどころかメリット過ぎる事だけども、私はまだ納得がいかない。


 だって、エピアちゃんを守りたいがために悠花ゆうかさんを押し切って勝手に前に出ちゃったんだ。怒られて当然なのに、悠花さんを見ても肩を落とすだけだもの。



「いいじゃないの〜。冒険者カードまだ失効してないんだし、何かあった時に賞罰項目に貴族からの感謝状とくれば……いざと言う時に使えるわ。特に、シュラやカイルならねぇ?」


「そ、そ……う?」


「そうそう。俺は気にしないんだぞ!」



 悠花さんの含みのある言葉と笑顔が少し怖かったが、シュライゼン様の追い打ちもまたかけられてしまうと、もう受け入れるしかない。


 エピアちゃんも無事だったし、あのど変態子爵とやらは無事に逮捕されて、もう世に出て来ないのなら私も私で駄々をこねるのはやめるか。



『…………ご主人様、ほめられりゅことしたんでふか?』



 私のお膝の上に座ってたロティは、やっと事情が飲み込めたのかきょとんとしてた。



「そうなんだぞ、ロティ! あの子爵に立ち向かった事で犯行を取り押さえてくれたのはチャロナなんだぞ! つまりは、悪い人を捕まえる手伝いをしてくれたんだ!」


『ふわわわわ! ご主人様、しゅごいでふぅううう!』



 質問に答えてくださったシュライゼン様が、さらに盛り上げるような物言いで伝えたせいで、ロティは飛び上がって空中で強く拍手し出した。


 ロティもなんでか私が記憶にないことも同じように覚えていないらしいが、活躍したと言う事を伝えられると自分のように嬉しかったらしい。


 そのまま、羽を激しく動かしながらダンスまで始めちゃった。



『う〜れちいでふ〜〜! おりょーりじゃなくても、ハッピーな事でふぅ!』



 ただ、最後に着地したとこが寝そべってたレイ君の上で。虎さんに戻ってたレイ君の背中にぶつかったため、彼は物凄くびっくりして起き上がった。



『な、なんでやんすか!』


『にゅ〜、ロティでふぅ〜』


『って、ロティか。驚かせんで? 俺っち、少し寝てたでやんすから』


『あ〜い』



 なんだろう。微笑ましい光景。


 虎と赤ちゃんだけど、人型も知ってるから年の離れたお兄ちゃんと妹みたい。



「あ、料理で思い出したんだぞ! 俺の時間もあんまりない、孤児院に行くんだぞ!」


「あ、はい」



 のんびりしてるわけにはいかないのは、どうやらシュライゼン様らしく。


 エピアちゃんとエイマーさんは、カイルキア様が救援にと送ってくださった人達の中にいたサイラ君と帰る事になり。


 私達は私達で、シュライゼン様の案内で例の孤児院に行くことになったけど!



「なんで手を繋ぐんですか!」


「いいじゃないか! お兄ちゃんは繋ぎたい気分なんだ!」


「だから、お兄ちゃん呼びは無理ですけど……こ、子供じゃないのに!」


「俺からしたら、成人したてでもまだ子供なんだぞ!」


「酷い!」



 エピアちゃん達と別れてから、ずっとこんな感じ。


 どんな状況かと言うと、一目が少ない通りに入ってから何故か勝手に手を掴まれてしまい。


 悠花さんや、人型になってロティを抱っこしてくれてるレイ君も止めないまま、ずっと引きずられるように歩かされてるの。


 一応この世界じゃ成人してるし、カイルキア様と同い年のお貴族様だから完全に拒否は出来ないと最初は思ったが。


 結局は、本当に兄妹のような言い合いになってしまってて。



「チャロナ、前世じゃ兄弟はいなかったのかい?」


「い、いません、でした……けど」


「じゃあ、今は俺がお兄ちゃんなんだぞ!」


「だからなんで!」



 前世では一人っ子だったから、兄弟の感覚ってよくわかってなかったけど。


 どうしてこんなにも、この人は私の兄のようなポジションに固執するのだろう。


 まさか、とか異世界あるあるネタが一瞬思いつくけど。似てるのって、今かつらの下に隠してる髪色程度。


 顔は……よくわかんない。


 私は普通だし、シュライゼン様のようにカッコよくはないもの。



『おにーしゃん、楽しそーでふぅ! ロティも〜』


「あっはは! ロティは後でな!」



 珍しく、ロティを優先させない。


 昨日のお茶会乱入の時も、ロティがいれば抱っことか高い高いをしてくれたのに。


 私が、少し危ない事をしたから?


 ダメだ、出会ってまだ数回だから取説とかよくわかんない!



「見えてきたんだぞ、チャロナ! あの建物が孤児院なんだぞ!」



 考えながらも引っ張られていかれた場所は。


 私がかつていたホムラ皇国の孤児院とは違い。


 規模も清潔さも段違いに素晴らしい建物があった。



「お……っきぃ」



 建物は西洋風な国だから教会に似てて。


 塀も門も定期的に修繕されているのかとても綺麗。


 そして、入り口らしきところまで来ると、黒い修道服を着た女性と遭遇した。



「マザーライア! 予定より少し早いが、例の女の子連れてきたんだぞ!」



 やっぱりマザーの役職の人らしく、シュライゼン様はその人のところへ早く早く、と私の腕を引っ張った。


 仕方なく走れば、シュライゼン様が嬉しそうに笑う声が聞こえてきた。



「ふふ。急がれずともお待ちしておりますよ?…………まあ、そちらが」



 彼女の前に立ち止まった時、服装も顔もホムラのマザーとは違うのに。


 なんとも言えない懐かしさを感じてしまった。



「いらっしゃいませ。私はこの孤児院の院長を務めております、マザーの一人でライアと申します」


「は……じめ、まして」



 慈愛に満ちた微笑み。


 暖かな空気。


 マザーと言う役職のせいかもしれないけど、あの人と同じくらい穏やかな人。



(マザー……リリアン)



 私の今世の義理のお母さんに、すごく似てたのだ。


 思わず、シュライゼン様の手を握ったままその場に崩れ落ち、私は声を上げて泣いた。

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