第58話 オマケの仕事

 ファルカジアからオードレスまで、俺の船ならちょっとそこまでだ。

 ほぼ最大搭載量の掘削機材を積み、俺たちはオードレスへ大気圏進入ルートに入っていた。

 鉱山の星オードレスに下りてからの予定は聞いていないが、なかなかこないという一般貨物船を放っておくとは思えなかった。

「よし、サム。バランス調整オート、どうせオードレス港だろう?」

『それがよ、鉱山近くの緊急用ポートに下りてくれって指示だ。なんか、あったんじゃねぇの?』

 俺はエリーナをみた。

「重傷の怪我人か病人の可能性があるな。なんとかしてくれ」

「わ、私は医者じゃないぞ!!」

 船が大気圏内に入り地上が見えてくると、正面スクリーンに巨大な鉱山が見えてきた。

「うわ、THE環境破壊て感じだね……」

「その環境破壊がなければ、この船も動かないぞ。色々採掘しているが、高純度の魔法石もある。ここがなければ、今の魔法機械社会が成り立たないんだ」

 エリーナがため息を吐いた。

「分かってるけどさ、なんか微妙な気分になるよ」

「まあ、それは同感だな。この星を食って生活してるようなものだからな」

 地表と一定高度以下にならないと反応しない、正確な電波高度計に数字が出た。

「サム、降下速度が若干速いぞ」

『重いんだよ!!』

 サムの答えは簡潔だった。

「そうか、ならしょうがないな」

「納得すんな。今、重力制御システムを調整するから!!」

 鉱山の脇にある非常用ポートの周りには、何人かの人が待機していた。

 ポートに降着すると、エリーナが飛び出ていった。

「さて、なにかな」

 俺はゆっくりシートから下り、船から出た。

 俺が行く頃には、地面に寝かされた誰かを、エリーナが診ていた。

「なんだ、腹痛か?」

「馬鹿野郎、これは医者が要るよ。ちょっと面倒な病気だ!!」

 俺は寝かされた人をさりげなく診た。

「……うん、肺炎を起こしてるな。単純に風邪を拗らせたかもな。エリーナ、仮眠室の右側に薬品と書いた箱がある。この程度なら問題なく対応出来るぞ。赤い注射器だ」

 エリーナが頷いて、一度船内に戻って小さな円筒形のものを持ってきた。

「軽く痛いが我慢してくれ」

 俺はエリーナに目をやり、エリーナが倒れている人の右肩に円筒形のものを押し当てた。

 これには抗生物質だのなんだの、様々な薬剤が混合された薬液が封入された、一種の注射器だ。

「これでいい、寝かしておけば勝手に治るだろう」

「私がサポートしてくる!!」

 二人に肩を抱えられ、エリーナと共に鉱山の方に向かっていった。

「さて、この積み荷はどうするんだ。まあ、エリーナが戻ってくるまで待とうか」

 俺は船に戻り、シートに座った。

「さてと、さすがにこんな場所に置き去りには出来ないしな。大人しく待っているか」

『大人しくできるかね。アルガディアが気がついたぞ。大規模な艦隊が接近中だ』

 俺は小さく笑った。

「お迎え艦隊か。なにかしたくても、貨物満載で次にどうすればいいかも分からないんだぞ。こんな積載状態でなにをやるんだ」

『おいおい、見て見ぬふりかよ!!』

「一介の貨物屋に、一国の王妃をどう扱えというのだ。いてくれるのは本当にありがたいとは思うが、適材適所という言葉がある。どう考えても、おかしいだろう」

 足音も立てず、隣のシートにエリーナが座った。

「ほらね、どっか適当な場所で置き去り計画してたよ。そんな事をしても無駄だけど、ロックする癖がついてね!!」

 神経インターフェースに手を乗せてから、エリーナはニヤッと笑って俺をシートから引っこ抜いて抱きかかえた。

「手間は掛けるなよ。追いかけるの、結構面倒なんだからな」

「国へ帰れというのが普通だぞ」

 エリーナは小さく笑った。

「勝手に貨物会社設立しちゃったもんね。これで、個人じゃ取れないデカい仕事取れるぞ。よっ、社長!!」

「……なに、俺を社長にしちゃったの?」

 エリーナが笑った。

「なんだよ、私の飼い猫にでもすると思ったか。君以外に社長はいない!!」

 エリーナは俺をシートに戻した。

「積み込む機材がないから、港に移動してくれって。位置はここ!!」

「あんな風邪野郎、港に持ってこい。また一度大気圏外に出ないと、根性の大気圏内飛行でも届かないぞ」

 俺はため息を吐いた。

「急げよ。馬鹿野郎な艦隊を、ぶちのめさないといけないみたいだからさ!!」

「全く、貨物船だぞ」

 俺は苦笑した。

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