第14話 マゾドラゴンって単語怖い

 結論から言うなら…僕は黒竜を倒したことになる。


 いろいろ片付いてから竜が来たことに気が付いた王妃から応援の兵士たちや冒険者たちがこちらに応援としてきたが既に片付けたことを報告。


 この時、「あの大魔導師レスティオルゥ様が現れただって!?」と、とても大変遺憾ながらまったくもって望まず不本意ながら僕の名声が広まってしまったのはもはやどうしようもない。


 …なんか「竜殺し」に登録するとか言っていた冒険者がいた気がするがやめてくれと面と言えるわけもなく…傍観するしかできないのであった。


 …えっ?僕が「大魔導師レスティオルゥ」だってばれてないのかだって?


 そうだな。


 後から応援に来てくれた冒険者達にはばれていない。


 ただし当然だが僕が竜と戦っているところを見ていた人たちは僕のことをその「大魔導師」と気づいている。


 というか「創世の至言」を使おうとすると、省略したとき以外は僕の名前を世界に宣言しながら使用するから必然的に声の聞こえる範囲にいる人には僕が「レスティオルゥ」だと教えているようなものだし…。


 アジダハーカとの戦闘終えた僕のもとに来た八百屋のおじさんがすぐに「ひょっとして大魔導師?」と尋ねてきたしな。


 そして何故か自信満々のルクスが「そうですこの子が大魔導師です!」と返した。


 お前少しは隠す気あるの?


 こうして素早くお触れが町中に広まってしまった。


 が、僕としては平和に暮らしたいし特別扱いしてほしくない…という意向を告げると…。


「わかったよ!それじゃあティオちゃんが『大魔導師様』だってことはあたしら隣人だけの秘密ってことにしようじゃないか!」


「『大魔導師様』がこんなに可愛い子だったなんて驚きね。でもティオちゃんが隠しておきたいなら私たちも引っ越してきた女の子として接するわ」


 こんな感じでみんな可能な範囲で秘密にして普通に接してくれるらしい。


 有難いことだ。


 いきなり「大魔導師様!」なんて言われても僕も困るし、こうしてくれるのは本当にありがたい。


 この恩は何かの形でみんなに返していこうと思っている。



 …で、だ。


 ここまでは何とか問題なかったが、ここまで来て最大の問題が僕の前に立ちはだかり…いや、我が家に上がり込んでいる。


「…お前なぁ…なんでうちに来るんだ。家に帰れよ」


「何を言うのじゃ!我はお主に負けたのじゃからお主に仕えるのは当然であろう!」


「当然かどうか知らんが別にお前はいらない!」


 そう、戦闘のどさくさで褐色美人と化した黒竜アジダハーカが我が家に潜り込んできたのである。


 曰く、竜族は自分より強いものに勝負で負けるとその相手を主人として慕うとかどうとか。


 よだれ流しながらへその辺りを指さすドMドラゴンに懐かれるのはどちらかというとマイナスなのではなかろうか?


 とりあえず全裸だったから僕が以前着ていたローブを着せているが僕より少し大きい体と胸ははっきりとわかりやすい。


 元男としては若干目のやり場に困る。


 未だに自分の姿を鏡で見ると少し照れるのに…。


 すると若干顔を僕が赤らめたことに気が付いたのかアジダハーカがニヤッと笑いこちらに近づいてくる。


「…ふふふ、そうかそうか。そんなに我の身体に見惚れたなら…」


「いや、別にそう言うわけじゃない!誘惑なんかしても…」


「…この魅惑の身体を殴ってもよいのだぞ!」


「…すごいや、今本気で殴ろうかと思ったよ」


 隣に娘がいなかったなら迷わず綺麗なへその辺りにボディーブローを入れていたことだろう。


 少なくともこんなのが我が家にいたら娘の教育に非常に悪いことこの上ない。


 幸いにも娘が人見知り。


 それを理由に断ろうと思い視線をアジダハーカの方へと戻すと…。


「…すごい!竜の羽…!」


「竜の誇りとも呼ばれる翼じゃが…我が主人の娘のティア様なら特別に触ってもよいぞ」


 ローブの端から黒い羽を出した状態のアジダハーカの周りを目を煌めかせたティアが楽しそうに跳ねている。


 どうやら初めて竜を見て興奮しているようだ。


 …しまった、断る理由を篭絡されてしまった。


 これに次ぐ「竜退散案」を考えていたそのとき、僕の服をくいくいと引っ張られてそちらを向く。


 そこには僕の方を見上げて綺麗な瞳をいつも以上に輝かせた娘が見つめている。


「お母さん…アジさんお家にすんじゃダメ?」


「……アジさん…」


 娘がとても悲しそうにこちらに訴えかける。


 どうやらさっきの一件でそれなりに仲良くなってしまったらしい。


 まぁ…当の本人は魚の様な愛称に若干複雑な顔をしているが。


 …残念だが娘に頼まれて僕が断れるはずもない。


「…はあぁ…しかたないから飼ってよし」


「やったー!」


「ペット扱い!?…いや、性奴隷的な…」


「言っておくけど娘の教育に悪い行動を取ったら追い出すからな」


「もちろんじゃ!子供の教育に悪い行動はなるべく抑えるのじゃ!ご褒美のビンタとかでよいのじゃ!」


「それが教育に悪いんだよっ!」


「カカカ!了解じゃ了解じゃ!」


 楽しそうに笑ったアジダハーカが少し僕らから距離を取りこちらに向き直る。


 そして表情を落ち着かせて大きな胸の下に腕組みをして胸を張った。


「では…邪黒竜『アジダハーカ・イグニファテュス』!これより主の隷として仕えるぞ!よろしく頼むのじゃ!」



 そんなこんなで我が家に新しい住人が増えてしまった。


 これから大丈夫だろうか…。

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