14-3.糞子爵登場(マックス《悠花》視点)
*・*・*(マックス《
最悪だった。
まさか、マジで例の糞子爵と出くわすとは思わなかったからだ。
(誰狙い? エイマーだったら容赦なくぶちのめすわ!)
けど、今日一緒にいるメンバーは誰もが粒ぞろい。
エピアは意外過ぎたけど、チーちゃん自身は自覚なしときた。
なにせ、髪はシュラの提案でかつらを被ってても、亡き王妃そのままの美貌は隠せていない。
市場で食材に釘付けになってる横顔をチラチラ見に来る連中がどれだけいたことか!
だから、こいつもその噂を聞きつけてやってきた可能性が高い。
子爵は、相変わらずよくわからない趣味で着飾ってる割には、なかなかにイケメンな面構えをしながら店内に入ってきた。
こっちはあたしで隠してるから見えないとは思ってても油断出来ないもの。
「ん〜〜? ここには居ませんね〜? そちらに……おや」
当たって欲しくなかったが、
「これはこれは、契約精霊殿との融合状態……と言えど、特徴は隠せてないね? マックス=ユーシェンシー殿?」
「…………相変わらず、嫌味ったらしい奴だな。シャイン=リブーシャ」
バレてんなら、形態を元に戻した方がいい。
レイに即座に通信して女の体を戻し、こちらに近付いてくるシャインを止めるべくバトルアックスを振り下ろした。
「来んじゃねぇ。俺の後ろにいる奴らが目的か?」
「わかっているのなら、話は早い。是非とも、拝見したいのだがね?……紫の髪のご令嬢に」
「ちっ!」
チーちゃんじゃなくて少しはホッとしたが、どっちにしても良くない。
一番男受けしやすい容姿のエピアが狙いとなれば、黙ってない奴もいるからだ。
それと、背後でエピアが泣き出しそうな声も聞こえてきてなおさら見せる気など起きない!
「俺のツレだ。第一、どっからその情報聞きやがった。俺達が来たのはお前よりだいぶ後だが?」
「ふっふっふ。麗しいご令嬢の噂はまさに春風のごとく。私の影達が聞きつけてくれたぁらねぇ〜」
いちいちうっざいわね、こいつ。
もう完全にエピア狙いはわかったし、目配せした顔見知りの店員を見ても、器物破損はしていいサインはもらえた。
爵位も、あたしの実家と比べちゃこいつは低いし、カイルからの応援もいずれ来るはず。
もう、こいつのせいで何人ものご令嬢が犠牲になったか。精神崩壊ならまだいい方、中には発狂して自殺未遂をしたとも聞く。
だから、野放しにするのもいい加減我慢も限界!
ましてや、今回は身内の人間とくれば、あたしも黙ってらんない。エピアは人見知りと極度の恥ずかしがり屋だけど、いい子だもの!
「……うぜぇ、理由だな。俺の実家がお前より上なのは承知してんだろ? おまけに、俺の幼馴染み達は誰だったか」
「けれど、今はしがない高ランクの冒険者。貴殿ごときで私を捕らえたところで、何も痛くも痒くもないさ〜」
「それが……ちぃっとばっかちげーんだよ」
「は?」
ちょっと脚色はするが、親父に倣ってみるのもいい。
あたしは、レイを元の大きさ近くまで影から顕現させ、名乗りを上げることにした。
「───────……ユーシェンシー伯爵家嫡男、マックスはなぁ? 王家とも縁が深いローザリオン公爵家が当主。カイルキアの護衛に任命されたんだ。そこんとこよく覚えとけよ?」
『グルルルルルルルゥ……』
いずれ、その任を告げられるのだから、嘘は言ってないわよ?
今は、もっともっと大事なチーちゃんの護衛に任命されてるけど、それはまだこんな糞に告げるわけにもいかない。
彼女が王女だって事実は、あたしやカイルを含めてごくわずかな人間しか知らないもの。
それに、これくらいの嘘ついてもカイルは聞き分けが悪い奴じゃないから気にしないだろうし。
レイの唸り声もいい演出になってるだろうから、まあ怖気付くかと思いきや。
「ろ、ローザリオン公爵がなんと言おうと……手に入れるものは手に入れる! そこを退きたまえ!」
あ、余計煽っちゃっただけね?
仕方ないから、レイでもふっかけようとしたんだけど。後ろから誰か出て来てしまった!
「………………………………許さない」
「ちー……チャロナ?」
流石に、この口調でいつもの呼び名のままではいけないと思って言い直したけど、何故あの子が出て来たのか。
エイマーにも言いつけておいたのに……と一瞬振り返れば、ふるふると彼女に首を振られた。しかも、何故か珍しくエイマーが怯えてる! 可愛い!
