14-4.推察するしか(マックス《悠花》視点)









 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)








 シュラが出てきてからは、実にあっさりと糞子爵は捕まって事件は終わってしまったが。


 解決してない事がいくつかある。


 それはもちろん、チーちゃん。


 一つは、あの豹変っぷりと。


 もう一つは、未だに起きない事よん!


 今はランチ予定だった食堂の二階を借りて休ませてはいるんだけど、一向に起きないのよ!



「んもぅ〜〜、ロティちゃんも出て来ないし……チーちゃん起きてぇええ!」


『マスター……ボケでこより出すんはやめましょ?』


「え、ダメかしらん?」



 くしゃみで起きるかもって思って、即席で作ったんだけど。



「我が妹が恥ずかしがる事はやめてほしいんだぞ!」



 そして、捕縛と同時に帰ると思いきや、シュラはシュラでまだいる状態。


 一応兄として側にいたいのもあるらしいが、チーちゃんにもきちんと用事があるようで。


 エイマーは、エピアがまだ落ち着いてないので別室で待機させている。あと、魔法鳥で呼んでおいた奴がいるからそいつと会わせるためにも。



「その妹なんだけど……あたしと同じ転生者だからって、あれはさっぱりわかんないわ。転生のチート特典にしたって、まだ解明してない事が多いし。そっちの王家のなんか?」


「うむ。そこは俺もさっぱりだ!」


「偉そうに言うな!」



 予想通りの返答に、軽く殴っても全然堪えてないようで。


 でも、チートの可能性は捨てきれなくても、実際チーちゃんはセルディアス王家の直系。


 兄であるシュラも血族の証である『彩緑クリスタルグリーン』の髪を持ってるからこそ、王宮魔術師以上の魔力量と技術を所持している。


 同じ条件下のチーちゃんが、前世の記憶を蘇らせた事で異能ギフトだけでなく、そっちの能力が開花してもおかしくはない。


 あたし、ちょっと嘘ついたけど、魔力量が増えたのはこっちをにらんでたのよね。



「う〜〜ん。けど、俺達セルディアス王家の人間もあんまりわかってないんだぞ。俺やチャロナ……マンシェリーのようにここまで鮮やかな髪色は父上と母上以外じゃ何世代かは全然だったしね?」


「……それと、あの戦争で文献が一部焼けたから?」


「うむ。マンシェリーが見つかってから漁り直したんだが……肝心な部分は見事に焼けてしまってたよ」



 あまり蒸し返したくはないが、仕方ない。


 あの文献とか、秘密文書の類の倉庫を守ろうとしたのは……亡くなった二人の母である王妃様だったから。



『う〜〜〜〜ん、俺っちの予想でやんすけど。これ、ロティが関係してるんじゃ?』


「「と言うと??」」



 ここで、レイの発言。


 ロティちゃんとは違い、他の精霊のように魔力溜まりから顕現した精霊だが……本人が言うには世界の理の中で生きてた年月が長いらしい。


 だから、実年齢はあたしよりは下でも、その考察は無視出来ない。



『俺っちら、高位の精霊以上の不可思議な存在。しかも、意思があれどその存在はある意味人形ゴーレムとも酷似してる……』



 機械人形の類はこの世界だと、金属タイプのいわばゴーレムしか存在していない。


 あれは、魔力だけ動力源として十分にあればいつまでも動くモンスターみたいなものだ。ロティちゃんは、意識は存在しててもナビと言うAIな存在。


 この世界の常識に当てはめれば、そこは間違っていないわ。



『それに。今は色味薄いでやんすけど、ロティの髪色もシュラ様達と同じでやんす。その主人がマスターのように転生者であり、王家の直系とくれば……神々が付与した加護が何かしらそこに働いても』


「……そう言えば、ロティも緑だったんだぞ」


「そこは、盲点だったわ」



 精霊だから。


 その固定概念を疑うとこはなかったから、髪色くらいで何も不思議に思わなかった。


 チーちゃんに目がいってたせいで、契約精霊の容姿についてはからっきしだったから。普通に可愛い赤ちゃん精霊だったもの。



『…………ここは、確認のために出て来てもらいたいんでやんすが』


「応答しないの?」


『へー、ちっとも』



 一応は、契約精霊同士。


 普通の精霊なら可能だけど、ロティちゃんは特別だから無理なようだ。


 この話は、一旦終わりにする事にして、まだ一つ確認したいことをシュラに聞くことにした。



「ところで、シュラ? あの糞子爵について衛兵から救援要請が出たのは、領主であるカイルの方でしょ? なんで王子のあんたがいきなり出て来たのよ」


「ん? けど、あれ止めれたの俺だけだろ?」


「それはそうだけど!……たまたまカイルのとこでもいたの?」


「うむ! ギフラから逃げてた!」


「またかい! 褒められないわよ!」


「いっ、たいんだぞ……」



 今回はほんと、たーまーたーまーだけど!


