主張シリーズ第一回『萌え袖について』

「シュン君の萌え袖した写真撮らせて。」


 今日は土曜日。学校は休みでのんびりと朝寝坊ができるはずだった。そんな俺は、朝っぱらから幼馴染の花火に起こされていた。


「ごめん、花火。何言ってるかわからない。」


「だから、シュン君の萌え袖姿を撮らせてって言ってるの。」


 なるほど。萌え袖か。


「いやいやいや!ごめん、わからん。なんで男の俺がやることになっているんだ!?」


 そうしたら、花火は首を横に振ってあきれたように言う。


「はぁー。これだから男子は……。」


「いやだってさ……

「そもそも萌え袖って女子があざと可愛くするものじゃないの?とか思ったでしょ。」


「俺のセリフを奪うな。かぎかっこが分かりにくくなるだろ。」


「いいじゃん、別に。みんなわかってくれるよ。」


「それで?なんで俺が萌え袖なんだ?」


「もーしょーがないなー、シュン君はー。」


「どこぞの機械狸かよ、お前は!」


 そんなこんなで。花火は、俺の幼馴染は萌え袖について語り始めた。




「まずはね、萌え袖といえばセーターかカーディガンだよね。これは共通認識だと思う

「萌え袖はね、似合う人とは合わない人がいる。可愛く見える人と、そうでない人がいるの

「例えばさ、わざと萌え袖をやってる女子を考えてみて?『うわー、可愛子ぶってるよ……』とか思うでしょ?

「え?妙に感情入ってたなって?私もそう思ってるもん。シュン君もそうでしょ?

「でもさ、故意萌え袖をやってない人って可愛く見えるんだよね。わかるかな?

「わからない?なんで?とにかく、可愛く見えるの!

「次なんだけれど、重要なのは色だと思うんだよね

「セーターとかカーディガンとか、いろんな色が出てきてるけれど、私はベージュが王道だと思うんだよね!

「まぁきている服とのバランスもあると思うけれど

「私はベージュが好きかな!

「……最近の推しキャラがベージュの萌え袖だからなんて言えない……

「あー、いやいやなんでもないよ!

「あとはねー、長さかな。ちょうどいい長さと言うか、好みの長さがあるよね

「短すぎるともちろんダメだし、長すぎても萌えない

「指がちょこんと見えてるくらいが可愛いんだよ!いや、まじで、本当に

「意外とセーターとかって大きかったりするし、袖が長くなるときもあるしさ。男女問わず、わざとじゃない萌え袖は最強なの!!」




 生き生きと語られた。もしかして、今まで見てきた中で一番な笑顔だったんじゃないか?


「あれ?でもさ、花火に言われて俺がやったらわざとにならない?」


「細かいことは気にすんなよ!可愛いから似合う!」


「そんなてきとうなら今まで語ってきたことを訂正しろや!」


 そう言いつつも、花火の楽しそうな顔を見ると俺も気分が良くなる。


 ……だからってやるとは言ってないからな?


「えー、やってくれないのー。じゃあおばさんに、シュン君が襲ってきたって言っちゃうねー。」


 有る事無い事(もちろん無いことだが)を母親にバラされるのを防ぐべく。といっても花火がそんなことしないと知りつつも。


 花火のわがままに付き合ってあげる俺は、甘いと思った。


「じゃあ、まずうちの女子の制服着よっか!」


「え?」


 これが俺のトラウマになったことは、言うまでも無い。

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