美魔女陽子(1)
午後七時ちょうどにbarの扉を開ける。
「陽子さんいらっしゃい」
少し低めの艶のある声に一瞬鳥肌が立つ。
入り口の傘立てに傘を預け、まだ誰も座っていないカウンターの一番奥、いつもの席に陽子は腰を下ろした。
「外けっこう降ってますよね」
「ええ、三十分くらい前から急にね、ケンちゃん、いつものお願い」
シェイカーを振る腕にうっすらと浮かぶ筋肉に陽子は視線を這わせる。
「どうぞ」
目の前に置かれたのはいつもと違うカクテルだった。
「あら、いつものじゃないじゃない」
「今日の陽子さんはこんな感じだから」
淡い黄緑の中に赤いチェリーが沈んでいる。
「こんな感じってどんな感じ?」
「いつもより綺麗だってことだよ」
綺麗。
初めて男からそう言われた時、天にも昇る心地だった。
でも今はその言葉はただの単語でしかない。
「ここに来る女、みんなにそう言ってるんでしょ」
「そうだけど、陽子さんだけはお世辞じゃなくて本気」
自分より一回り以上年下の賢一の顔を見るために週に三回、このbarに通い始めてはや半年。
それまでBar通いなどしたことがなかった陽子だったがエステサロンの帰りにたまたまふらりと立ち寄った店がここだった。
最近の女子化する若い男たちと違い賢一は昭和の男たちが持つギラギラしたいやらしさを持っていた。
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