第14話 改造開始
通常空間に戻ると、レーダーの最大レンジの端っこに反応があった。
『オヤジだ。いきなり出てきたから、マジでビビってるぜ!!』
「そりゃそうだろう。減速しろ、ドッキングの準備だ」
俺は苦笑してエリーナを見つめた。
エリーナは小さく笑った。
『誘導システム、オートモード。この相対速度なら百二十秒もあれば会合できるんじゃねぇの』
「分かった。ついでだから、最大出力を気持ち上げてもらおうか。今後を考えたらな」
『お前はバカか。今だってギリギリなんだぞ。これ以上上げたら、エンジンか船のどっちかぶっ壊れるぞ!!』
「……カレドー級軽貨物船ですよね。小型貨物船ですが、設計が古いので過剰なまでに頑丈な船体強度を持っています。データをみる限り、こちらは全く問題がありません。しかし、エンジンがもう改造の限界を超えていますね。これ以上弄ってしまうと、爆発の危険があります。もし、やるならエンジンを換装するしかないでしょう」
エリーナが、正面パネルの画面をみながらいった。
「そうか。いや、そこまでする必要はない。これに見合ったエンジンなど、そうそう転がっているものではないからな」
「……転がってはいないでしょうね。でも、届いていたら?」
エリーナが携帯端末を片手に、笑みを浮かべた。
「最初から危ないと思って、手配しておいたんです、アルガディア製で嫌かもしれませんが、通称「ブラック・バード」を四発確保しておきました。とある場所から発進したと連絡が入りましたので、先ほど抜けた転送ゲートから飛び出て追い越していくはずです」
「ブラック・バードだと。まだ開発されたばかりで、輸出すらしていない最新の大型船用のエンジンじゃないか。どこから、そんなものを?」
エリーナは笑みを浮かべるだけだった。
『おいおい、俺も公表データしか知らねぇけどよ、あんなバケモノを四発もつけた小型貨物船なんてイカレた野郎は、そうそういねぇと思うぜ。こりゃ、また罰金が増えるな!!』
レーダーの後方に反応があり、瞬く間に俺の船の脇を通り抜けていった。
「……あれか。オートモードとはいえ、まだそれなりの速度があるのに、あっさり抜かれたぞ。トロい大型貨物船のくせに」
俺は神経インターフェースに手を乗せた。
『拒否。今はオートで気軽にいきてぇんだよ。これだから、猫はよ!!』
「逃げるものは、追いたくなる?」
エリーナが俺を座席か引っこ抜いて抱きしめた。
「ダメ、分かった?」
エリーナは諭すようにいって、ちゅ~るを取りだした。
素早く封を切って、俺の口の目で少しだけ絞り出して見せた。
芳醇な香りが俺の鼻をくすぐり、気がつけば食っていた。
「そうです。これを食べていて下さい」
俺を撫でながら、エリーナは笑みを浮かべた。
「……だから、なんなのだ。この扱い方は?」
俺はちゅ~るを貪りながら、ため息を吐いた。
オートで航行しているうちに、正面スクリーンにこの種の船にしては小ぶりのものが見えてきた。
「これがオヤジの店だ。キレート級ドッグ船だな、もう骨董品レベルだ」
俺は笑った。
ドック船とは、宇宙で船の整備などが行える特殊な船だ。
船外に係留した状態で、作業員が宇宙に出て作業するオープンドッグ方式と、船内に収容して作業するクローズドドッグ方式があるが、この小型ドッグ船がクローズドドッグ方式なはずはなく、オープンドッグ方式専用だった。
『ボロ船を弄るにはボロ船だぜ。あんなんでも、普通はできねぇっていわれてるエンジン換装までやっちまう馬鹿野郎だからな!!』
「まあ、馬鹿野郎なのは間違いないな。この船をこんな感じにしてしまったからな。ついでに、中の自販機は一般的な価格の二倍だ。セコいぞ」
『お前の方がセコいぜ。気にするなよ、そんなの!!』
エリーナが笑みを浮かべた。
「古い船は好きですよ。なんというか、ロマンを感じます」
俺は笑った。
「おい、ロマンだとさ」
『お嬢さんも病気かよ。この猫野郎も素直に新型にしておけばいいのに、ロマンがないとか抜かしてわざわざ旧型船にして、中身はこれだぜ。意味が分からねぇよ!!』
船はオートコントロールで、ドック船のドッキングポート兼ドッグに近づいていった。
無事にドッキングに成功し、俺はシートのベルトを外した。
「よし、いこう」
「はい」
俺とエリーナはエアロックを経由して、ドッキングポート内の通路を歩いた。
ドッグ船の船内に入ると、昔気質の頑固一徹技術者オーラ抜群のオヤジが睨んだ。
「おい、なんだあの最新エンジン四発はよ。どこで拾ったんだか知らねぇが、あんなもんわけ分からねぇよ。データがねぇんだからよ!!」
「ああ、詳細データはこれです」
エリーナが携帯端末の画面をオヤジに見せた。
「なんだ、生意気に従業員でも雇ったのか。どれ……」
オヤジはエリーナの携帯端末の画面を延々とみていた。
「……基本的には今のと変わらないか。ちとばかり、改造が必要だがな。まあ、問題ないだろう。ただ、これは高くつくぞ。古いエンジンの処理費用だって、バカにならないぜ。本当にやるのか?」
「見積もりは?」
エリーナがすかさずいった。
「んなもん出さねぇよ。これでやるって最初に決めた額しか取らねぇ。そうだな……」
オヤジは自分の携帯端末を弄った。
「こんなもんだ。お友達割引でな」
「分かりました」
エリーナはオヤジの携帯端末に指を当て、とっとと決済してしまった。
「……マジだ。ちゃんと入金されてるぞ。よし、こうなったら気合い入れて作業するぜ。こりゃ、上顧客にランクアップだな!!」
オヤジは上機嫌で別の部屋に移動した。
「……おい、いくらだったんだ。オヤジの反応で分かる。かなりの高額だぞ」
「いいじゃないですか。休憩室みたいな場所、ありますか?」
エリーナは、俺を抱きかかえていった。
「あ、あるに決まっているだろう。そこの階段を上った先だ。これは、いよいよいかんな」
「なにがいかんのですか?」
エリーナはすかさずちゅ~るを取りだした。
「……い、いや、いいけど」
「はい!!」
こうして、船の修理というよりは改造作業が始まった。
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