銀色の騎士

柚木現寿

第1章 罰則

1 同期との日常

 ピピピピピッ…。

 起床を告げる目覚まし時計の電子音が遮光カーテンに光を遮られた薄暗い部屋に鳴り響く。


 サラサラとした銀髪を枕の上に散らした青年、ユース・ライトフォードはその音に導かれるように覚醒を始め、長いまつげに縁どられた目を閉じたまま手探りでその目覚ましを止めた。


 ゆっくりと目を開ければ透き通った紫の瞳が覗く。


 寝起きでぼんやりとした意識のまましばらく高い天井を見つめていたユースは起きるために体勢を変え、その先に見えたあり得ない光景に動きを止めた。


 自分のベットにもう一人の男が寝ている。

 薄暗いこの状態でも金だとわかるほど色の薄い髪を持ち、ワイシャツの胸元を大きく肌蹴させた二十代半ばの男だ。

 ひとつひとつ確認をして、やがてそれが自分のよく知る人物であることに気付く。


 名はアーセル・ヨークシャー。年齢はユースの一つ上の二十五歳で、同じ王直属の騎士団精鋭部隊、通称ディベールスに所属する騎士である。

 頭の中から相手の情報を引き出しながら自分の枕の下に手を伸ばし、銀のフォルムが美しい愛用の銃を取り出す。

 そのまま隣で気持ちよさそうに眠るアーセルの額に銃口を押し付け、躊躇いなくその引き金を引いた。

 

 パンッ。


 朝の静寂を引き裂くような乾いた音が響く。

 同時に血の海になっているであろうベットは、しかしそうはならなかった。

 ユースが引き金を引く直前に寝起きとは思えない反射を見せてアーセルが飛び起きたからだ。

「な、なんだ?」

「おはようアーセル。俺のベットは気持ちよかった?」

 

激しく動揺するアーセルとは対照にユースはベットに寝ころんだままニコリと微笑む。

 片手に持った銃を弄びながら。


 そこでようやくユースを認識したアーセルは一瞬にしてその表情を強張らせた。


「えっと……これは……つまり、ですね……」

「うん。わかってる。昨日また女と遅くまで酒飲んで酔っ払って帰ってきた挙句、部屋を間違えて俺のベットに入り込んだんだろ?」

「……よく、お分かりで」


 気まずそうに目を逸らすアーセルを太陽のように眩しい笑顔でユースが見つめる。

が、次の瞬間にはその笑顔を消して鋭い眼光でアーセルを捉えた。


「いい度胸だ」


 ひいっというアーセルの悲鳴と共に再び銃声が響く。


「ごめんっ、謝る!謝るからやめろ!」


 そんな悲痛な声には完全に無視を決め込んで、逃げ惑うアーセルに遠慮なく弾を撃ち込み続ける。


 合計8発。

しっかり数えたところで引き金を引く手を止め、銃を降ろした。


 「残念、弾切れ」


 にこにこと笑って肩を竦めて見せるユースの視線の先には魂が抜けたように床に座り込むアーセルの姿がある。

 その背後の壁にはアーセルの身体を縁どるように銃弾がめり込んでいた。


「今消費した分の弾あとで届けてね。あと部屋の修理今日中にやっといて」

「や、今日中はちょっと……。俺にもにん―――」


 パンッ。


 任務があると言いかけたアーセルの顔面すれすれに銃弾を撃ち込む。


「ごめん。まだ一発あったわ。弾を装填した状態で新たに弾を装填すれば一発余分に補充できるんだよね」


 悪びれもなく言い放ったユースに血の気が引いたアーセルは小さく今日中にやらしていただきますと返す。

 その答えに満足そうに頷いて、ユースはようやく銃から手を放すと優雅な足取りで寝室から続くバスルームに消えて行った。 

 その際に「どーでもいいけどお前今日朝の見回りじゃなかったっけ」という爆弾を投下して。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る