 助かったことに変わりないから拳骨一発で済ませておいた。


 近習のギフラ本人からは、また何かしら処罰があっても不思議じゃないけど無視無視。



『あ〜〜……けど、ほんと助かったでやんすよ王子。俺っちとマスターだけじゃ、あのよくわかんない攻撃は抑えきれませんでしたわ』


「うむ。俺も少し手が焦げた!」


「は?」


「ほれほれ」



 実際に手を見せてもらえば、手のひらがただれはしてないが焦げついていた。


 そして、少しずつだが治癒されてるのか治ってはいる。


 こいつの魔力以外の王家由来の加護、『高速治癒』のお陰だ。


 だから、多少殴ったとこでたんこぶもすぐに完治するんだけど。



「あんたについてる加護があっても……そんな治り遅いの?」


「うむ。まあ、我慢出来なくはないぞ。マンシェリーの怒り……いや、憤怒の感情に比べれば大したことはないんだぞ」


「まあ……あれは」



 ほんとなんで、あんなにも厨二病のような口調になったのかしら?


 王家でも、こいつとバカ国王が正式の場でない限り……?



「…………ふ、わぁ…………あ、あれ?」



 次の疑問をシュラに言おうと思ったら。


 やっとこさ、チーちゃんが起きた!



「チ〜〜〜ちゃぁあああああああん!」


「チャロナぁああああああ!」



 シュラも呼び方を戻して、一緒に彼女の足元に抱きつく。


 ベッドで体を起こしたチーちゃんは、わけがわからない感じに困ってたけど、無理!



「え、え?」


「んもう! いきなり気絶しちゃうからびっくりしたわよ! その前も色々びっくりしたし!」


「お兄ちゃんが止めなきゃ、君は大変なことをやらかすとこだったんだぞ! 無茶しないでくれ!」


「む……無茶?」



 どうやら、寝起きのせいか記憶が混乱してるようね?



「けど、おにーちゃんが頑張ったんだぞ! あのバカ貴族は爵位剥奪の上に投獄させたから、二度と世には出て来ないんだぞ!」


「え……バカ?……投獄?」


「む? 君、友達が狙われたのに怒ってたんじゃ?」


「あ!」



 どうやら、シュラの報告で余計にわかんなくなりそうだったところ、エピアの話題を出せば思い出したようで。


 怒りが再発したようだけど……すっごく可愛くほっぺふくらませたわ。



「あのごちゃごちゃな服のバカですね! 途中からなんか記憶ないんですけど、無事に捕まったのなら良かったです!」


「うむうむ。おにーちゃん頑張ったから、呼んで欲しいんだぞ!」


「……いや、だからお兄ちゃん呼びは出来ません」


「なんでだい!」


「そこはいいから。……で、チーちゃん体に不具合とかなーい?」


「え?……全然、だけど」


『ふにゃぁ〜〜〜〜』



 シュラの事はさて置き、チーちゃんの体調はと聞いた途端……あれだけ応答のなかったロティちゃんが影から出てきた。


 しかし、えらく消耗したように疲れてる感じ。



「ロティ!」


『ふにゃぁ〜〜お腹しゅいたでふ〜〜』


「え、お腹? もしかして、スタミナ切れた?」


『うにゃぁ〜〜ちょっと、ギリギリでふぅう〜〜』


「レイ!」


『聞いてくるでやんす!』



 残念な事に、全員手持ちの携帯食料も持っていなかったから、レイに人型になってもらい頼んだ。


 そして、出来るだけ多くの食事を用意してもらえたので、あたし達も一緒に軽く食べる事になったんだけど。


 ロティちゃんの食べる量が、見た目の赤ちゃん以上に凄かった。



『あむっ! むぐむぐ……ちょっと物足りないでふけど、たくしゃん食べまふ!』



 スタミナの値は、食事とかの満腹感を得られる事で解決するみたい。


 パンは誰も手をつけてないけど、他はまあまあ。


 あたしも、チーちゃんのご飯以前は、エイマー達の作るのが美味しくて物足りなかったのよね?


 あの公爵家は、主食以外なんで食事が美味しいのかはまだまだ謎が多いけど。



「……………………う、これもボソボソ」



 チーちゃんだけは、見聞のために味を確かめたみたいだけど、予想以上に不味かったようだ。



「で、ロティちゃんとチーちゃん。あの糞に怒った事については言及しないけど……なんで急に態度が変わりまくったの?」


「態度?」


『でゅふ?』



 どうやら、怒りモードがピークに達してたせいか、覚えてないみたい。



「…………下手すると、厨二病に見えたわよ?」


「そ、そそそ、そんな事言った!?」


「ええ、なんか時代劇風に」


「え、えぇ!?」


「俺も最後しか聞いていないが、カッコ良かったぞ! ははははは!」


「あんたはだーまらっしゃい!」



 種類の違うバカは撃沈させておいて。


 紅茶を新しく淹れてから、もう一度言い直す事にした。



「エピアの危機に対して、立ち向かおうとしたせいだろうけど……すっごい豹変っぷりだったのよ。あんた……とロティちゃんは覚えてないの?」


「え……と、エピアちゃんが危ないと思ったのはたしか、だけど」


『にゅ〜……あんまり覚えてにゃいでふ』



 これはもう追求しても無理あるわね?


 帰ってからカイルにもまた言われるだろうけど、出来るだけあたしとレイがフォローするしかないわ。



「ま、こっちのバカのお陰であいつはもう女性の敵じゃなくなったし……あんた用事があるんじゃなかったの?」


「うむ! ついでになってしまったが、チャロナがリュシアにいるうちに案内したい場所があるんだぞ!」


「私に……ですか?」



 復活したシュラは、むふふと変な笑い方をしてからチーちゃんに手を差し伸べた。



「調達を一時中断して、例の孤児院を外からだけでも見て欲しいんだぞ」



 こいつにしては、ほんと珍しく真面目なお誘いだったわ。

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