第79話 欲は際限ないので定期的に消化しよう

 過去一番平和だったドラゴン襲撃事件も終わり新しくメイドに加わったイルシールも無事我が家の一員となっている。


 と言っても我が家の端の部屋でベッドで眠っているので未だにメイド服どころか立っている姿すら見たこともないけど。


 あまり睡眠の邪魔をするのも可愛そうなのでなるべく彼女の部屋には立ち入らないという方針で決定されているので部屋を訪れる者はいない。


 一応冷房完備の部屋のなので夏でも涼しい部屋で安眠することは出来ると思う。


 子供たちがときどき元気か静かに確認しているが気持ちよさそうに寝息を立てているとのこと。


 冬に元気な姿を見せてもらうとしよう。


 そんなことを考えながら机の資料を纏める。


 …身長が下がったせいで椅子に座ると足が床に届かない不具合があったので机を作り直したのは若干の屈辱である。


 以前のように気軽に身体能力強化を使えなくなっているのも地味に痛い。


 強化なしの体力ではもはやティアにすら劣る貧弱ぶり。


 ちょっと最近真面目に短距離転移魔術を研究中です。


 何とか目覚めてから溜まっていた問題をあらかた片付け、残る問題は一つ。


「魔塔…かぁ」


 ボクが眠っている際に助けてくれたというヘルミナーニャ。


 ずっと昔魔塔からボクの居場所を奪ったヘルミナーリャ。


 どちらが真実なのかボクにはまだ分からない。


 ただボクの家族たちの話では彼女は泣いて謝っていたらしい。


 そういえば以前再会した時も「違う」と言っていた気がする。


 頭に血が上っていたのであまり真剣に聞いてはいなかったけど。


「……ミーナ」


 幼かったころの彼女の愛称を呟きながらボクは空を見る。


 答えの見つからないボクは懐かしい記憶に想いを馳せながら、空の雲を眺めるのだった。




 ◆●◆●◆●◆●◆




 ティオが自室で黄昏ていたその頃。


 子供たちは寝室で昼寝中。


 その間にアルの頼みによって2人の人物がリビングの食卓に集まっていた。


 メイド・アジダハーカ(ドMドラゴン)


 服屋・ルクスリア(変態)


 この2名である。


 ゼニスは子供達の護衛と傍付きで寝室に(一緒に寝ているが)、イルシールはそもそも春眠中。


 よってティオを除いたこの3名がこの場に集まっていた。


 なお、ティオが候補から除外されている理由はすぐに判明する。


 神妙な面持ちで肘を机に付き向かい合って座っている3人。


 そしてアルが話を始めた。


「さておふたりに集まってもらったのは他でもありません。実は相談事があってですね…」


「ほほう」


「へっへっへ夜這いの話かしら?」


「…これルクスよ。話を遮るでない」


「アハハごめんごめん。そんなわけないもんねぇ~ね~アルちゃ~ん…」


 茶化すルクスと釘を刺すアジダハ。


 その二人が目線を送るとそこには…口を開きたくないのか頬に空気を入れて膨らませているアルが赤面しながら目を逸らしているところであった。


 顔を見合わせる2人。


 先程の会話を思い出す2人。


「はっ!?」と何かに気が付く2人。


「…ま、まさか…」


「…ほんとに夜這いのこと?」


「ち、違います違います!違うはずです!」


 手をバタバタさせて否定するアル。


 ちなみにその向かいの二人は「必死で否定するところが妖しい」と思っていた。


「…その…夜這いとかそんなのじゃなくてですね…その私とティオさんはその夫婦…じゃないですか。だからその一応夜の営みとかは一応あっても一応おかしくはないじゃないですか」


「やっぱ夜這いじゃん」


「まぁ既に夫婦じゃし夜這いとは若干違う気はするがの。で、それがどうかしたのか?」


「いえ、そのティオさんのこと好きになってから日に日に欲が溜まっていくというかですね…」


「性欲かの」


「そりゃ性欲でしょ」


「復唱しないでください…。そもそもあんな大胆な服をティオさんに着させたのはルクスさんでしょう?」


「はぁ~ん?大胆~?あ~んなのジュースですことよ~?その気になれば紐でいいのに~」


「まぁその場合お前はこの世から始末されるがの」


「堪忍。…で、エッチな奥さんを見ていて性欲溜まったと…。別に発散させればいいじゃん」


「で…で…で…」


「「 で? 」」


「出来たら苦労してないんですよぉーっ!」


 興奮して机を叩きながら立ち上がるアル。


 話を聞いている二人は怯まずに話を聞いていた。


 ちなみにこの話をする前に部屋に遮音の魔術を行使している為、この大声は他の部屋の者達には聞こえていない。


「そもそも寝室は子供たちと同じ部屋ですし、大体この家防音とか特にないじゃないですか!子供達がいるこの家の中じゃあ安心できないですし!ティオさんはあまり外出する人でもないし!そもそも如何わしい行為のために使える場所なんてこの町ないじゃないですか!」


「あー…そう言えばそうじゃのぉー」


「確かに」


「それにそういうことをティオさんにお願いしてOK貰えるのかも妖しいですし!何ならまだキスすらしてないですし!それなのに何故かティオさんが可愛くなっちゃいますし!以前よりも…その…えっちになっちゃってますし」


「あー…おっぱいセーターの沼にはまっちゃったかぁ…」


「今の主は性癖にはまる人間なら特攻クラスの威力じゃしのぅ」


「うえーん!どうしようもないのに状況だけ悪化していくんですー!いつか不意にティオさんに襲い掛かったらどうするんですかぁ~」


 言いたいことを言い終えて泣きながら机に顔を伏せるアル。


 要するに彼女の悩みは「性欲」である。


「いっそ行為の時だけ魔王城に戻るとか」


「魔王城は宿じゃないんです!何なら妹もいるので余計に気まずいです!」


「なんじゃ…適当な亜空間でも作ってその中で発散したらどうじゃ?」


「その結果が今なんですーっ!」


 この日の「緊急大人会議」は踊れど進まず。


 結局結論は「今度何とかする」で終結した。


 

――のちにこれが原因でルクス考案のトンデモ案件になるのはまた後日の話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る