第40話 降下待機

 まあ、ちょっとしたトラブルはあったが、俺たちの船はファルファに向かって航行していた。

 氷の星とも呼ばれるここは、あまり天候がいい日がなく、なかなか港に下りられない事でも有名だった。

 知ってか知らぬか、エリーナも楽しい星を選んでくれたものだった。

「余計に時間が掛かった分、腹が減ったな。ここは主要航路だ。どこかにコンビニくらいあるだろう。サム、頼んだ」

『またコンビニかよ。あれだろ、頭にナが付くカードが使える野郎だろ?』

 航路図にいくつかの点が示された。

「うん、宇宙はいいな。これがあるからやめられん」

「まあ、これで宇宙を語られてもね」

 エリーナが苦笑した。

『はいはい、近くの野郎に誘導要請出したよ。今は弁当が値引きらしいぜ!!』

「それはいいな。値引きは重要だ」

「……まあ、数買うからね」

 エリーナがニヤッと笑みを浮かべた。

「また爆買いする気か。豪勢だな」

「だって、お腹空くんだもん。なんでかな、宇宙に出るとね!!」

 エリーナがなにか、やる気満々の顔になった。

「……野菜も食うのだぞ。お肌に悪いからな」

『お前がお肌とかいうな。キモいわ!!』

 船はオートモードでコンビニにドッキングした。

「よし、いくぞ!!」

 俺をシートから引っこ抜いて抱え、エリーナはエアロックからドッキングポートを通って、店内に突撃した。

「おらぁ、買うぞ!!」

 俺を床に放り投げ、エリーナはカゴを山ほど持って走っていった。

「うむ、放り投げたぞ。俺など、それでいいのだ」

 俺は笑みを浮かべ、ゆったりと店内を回った。

「うむ、ひげ剃りはいらないな。剃られたら困る。なにしろ、特に食い物はほぼ全滅だからな。まあ、まだ冷凍食品に手を出してない辺り甘いがな」

 どこで聞いていたのか、エリーナが突っ込んできた。

「まだ見ぬ食べ物があるのか!?」

「怒鳴るな、うるさい……」

 俺が冷食コーナーを示すと、エリーナは一袋取ってその手を震わせた。

「こ、こんな、温めるだけのほぼ完成品が。知らなかった!!」

「うむ。ちなみに、焼きめしはなかなかな美味いぞ」

 ……結局、コンビニは食い物だけ空っぽになった。


 コンビニである意味暴れた俺たちは、再びファルファに向かって航行を再開した。

「だから、おでんの熱々たまごを俺の口にねじ込むのはやめろ!!」

「どーだ、美味いだろ!!」

『もはや、拷問だな……』

 船は航行を続け、やがてファルファの交信圏内に入った。

『あーあ、やっぱり猛吹雪だ。国際港は下りられないぜ!!』

 サムの声に俺は小さく笑みを浮かべた。

「今は仕事じゃないから、ムチャな事はしないからな。調べたのか、ここがなかなか下りるチャンスがない星だって」

「そ、そうだったんだ。まいったな……」

 エリーナは携帯端末を操作し、ため息を吐いた。

「ダメだ。どの港も悪天候で下りられないし、下りたところでそこから移動できない。国際港じゃないとダメなんだよね」

「なら周回軌道でも回って、ゆっくりしよう。そのうち晴れる時もある」

「大量に食料買っておいてよかったよ。まあ、ゆっくりしようか」

 エリーナが、俺をシートから引っこ抜いて抱きかかえた。

「これを抱えてれば、すぐに晴れる!!」

「……頼むから、首に縄を付けて軒先にぶら下げるのだけはやめてくれよ」

 こうして、俺たちは降下待機に入ったのだった。

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