ラジオで短編『雨の向こうへ』 4話
「……好きだよ」
その声を聞いて、振り返りそうになってしまった。もう好きにならないって決めてたのに。
俺はあいつのことはまだ好きだった。けれど、もうすぐ引っ越してしまうのだ。親の仕事の都合で、京都に。もし告白が成功したとして、遠距離恋愛になってしまう。俺はそれは耐えられる気がしなかった。だからもう一度、彼女に想いを伝えることはしない。そう決めていたのだが。
あいつは俺に告白した。それは独り言だったのかもしれないし、大雨だから聞こえないだろうと思ったのかもしれない。でも、それが嬉しかった。
「はぁ。なんで今かな……」
帰りながら俺は口に出してた。こういう失恋の仕方もあるんだな。
「まぁあいつならいい恋愛ができるだろ」
そう思って自分の気持ちをごまかすことにした。それに、運命を感じていなくもないのだ。
俺の引越し先は、京都府の朱雀町。
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「あれ、何やってるの?」
夕方になって、突然雨が降ってきた。私が昇降口で座り込んでると、後ろから声がかけられた。
「あ、
「なんで雨を見てるんだ……」
そう言って凛津は、私の隣に腰かけた。
「凛津ちゃんは
「うん。翔は今日委員会だから」
「ひゅーひゅー。熱いね、二人とも」
「いや、付き合ってないから。ただの幼馴染だから」
他愛のない会話をする。でも、私の視線はずっと雨を見ている。
「じゃあ私はそろそろ帰ろうかな。じゃあね、凛津ちゃん」
「うん、じゃね」
そう言って私は折り畳み傘を取り出した。私は、夕立の日にはいつも期待してしまう。この雨の中歩いていたら、引っ越した彼に会えるのではないか、と。私の傘には、白虎の勾玉のストラップが光っていた。
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