辻真先先生は今でも尊敬してます

 辻真先先生の新刊をこの前読んだ。帯に「ミステリ界のレジェンド」とある。大げさなようでいて、ちっとも大げさじゃない。1932年生まれ。僕が子供の頃からずっとテレビアニメの脚本を書いてきたというスゴイい人だ。『鉄腕アトム』や『ゲゲゲの鬼太郎』『エイトマン』『デビルマン』『コン・バトラーV』『サザエさん』……。「この人の書いてないシナリオを数えた方が早い」と言われてるぐらいだ(笑)。ミステリ作家として大御所になった今もちょくちょく『名探偵コナン』のシナリオを書いてるぐらいだ。

 そんな辻先生の新刊は『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』。文字通り辻先生が10代の頃の青春時代が背景のミステリなのだ。読んでるとすごく懐かしい。辻先生が若い日に書かれた『仮題・中学殺人事件』を読んでましたから。あれは僕のフェイバリットです。いやー、尊敬してます。

 その最新刊、『たかが殺人じゃないか』(東京創元社)、辻先生の魅力がぎっしり詰まっている。終戦直後だから僕らのよく分からないトリビアが次々に出てくる。それでいて若者たちの考え方は現代的。当時の歌謡曲やらヒット映画なんかの筋とかがぽんぽん出てくる。おもわず『仮題・中学殺人事件』のキリコを連想してしまった。

 しかし、当時の話題は難しい。僕も古い映画を山のように見たつもりだったけど、それでも辻先生の博識にはかなわない。あと、この時代の小説ね。何しろSFなんてぜんぜん訳されてなんかいない時代(笑)。他にも探偵小説がほんのわずか。昭和24年なら日本語版『アメージング・ストーリーズ』すらまだ訳されていない。(前に同人誌作ったことがあるので知っている。日本語版『アメージング・ストーリーズ』が訳されるのはこの翌年だ)゜

 だからね、この作品を書くのに使った辻先生の努力には素直に敬服する。まさにあの時代を本当に生きた人間にしか書けない小説だ。

 さらに、このタイトル。「たかが殺人じゃないか」というフレーズが絶妙のタイミングで発せられるのに感嘆した。そう、日本人の誰もが「たかが殺人じゃないか」と思っていたその日時に発せられるのだ。たまらん。やっぱり辻先生は天才です。


 ところで最近、古いアニメを見直すことが多いのだが、『海底少年マリン』を

見直していて、スタッフの名前に「脚本 辻真先」というのがやたらに多いのが気になった。脚本の半分ぐらいは辻先生の執筆なのだ。昔、辻真先氏のフィルモグラフィを作るんで履歴を徹底的に調べたことがあるんだけど、『海底少年マリン』はすっぽり欠け落ちていた。ほんとにどんだけたくさん脚本書いてたんだ、この人は。

(もうひとつ謎だったのは『サザエさん』。すでに辻先生自身にも何本書いたのか分からないらしい)

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