8-2.茹でたてトウモロコシ



「あ…………ああ、朝……ご飯の時に、いた……妖精フェアリー……?」


『でっふぅ!』


「うひゃっ⁉︎」



 ロティが近づいてもいないのに、声をかけただけでエピアちゃんは大袈裟なくらいに声を上げては、ラスティさんの後ろに隠れてしまう。


 ちょっと可愛いと思ったけど、それ以降ロティがちょこっと近づくたびに繰り返したので、仕方なくロティは回収。



「あはは〜、エピア可愛いの好きなんだけど〜、妖精フェアリーを見るのはここに来てからはじめてだもんね〜?」


「う…………うう、うん……」



 初対面だと、ラスティさんの通訳が必要なんだろうか?


 でも、段々と出てくる部分も増えてきて、エピアちゃんはもじもじしながら彼の背中から出て来てくれた。



「あ……あ、あ、あなた……が、この間から、パンを……作って、る人?」


「う、うん。厨房の見習いに入ったばかりだけど、よろしく」


「よ……よよよ、よろ……しく……サイ、ラくんに聞いた。ほとんど、年一緒って」


「私も聞いたよ? 今16」


「わ、わわわ、私、も」



 恥ずかしがり屋さんもだけど、なかなかにコミュ症を患ってる感じだ。


 だけど、話しかけたら時間はかかっても答えてくれるし、いい子だと思う。


 それと同い年と分かれば、是非お願いしたいことが出来た。



「ね、エピアちゃんって呼んでもいーい?」


「え、ええええ、ななな、なんで?」


「呼びたいからだけど……ダメ?」


「だ……だだだ、ダメ……と言うか、呼ばれたこと…………なく、て」


「いいんじゃな〜い? 同い年なんだし、同性なら可愛い呼び名同士でも」



 追い打ちをかけるラスティさん、なかなかにお強い。


 さすがは責任者の立場にいる人だから?


 ひとまず、呼び名についてはエピアちゃんからも了承をもらえました。



「わ…………わ、私……も、ちゃん……付けていい?」



 そして、勇気を出してお願いしてくれたのを、私も了承しないわけがない!


