猫の船長
NEO
第1話 出会い
「だいぶガタがきてるな。そろそろ、オーバーホールかな……」
無駄とよく笑われる大出力が自慢の巨大な魔道エンジンの点検ハッチを開け、自動点検修理装置の神経インターフェースに手を乗せながら、俺はため息を吐いた。
ガラート港二十八番スポットが、俺の船の定位置だった。
数千年の魔法研究の積み重ねは機械と融合し、今や宇宙のほぼ全域が人と呼ばれる生物の生活圏になっていた。
もっとも、それに俺のような猫が含まれている事に、どれだけの人が気がついているか分からないが……。
「全く、同じエンジンが四発あるんだぞ。確かに無駄だよ、オーバーホールにいくら掛かると思ってるんだよ。十年前のポンコツのくせによ……」
俺はブチブチいいながら、日常点検を続けた。
エイラート級小型貨物船改。それが、俺の船だった。
俺の仕事は簡単で、どっかの惑星のどこの港からどっかの惑星の港まで物を運ぶだけ。
同業者は腐るほどいたが、差別化を図るために選んだ方法が過剰なまでの高速輸送だった。
他は知らないが、この界隈では間違いなく最速だった。
その代わり、船の維持コストが半端なく高いので、浅はかだったかもしれないと思う事もしばしばだった。
「さてと……ん?」
一通り点検を終え、片付けをしようとしていると、人間の年齢は正確には分からないが、まだガキといってもいいくらいの少女が、真剣な顔をして立っていた。
「俺に気配を悟らせずに近寄るとはな……そんなマジな顔してどうした?」
俺が聞くと少女は頷いた。
「仕事をお願いしたいのです。積み荷は私自身、目的地はアルファトのエラン国際港です」
「……そこなら、ここからでも普通に快適な定期旅客便が出てるぜ。わざわざ、こんなポンコツで乗り心地が悪い貨物船を選ぶ理由が分からないが?」
少女は薄いカード形の携帯端末を取りだした。
「おいおい、もう報酬の交渉かよ。そんなに急いで、どうしたんだ?」
「その速さが欲しいのです。この界隈で最速と聞きました。事情を聞かない分の料金も含めて、この位で……」
少女が見せた携帯端末の金額をみて、俺は笑った。
「おいおい、定期便を全席買い占めても釣りが山ほどくるぞ。なんか訳ありか……普通は引き受けないが、どうも冗談で流せる空気じゃないからな。こんなボロ船でよければ引き受けよう。いっておくが、快適さとは無縁だぞ。いいのか?」
俺の問いに、少女は頷いた。
「はい、承知の上です。もう二割乗せておきます」
少女は端末を操作した。
小さな電子音が聞こえ、決済処理が終わった事を告げた。
「久々の大口だな。まっ、どうも平穏な航海とはいかなさそうだがな」
俺は笑みを浮かべた。
もう一度いうが、このオンボロは貨物船だ。
船体のほとんどは、貨物を載せるためのカーゴスペースになっていて、乗員の居住スペーは狭い操縦室周辺くらいだった。
「さて、人なんて乗せないからな。まあ、使っていない副操縦士席にでも座ってくれ」
それは、俺の隣の席だった。
使っていないので、雑誌だのなんだのが転がっていたが、俺がやる前に少女が丁寧に片付けた。
「高い金払ってくれた客にやらせちゃ悪いな」
「いいですよ、無理いって乗せてもらっていますので」
少女が笑みを浮かべ、隣の副操縦士席に座った。
「あの……失礼ですが、猫が一人でこの船を動かしているのですか?」
不思議そうな少女の問いに笑みを浮かべ、俺はシートの神経インターフェースに手を置いた。
『眠い……』
リアルな男声の合成音声が聞こえてきた。
「管理AIのサムだ。コイツがいれば、猫だって船を動かせる。フザケタ野郎だがな」
「か、管理AI……高性能船にしか搭載されていないはずなのに」
少女が絶句した。
「だから、維持コストがな……我ながら、ムチャな事をしたものだ。サム、仕事だ。色々起動しろ」
『仕事かよ。面倒くせぇな……。ちょっと待ってろ』
「……」
「こんな調子だ。やる事はやるから、問題はないぞ」
俺は笑った。
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