12-3.ペポロンバター

 すると、ロティが頭から降りてきて私の前で両手を出してきた。



『ご主人様ぁ〜〜お手手出してくだちゃい』


「え、こう?」


両手りょーてでふぅ!』


「う、うん」



 なんだかハイタッチするような格好になったけど、その予想通りに、ロティがちっちゃな手で私のにハイタッチ!





 パン パン パパン パンパン!





 赤ちゃんの手の割には結構いい音。


 何の意味がと思った時には、手を伝って何か『力』がひゅーっと抜けていく感じがした。




【余剰魔力を、コロンに変換します。



 此度得られたコロンは、5000コロンになります。




 ①ナビゲーターシステムのレベルアップにより、余剰魔力量が大幅にUP


 ②加えて、ナビゲーターシステムの余剰及び保有魔力量も拡大したため、コロンに変換が可能となりました。


 ③コントロールがきかない場合は、ナビゲーターシステムの誘導により余剰魔力を変換した方がいいでしょう。



 】




 なんか急に天の声まで聞こえてきたけれど。



(やっぱりチート増えてるのなら、言ってよ!)



 いつもよりだいぶ説明長いのは、ロティのナビレベルが上がったせい? 朝のパン作りじゃ、いつものPT付与云々だけだったのに。



『コロンは、あちょで振り分けまちょー!』


「ろ、ロティ? その度に今の方法じゃなきゃ?」


『うにゃ? 楽ちくないでふ?』


「た、楽しくないわけじゃない……けど」



 なんか視線感じるな〜と思って振り返れば、三人から微笑ましいものを見る笑顔になってた。



「癒されるわ〜」


「うん、愛らしいね」


『でやんす』



 非常に恥ずかしいです!


 いたたまれない気分にもなってきたので、もう一度熱湯ボイリングを試してみたら?



「あ、イメージしてた量になってる!」


『でふぅ!』



 少なめにイメージして寸胴鍋の半分。


 これなら、とコンロのツマミを強にしてコインサイズの泡が出るまで沸騰させる。


 その間に、悠花ゆうかさん達が切り分けてくれたペポロンをバットに乗せて運搬作業。


 ある程度沸騰してるのを確認してから、ペポロン投入。



召喚サモナー、タイマー!」



 タイマーで大体15分を目安にセット。


 ここに、例の複合を使ってもいいかもしれないが、まだまだ時間に余裕があるのでやめておく。


 この作業を、もう二つ寸胴鍋を用意して繰り返していけば下茹での完成!



「ザルに上げるのはあたし達がやるわん」



 そこはお言葉に甘えて、男性陣にやっていただく。


 ただ、全部ペーストは少しもったいないと私はロティと冷蔵庫からある物を拝借しに。



「まだまだ作業ありますけど、ひと息つけるのにペポロンを味見しませんか?」


バターばちゃーでふぅ!』


「じゃがバターならぬ、かぼバターねん!」


「お、美味しいのかい?」


『意外と合うんでやんすよ』



 疑問は持たれても作るのみ。


 まだまだ熱々ほかほかのペポロンをお皿に盛り付け、湯気が上がっているとこに適量にカットしてバター投入!


 確認してあるけど、一応有塩バター!



「バターが溶け切っていないとこが絶品なのよねん」



 もう食べたいのか、悠花さんの手にはいつの間にか人数分のミニフォークが。すぐに全員に配ってくれたけど……エイマーさんのお手伝い、よくするんだろうか?


 いくらなんでも、厨房の道具配置を知り過ぎてるような?



(まあ、いっか。好きな人の近くに居たいのは……なんとなくわかるし)



 前世じゃからっきしだった私だけど…………一瞬、カイルキア様のお姿が浮んだが、ぱっぱと振り払う。


 いくら助けてくださった方でも、そこからの刷り込みだったらよくない!


 そんなの、カイルキア様に対して申し訳ないから!



(じゃなくて、本題はかぼちゃバター!)



 全員にお皿が行き渡ってから、私はまずロティにちょこっとあげる。


 悠花さんが言ったように、溶け切っていないバターのところを上げれば、ちっちゃなお口がむぐむぐ動く。



『おいちーでふぅう! ペポりょんはほっくり甘々でぇ〜しょこにばちゃーの塩っぱさとコクがなんちょも!』



 羽根をぴこぴこさせて、お顔がほんのりピンクになるのが可愛い。


 前世一人っ子だったけど、今世の孤児院育ちで下の子達が喜んでくれた時と顔が似てる。


 会いに行きたいなぁと思っても、それはまたいつか。


 故郷より先に、この国の孤児院を助けてあげなくちゃいけないからだ。



「これは……小腹がすいている時にいいかもしれないね?」


「でっしょ〜ん? ジャガイモが多いけど、かぼちゃとかペポロンでもイケるのよねー?」


『カライモでもイケるでやんすよ〜ほふほふ』



 カライモとは、要はサツマイモ。


 サツマイモ自体、日本の固有名とされてるけど、あれって色々あるんだよね。


 日本史で習った、飢饉対策に大いに貢献した鹿児島県に伝わってきたお芋。



「あ」


『『「「ん?」」』』



 思わず声あげちゃったけど、いい事思いついちゃった。



「レイ君が言ったカライモ。あれで、孤児院の子達でも作れる簡単なおやつパンを思いついたんです!」


『ほへ?』


「あんらぁ〜、おさつのパンなのん?」


「正確には、パン生地と言うよりも蒸しケーキに近いです」


「うん。それなら、子供でも作りやすい」



 今すぐにでも作りたいが、目の前の材料をほっぽって置くわけにはいかないので、食べてから作業再開だ。


 まずは、ロティ以外の全員でペポロンをペースト……つまり、マッシュ。


 ロティの変換チェンジ機能であるミキサーに一部で作れなくもないけど、負担が大きいかもしれないから手作業。


 悠花さんが潰す方にはエイマーさんがボウルを支え、私はレイ君のを。



「結構な量になるだろうから、二つとも出来上がったら生地作りに移ってほしい」


「はい!」



 このままだと水分量が多いので、コンロを複数使って小鍋で水気を飛ばす。


 生地は大量に作るけど、試作なので300gくらいに。



「ロティ、変換チェンジ!」


『ん〜〜ぅ、変換チェンジ撹拌器ミキサー!』



 ペーストを冷却コールドで適温に冷ましてから、ロティのミキサーに。



 材料は、



 卵(コカトリス)

 牛乳

 砂糖

 塩

 強力粉

 バター(有塩よりは無塩)

 イースト(乾燥)



 これを入れて、あとはホームベーカリー並みにお任せミキサーするだけ。



(【枯渇の悪食】があっても、割と日本と変わらない食材が多いのはなんでだろ?)



 特にイースト。


 酵母もなくはないが、これまた生地の仕込みが下手で忘れられそうな存在になっている。


 千里ちさとの技術でも出来なくはないが、一度試してはみよう。


 何故なら、庶民の方だと無理に酵母を使って激まずパンを作ってるからだ。すっごく高級品じゃないけど、生イーストと乾燥イーストは孤児院だと手が出しにくいイメージがあるので。



(蒸しパン以外のラインナップ……考えとかなきゃ)



 きっとシュライゼン様からも、食べさせるだけでなく美味しく作れる方法を教えてくれとも、言われるだろうし。

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