ラジオで短編『雨の向こうへ』3話
雨が降ってきた。天気予報では降らないと言っていたのだけれど。私は昇降口で座り込んでいた。傘なんて持ってないし。
「あぁ、ちくしょう。雨かよ」
ふと上から声が降ってきた。目を向けるとあいつだった。
「傘忘れたの?だっさ」
「いや、お前だって座り込んでるじゃん。人のこと言えないだろ」
「ざんねーん。私は折り畳み傘を持っているから」
まじかよ、と驚いている彼に傘を見せびらかす。彼は私の横に腰かけた。
「あれ、その傘についてるのって……」
「あーストラップのこと?」
それは友達とお揃いで買ったストラップ。よくある勾玉の形をした方角が書かれているもので、四神が描かれている。
「お前は朱雀なんだな」
「うん。苗字が南だし」
「俺も持ってるんだぜ」
そう言ってカバンから筆箱を取り出した。そこにあるのは、白虎。朱雀とは正反対の方角。見事にすれ違っていた。……まぁお揃いに期待はしていないけれど。
「そういえば……」
「ん?」
今日みたいな日がまた来るとは限らない。たから、今のうちに聞きたいことがあった。
「あの時、あんたは私のこと好きって言ったよね」
「……あぁ」
「私はまだ返事を返していないけれど、今はどうなの?」
「……」
正直、ずっと気になっていた。私はまだ彼のことが好きだから。たぶん。
「……んなわけ」
「ん?」
「そんなわけ、あるわけ、ないだろ」
彼は、否定した。辺りはもう暗くなり、雨は強くなっている。
「俺は、返事をもらえなかった時点で、ダメだと思ったよ。すぐに、諦めた」
「そっか……」
「今はもう、恋とか、そういうのは、考えて、ない」
そうなんだ。もう彼には、見られていなかったのか。
「なんだ、もしかして今更俺の告白の返事しようと思ってたのか?」
「ま、まぁね?あんたが気にしてるようだったら、答えてあげなくもなかったから」
あぁ、私は強がった。こんなこと言ったら、告白なんてできないじゃないか。
「まぁいいさ。お前の答えなんてわかってたし。そもそも親友の元カレとなんて嫌だろ?」
「そうだよね。いや〜、わかってたか〜」
結局こうやって、後回しにしていくうちに周りの子たちにとられていくんだろうな、私は。
「それじゃあ、俺もう帰るわ」
「あ、傘は……?」
彼は急に帰ろうとしたが、確か傘は持っていなかったんじゃなかったっけ?そう思っていたら、彼がカバンから傘を取り出した。
「俺は別に傘を忘れた、なんて一言も言ってないぞ」
「言ってたようなものじゃない」
「じゃあな」
そう言って、彼は大雨の中に入っていった。彼の背中を見ているだけでも、今日のことは悔やまれた。
「……好きだよ」
私は自分の口から出た言葉に驚いた。え、今好きっていった?私が?慌ててからの方を見たが、雨の音で聞こえなかったらしくそのまま歩いて行ってしまった。安堵のような、後悔のような。おかしなものが私の中に残る。
「……もう少し積極的になった方がいいのかな」
私は恋に恋しているわけではないので、今すぐに恋人が欲しいわけじゃない。でも、好きな人が去ってしまうのはやはり寂しかった。
「これでも頑張ったつもりなんだけれどな」
まだまだだめか。ならないことをするもんじゃないな。彼の靴が残っていたから私も残っていたなんて、そんなの気づかれるはずないもんね。
雨ではない何かが、私の頬を伝った。
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