 ロティについても、同じくちゃん付けになったので解決。



「よーし、仲間同士の挨拶も終わったし! チャロナ、ラスティさんにも聞きたいことあったんじゃね?」



 仲間……そうか、同僚って仲間と同じなんだ。


 ちょっとだけパーティーを思い出したけど、彼らとはもう他人なんだと頭の隅に追いやった。



「僕に〜?」


「は、はい。私のパン作りって、錬金術の一種なんです。それで、材料の一部でも自分で作ると、もっと効果が出るそうなんです!」


「へぇ〜面白〜い。うん、それなら……エピア。君の研究用に貸してるスペースが少し空いてたし、教えてあげなよ?」


「わ……わわわ、わかり……ましたっ」


「ただ、その前に〜」



 ちょっと待っててと、ラスティさんが作業小屋に入ってしまった。


 エピアちゃんは今度、扉の端に隠れてしまったがサイラ君が言うには、慣れていけば少しずつ姿は見せてくれるみたい。


 コミュ症って、大変なんだと思うことにした。



「ちょっと休憩がてら、トウモロコシ茹でてたんだけど〜食べる?」


「『「食べる/ます/まふぅ!」』」


「……食べ…………ます」



 しかも、一人一本と豪快に振舞ってくれました。



「あ〜ロティちゃんは、少し割ってあげるね〜」



 細腕なのに、さすがは菜園責任者。


 すぐにパッカンパッカンと、茹でたトウモロコシをロティが持ちやすい大きさに割ってくれました。



『ありがちょーでふぅ!』


「ど〜いたしまして。ほら、茹でたてが美味しいから」


『あ〜い』



 つやつやしてて、少し熱いトウモロコシ。


 これはもう、贅沢にがぶりつくしかないと、全員遠慮なく。



『「あっま〜〜い!」』



 粒は大きく、噛むとシャクシャクしてて後から後から甘みが追いかけてくる。


 これ、サラダにもいいけど……コーンポタージュにしても絶対美味しい品種だ。



「今年のもいい出来じゃね?」


「はは〜、ほんとは朝採れの方が甘いけど。これでも十分美味しいよね〜」


「むぐ……むぐむぐ……っ」



 しかし、菜園関係者は評価が厳しく、まだ満足いかないみたいだった。



「やっぱり、採れたその場から鮮度が落ちるからですか?」


「そ〜そ〜、一部は違うけど。こう言う生でも食べれそうなのは、採った瞬間からね〜? 自分で育てる時は、最初エピアに聞いてごらん? 下手すると僕より詳しいから」


「む⁉︎ むぐぐ、むぐぐぅ! げほげほごほ!」


「だ、大丈夫?」



 盛大にむせてしまったのか、最後には咳をしちゃった。


 さすがに近づいてとんとんと背中をさすってあげると、小さくありがとうと言ってくれたが。



(あ、目がちょっと見えた)



 近くで見れたせいか、前髪の隙間から少しだけのぞいた深い青の瞳。


 結構目が大きくて、まるでサファイアのように綺麗。



「目……綺麗だね?」


「…………え、ふぇ⁉︎」



 せっかく近づけたのに、エピアちゃんは落ち着くと私からピューって離れてラスティさんの方に行ってしまった。



「……き……きれ……じゃ、ない……よ……」



 顔を褒められるのに慣れてないのか、恥ずかし過ぎてさっき以上に顔を見せないでいた。


 私は思ったままを言っただけだったけど、不快に思われただろうか?


 ただ、ラスティさんとサイラ君は苦笑いしてたけど。



「結構可愛い顔してるんだよ〜? でも、この通りの性格だから、前髪で隠しちゃうんだ〜」


「メイドの先輩にも、あんま見せてねーんじゃね?」


「お風呂も一人で入るらしいしね。さ、これ食べたら案内してあげなよ〜? チャロナちゃんは、お野菜でどんなパンを作るの〜?」


「そうですね……ひと口にこれ……とは決めてませんが」



 が、今目の前にある食材で、一つは思いついた。



「トウモロコシをたっぷり混ぜた、食事にぴったりの『コーンパン』とか……夏野菜を混ぜ込んだ小さめのパンを作ってみたいんです」


「へぇ〜?」


「や……さい、を混ぜ込んだ?」



 おお? エピアちゃんが興味持ったのか体半分まで見せてくれた。



「チャ……ロナちゃん、トウモロコシをどう混ぜ、るの?」


「一度ふくらませた生地に、茹でたのを混ぜるとかかな?」


「あ……甘い?」


「うーん、生地にはそんな甘みは入れないかなぁ。トウモロコシがこれだけ甘いし」


「きょ、今日……出来、る?」


「え、今日?」



 なんだか、ぐいぐい質問してくる。


 それに、距離もラスティさんの背から離れて、少しずつ私に近づいてた。


 気づいてるだろうかと、質問返しした時に口を閉じれば、彼女も気づいたのか、またささっとラスティさんのとこに戻った。



「ぷ……あはは〜エピア、食材の事になると熱いからね〜」


「ご……ごめん、なさ……い」


「う〜うん。若い子同士話すのは、いい事だよ〜? チャロナちゃん、今日貯蔵庫に納める中にトウモロコシ以外の野菜もあるけど〜……そう言ったパンってすぐ作れそう〜?」


「えと……トウモロコシの方なら、すぐ出来ますよ? せっかくですし、おやつ用にでも」


「マジ!」


「ほ……んと…………?」


「うん!」



 シュライゼン様からの依頼について、日程はまだ届いてないから大丈夫。


 おやつはフィナンシェもあるけど、別に作っちゃダメとも言われていないし。


 とりあえず、エピアちゃん達がおやつ辺りに食堂に来ると決まったので、次に使わせてもらう予定の菜園に行くことになったんですが。



「………………こ、ここ、こ……っち」



 案内のために先を歩いてくれるんだけど、エピアちゃん行く先々で作物の陰に隠れるから進み具合が遅かった。

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