2-2.決意、と説明②
「ろ、ろろろ、ロティ!
『大したこちょないので、言わなかっただけでふぅ?』
「
まだまだ初期レベルのAI赤ちゃんだから、きっとロティは平然と言い切るだけ。
だけど、こちら側としてはそうもいかないのでロティときちんと向き合う事にした。
「いーい、ロティ?
『ぜーんぜん問題ないでふよ?』
「な、なんで?」
正論を言ったつもりが、逆に却下させられてしまう。
『
「ちょ、ちょっと待ってロティちゃん! 僕も冒険者やってたけど、そんな秘密聞いた事がないよ!」
『にゅ? 枯渇の悪食のしぇーで、多分
初期レベルでも侮るなかれ、とはまさにこの事か。
衝撃から我に返ってきたレクター先生の質問にも、ポンポンと答える様は、赤ちゃんの姿でもAIらしい物言いだった。
それと、その答えで気づいたが『枯渇の悪食』は食べ物のレシピだけでなく、他の文化についても影響を及ぼしてたみたい。
チャロナの記憶を手繰り寄せても、
これは、おいそれと広めていい知識じゃないわ。
「うーん、これどうしよう。姉さん、僕の一存で決めるよりカイルにも伝えとく?」
「そうね。私達だけじゃ無理だわ」
「すみません……予想以上に大事にしてしまって」
「「何言ってるのよ(さ)?」」
こちらにも盛大に迷惑をかけたので謝罪をしたら、何故かご姉弟揃っての否定。
思わず、目をパチパチ瞬いていると、メイミーさんが先にふふっと笑い出した。
「困った時には、ってやつよ? あなたの出自がどうとか関係ないわ」
「その通り。僕達もだけど、カイルもきっと協力してくれるさ。怪我人はもとより、これからの事に困った人達にも手を差し伸べてたりしてるんだ」
「そ、そ……なんですか?」
いっぺんに言われてまたびっくりしてしまったが、迷惑ではないのは理解出来た。
抱っこしたままのロティも、何故か得意げに腰に手をあてたりしてる。
『大丈夫でふ、ご主人様ぁ。ここの人はみんにゃいい人でふぅ! あそこのパーチィーの人達とは大違いでふ!』
「ロティ……」
最初はどうして知ってるかとも思ったが、ずっと私の中で寝てたのを思い出せば納得がいく。
あの人達と別れてまだ数日でも、後ろめたい事がない訳ではない。役に立たない錬金術師だったから、離れて良かったと。
だけど、笑顔の少なくなったあそこに居続けても、良くはなかった。
「ん? チャロナちゃんは冒険者だけど、何やら訳あり?」
「レクター、聞いてあげてちょうだいな。私はその間にお風呂の準備してるから」
「了解」
『
隠すつもりではなかったけど、旦那様──カイルキア様の前で言うと思ってたから、予行演習のつもりで行こう。
この先生も充分イケメンさんではあるんだけど、あの旦那様と比較しちゃうと普通に見えちゃうの。
高ランクの貴族様おそるべし!である。
は、さて置き。レクター先生が簡易キッチンの方で何やらお茶を淹れてくださってた。
お湯は、生活魔法の『
「作りながら聞くけど……チャロナちゃんは、
「あ、はい。…………適性があっても、何故か錬金や錬成は無理でした」
「さっきロティちゃんが『パーティー』って言ってたのは……一応所属してたとこが?」
「……はい。旦那様に助けていただいた日に、抜けさせられました」
『ひっどいんでふよ!』
「ろ、ロティ。そんな興奮しなくても」
「なるほどなるほど。けど、今は適性だと思われてた
「は、はい」
さすがはお医者様。カウンセリングも上手い。
こちらの言いにくい言葉を最小限に抑えて、正確に理解してくださった。
本当は泣きたいくらい辛いことを、メイミーさんの前でも吐き出したのに……上手に誘導してくれた。
「じゃあ、僕から質問」
先生は、マグカップに淹れたお茶を私とロティにそれぞれ渡した。ロティの方は、見た目は赤ちゃんだからか水で薄めたのか湯気がない。
「ロティちゃんを含めた、君の
『幸せを運ぶ錬金術、『
「……だ、そうです」
「うーん。やっぱり聞いたこともない
(【完全錬成】……今もあるんだろうけど)
ランクSS以上の錬金術師が持つかもしれないと言われている
文字通り、ポーションだろうが武器防具への付与が完全完璧に出来てしまう、いわゆるチートスキルだ。
他にも色々あるが、『
「レクター先生」
「ん?」
「この
「って事は……ある意味の神託、かもしれないね」
「おそらく」
この世界の宗教については、日本のような八百万の神々が住まわっているのと同じ考え方だ。
最高神みたいなのももちろんいるが、今はそれを振り返ってる場合じゃない。
日本であった、想像から生み出された創作物を借りれば、この世界も一部が神の手によって
「どの神かはわからないけど、チャロナちゃんがこちらへ転生する際に
「どう、したい?」
「そう。けど、ソロで冒険者に戻るのは正直お薦め出来ないね? 理由は、
『でふぅ⁉︎』
「そう……ですね」
元の錬金術どころか、冒険者としても底辺過ぎる私なんかじゃ、あのパーティーにいた頃より悲惨な目に遭ってもおかしくない。
記憶が戻る前は出来るだけ楽観的に次の目標を決めようとしてたが、そうはいかなかった。
憧れてたのとは別でも、他にない
『
「そうだねー……って、今パンって言った?」
『でっふ! ロティとご主人様の錬金術は、ご飯を作る事なんでふ!』
「あー……だから、クッキング……ね?」
やや間の空いた言葉が気になってレクター先生の方を見ると……なんだか、すっごく楽しそうだった。
少し前の、お姉さんのメイミーさんがそうだったのとそっくりなくらいに。
「そうか。枯渇の悪食で
そう言い切ると、先生はカップを持ったままの私の手を掴んできた。
「チャロナちゃん、ここに就職するといいよ!」
「……え?」
「面接とかの試験は、実際に作ってもらってからカイルに判定してもらうけど。きっと大丈夫!」
「え、え?」
『ご主人様、ここで働けりゅんでふか?』
「そう、それがいい。幸い、カイルは王家と縁戚でもある貴族だ。ひとまずは、このお屋敷を中心に激マズレシピを改善していけば……友好国の多いこの国も世界も食文化が変わっていくさ!」
とんとん拍子に話が進んでいってしまってるが。
何故か、私はそれについて嫌悪感が浮かんで来ない。
むしろ、恩返し以上にここであの旦那様のお役に立てるのならば。
もう、冒険者にこだわる必要なんて、ないなって。
だって、レクター先生の言ってる事がもし実現したら、冒険者以上にやりがいのある仕事だもの!
「い、いいんですか?」
だけど、少し臆病な私はまだ聞いてしまう。
決意は変わらないが、確認はしておきたい。
「もっちろん。冒険者としてまた旅立ちたいなら、基礎演習くらいは僕とかカイルがしてあげられるけど……。その目を見る限り、違うようだし」
「はい、よろしくお願いします!」
『よろしゅくでふぅ〜』
取次をお願い出来るのなら、もう迷うまい。
ロティと一緒に頭を下げれば、先生は優しくぽんぽんと私達の頭を撫でてくださった。
その後は、身綺麗にするためにメイミーさんと一緒にお風呂に入らされましたが。
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