ラジオで短編『雨の向こうへ』 1話
『なんでそんなことしたの?』
その声を聞いた時、俺の頬は叩かれた。懐かしい記憶である。
『気が済んだ?』
そう聞いたら、また叩かれた。痛い。
『あんたあの子の彼氏なんでしょ?もっと大事にしてあげなよ!』
すごく怖い顔で言われるが、それで俺の考えが変わるわけじゃない。あいつとは付き合ってはいるが、俺自身がどう思っているかはわからない。出会い方が最悪だったし。……好きになれると思ったんだけれどな。
『本当にあんたあの子のこと好きなの?』
『はなしたことなかったっけ?俺は好きになるのも嫌いになるのも時間がかかるタイプなんだよ』
『はぁ?三ヶ月も付き合っといてよく言うよ!』
あぁ。もういっそのこと言ってしまおうか。俺の本当の気持ちを。
『あぁ、三ヶ月経ったさ。それで好きになれなかったんだよ』
『じゃあなんで……』
『お前が好きだからだよ』
それを聞いたあいつは目が丸くなる。人間ってこんなに目が丸くなるんだなって思えるくらい。
『それって、どういう……』
『お前の親友のあいつを介さなきゃ、俺はお前に会えないだろ。学校違うんだし』
所詮は中学生。他校の人に、わざわざ会いに行ったり連絡先を書くなんてことはできない。いや、これは俺がチキンなだけか。
『ふざけないでよ!』
また叩かれた。本当に痛いな、こいつのビンタ。……男子でも俺に喧嘩を売ってくるやつなんていないのに、こいつは本気でぶつかってくる。それが好きだった。
結局その時の彼女とは、一ヶ月後に別れた。その間も、好きになることはできなかった。そして、元カノの親友であるあいつは俺への返事を保留にしたままうやむやになってしまった。だから、あいつの気持ちを俺は知らない。そいつと同じ高校だなんて、ましてや同じクラスだなんて、そんな偶然もまた俺の知ったこっちゃない。
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