じゃなくて!
「チャロナ、出て来んな……って!」
慌てて下がろうと肩を掴んだら、ちらっとこっちを見た顔が……阿修羅を思い起こした。
下手すると、うちの親父並みに怖い!
「……マックスさんは、少し下がっててください。私の友達に手を出すこんな馬鹿、
「達?」
と言うことは、影に隠れているロティちゃんもお怒りモード?
だから、何にも言ってこない?
《ロティ、なんか怒ってるでやんすぅう!》
レイがテレパシーで伝えてきたので確定。
こりゃ、あたしも手出し出来ない。
大人しい子もだけど、真面目な子も怒らせると怖いってまさにこの事ね!
「な……なんだね、君は……いや、よく見ると君も麗し」
「黙れ、下郎が」
「ひぃ!?」
うん、怖いわよね。
なんか奉行口調っぽい気もするけど、今の低音ボイス男が聞いても怖いわ。
あたしじゃある意味性別どっちもだけど。
じゃなくて……チーちゃん、威圧感半端無いわ。
「…………欲しいものは手に入れる。聞いてて思ったが、貴様の欲望は我欲そのもの。意に沿わない女性を無理に引き込んで、己の物にしようとする魂胆が見え見えだ。それも、聞くに一度や二度どころでないはず」
「そ……そそそ、そんな」
あのー、チーちゃんかっこいいけど、なんでそんな口調?
ロティちゃんはあんなにも赤ちゃん言葉だし(見た目もだけど)、今融合してたとしてもなんかおかしい。
同じ元日本人でも、弁護士だったとしても、こう言う口調は時代劇でもまずない。
なんなんだ?と怖いのが少し収まり、代わりに少し冷静になれた。
相手の糞シェインはビビリまくってるから、見てて面白いし。
「加えて、私の友を無理矢理引き込もうとするなど、万死に値する」
もうツッコミしまくりたいけど、それは当然のこと。
どうやら、同僚だけでなくきちんとお友達になれたらしいエピアの事を思えば、チーちゃんがキレてもおかしくな……い?
(え、なんで? その構え、攻撃魔法?)
いきなり、魔法を繰り出しそうな構えになって驚くが、距離関係なく止められない。
無詠唱以前に、この子はたしか元生産職でも底辺の冒険者だったはず。
ロティちゃんが顕現して魔力量が膨大に増えても、試したことはないのに!
「その面構え……二度と世に出せないものにしてくれようか?」
「さ、流石に大技はやめとけ! 俺がするから!」
「黙ってて!」
一応相手によって口調の使い分けはしてるようだけど、もう遅かったか。
手に黒い砲撃タイプの魔法を生み出していて、繰り出さないと消す事も出来ない状態。
相殺出来るかと、レイと協力して急いで雷撃の球を打ち込むのは間に合うかどうか!
「お〜〜っと。お縄にかけるのは、俺の仕事にさせてくれないか? チャロナ」
「「『「!?」」』」」
あたしが間に合わないと思ってたのを、いとも簡単に相殺してしまったのは。
王家の証、艶やかな緑の髪をなびかせながらチーちゃんの前に立ったのは。
この国唯一の王位継承者であり、チーちゃんの本当の兄で家族。
「しゅ……シュライゼン=アーノルド=…………セル、ディアスさ……ま?」
応援を呼んだのはカイルのはずなのに、なんでこっちの幼馴染が来てるのよ?
いや、物凄く助かったけど。
「……シュ、ラ……様」
「安心するんだぞ、チャロナ。ここはおにーちゃんに任せるんだぞ」
それは、家族としてもだが頼れる国民の代表者として。
チーちゃん本人が真実を知らずとも、シュラは任せろと言い切った。
すると、シュラが止めてた方の手を離してから、彼女は緊張の糸が切れたかのように崩れ落ちた。
慌ててシュラが受け止めたが、そのままチーちゃんは気絶してしまったらしい。
そんな彼女を、シュラはあたしに寄越してきた。
「おにーちゃんが頑張るから、妹分を頼んだぞ」
今は公表出来なくて当然だが、妹を妹と言えない辛さは楽観的なこいつでも堪えてるはず。
少しため息を吐いたが、あたしは斧をレイに預けてからチーちゃんを受け取った。
ちゃんと食べてるはずなのに、恐ろしく軽い。
「さて……チャロナが制裁を加えるまでもない。裏は取れまくってるんだ。ひっ捕らえるのは、王太子である俺が代わろうか?」
「あ……あっ、その……女性、もしや」
「それは言うな? それ以上言うなら、彼女の言ったように顔を切り刻んでもいいぞ?」
「ひぃ!」
育ちも性格も違うけど。
ほんとに兄妹ね、と思う瞬間だったわ。
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