主張シリーズ第二回『素数について』

「嫌だぁぁぁぁぁ!」


「おい花火、始まったばっかなのにそんな声を上げるな。俺が何かしたみたいじゃないか」


「だって、シュンくんが今日“ソレ”を持ってきたってことは……」


「いやー、流石は花火。察しが良くて助かるよ。」


「嫌だぁぁぁぁぁ!」


 こうして、楽しい(?)放課後が始まった。


「そんなのやってて楽しいのシュンくんだけだから!」









「だって、今日はなんの日だ?」


「て、定期テスト一週間前です……」


「だったらいつものように、お前の家に教科書を持ってきて数学を教えるのは当然だろ?」


「シュンくんは私のこと嫌いなの?私が算数嫌いなの知ってるでしょ!」


「お前算数から嫌いなのかよ!もう高校生だろ!?」


「だって数字ややこしいしー」


「数字に罪はないぞ!お前が赤点取らないのは俺のおかげだからな?」


「こうして、一人の少女の命は儚く散ったのであった、まる」


「勝手に倒れこむな。俺がお前に教えてやらないとお前数学で留年するぞ」


「だって嫌いなものは嫌いだしー」


「あ、じゃあ数学が好きになる話をしてあげよう」


 こうして、俺は花火のために語り始めたのであった。






「そうだな。素数の話をしようか

「あ、素数って何かって?算数嫌いでもそれくらい覚えとけよ……

「素数の定義は、1と自分自身以外の正の約数を持たない、1ではない整数のこと

「名前からして面白いと思わない?

「え、なんでって

「素数の素ってさ簡単って言う意味があるんだよ。ほら、簡素の素とか

「でも、この定義はとても長くて簡単じゃないじゃん。この矛盾がまた面白いよね

「素数じゃない整数は、素数以外の整数ってまとめられるから、こっちの方が簡単だよね

「まぁともかく。素数は約数が2個しかないから特徴がない数字たちなんだよ

「でもね、特徴がない数字の中でも、特徴がある数字ってあるんだよね

「素数の中で唯一の偶数でありながら、一番最初の素数……

「そう、花火正解!“2”なんだよ

「特徴を持たない数字の中で、最も特徴を持つ数字、この矛盾がいいなー

「え、矛盾が好きなだけじゃないかって?そんなことないさ!俺が数学好きなのは花火も知ってるだろ!」





「どう?面白かった?数学好きになった?」


「これを聞いて好きになる人はシュンくんくらいだよ……」


「そんなことないと思うんだけれどな」


「まぁ赤点は嫌だから勉強はするけれどさー」


「まぁまぁ喜べ。今回の範囲は関数だから」


「もういっそ殺して!」


 そういえばこいつ、関数が死ぬほど嫌いなんだった。


「いや、でも俺が関数好きだから教えてあげるの簡単だし、メリットだろ?」


「関数やるくらいなら寝る!」


「あ、死にはしないのか。まぁどのみちやらせるけれどな」


「嫌だぁぁぁぁぁ!」


 まぁ、この前のお返しというわけではないけれど。今回は花火が数学を今よりも恐れるくらいに勉強させた。この前トラウマを植え付けられたんだからこれくらいいいよね。


 でも……



 ******************


「やったぁー!シュン君のおかげで数学96点だよ!」


 ちなみに、俺の点数は90点。


「こ、こんなはずでは……」


「また教えてね、シュン君!」


 これはこれで、自分へのダメージとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る