第5話「騎兵隊突入」


「げっ!!」


 要塞前に降り立った女将校を見て、ビリィが驚愕している。


「あぁ? どうした?」

 ビリィに撃たれた腹回りが酷く傷んだが、気にしないふりをして平静を装い話しかける。


「や、ややや──やべぇ、御人おひとがいるぜ……」


 ダラダラダラ……と脂汗を流し始めるビリィ。


「誰だ? 知り合いか──」

「──エリナ・エーベルト……女史。今はアメリカ陸軍の少尉をやってる……一応、幼馴染だよ」


 はぁ?


「仲は───」

「良いわけねぇだろっ! ──あぁ、ちくしょう。最っ悪だ……」


 ひぃぃ──、と言って頭を抱えるビリィ。

 そして突然思いついたように顔を上げると、


「が、ガルム! こ、ここ。こここここは、て、てて停戦しないか? なぁ?!」

「あぁ!? 何を言ってる」


 思わず突き放そうとしたガルムだが、状況は極めて悪いと認識している。


 外では──ドパン! バキュン! と騎兵隊が盛んに射撃しまくっている。

 一応、ビリィの手下が応戦しているが全く通用していない。


 民用の雑多なライフルに比べて、大口径大威力の軍用の正式ライフルが撃ち合ってるのだ。

 オマケに練度がケタ違い。


 ──初めから勝ち目などない。


 保安官補佐達は不安げに顔を見合わせているが……。


「(保安官シェリフ! 降伏しましょう)」

 こそこそ、保安官補佐達が耳打ちしてくる。

 そりゃこの状況だ。どう見ても無法者アウトローを取り締まりに来た軍隊にしか見えないが……そんなに単純な話だろうか?


「まて! 何かがおかしい!」


 ガルムは、どう見てもエリナという少尉が、ただ無法者アウトローを取り締まりに来ただけには見えなかった。


保安官シェリフは何を迷っているんです? このままじゃ、誤射で殺されちまう!」

 チンピラまがいの保安官補佐どもも、普段は気が大きくくせに、大砲の攻撃を受ければたちまち士気が低下してしまう。

 仕方がないとは言え、情けなくも思う。

 だが、それは南北戦争に従事したガルムにはよくわかった。


 それだけに大砲の破壊力は驚異的なのだ。


「まて! 動くな!」

 ガルムは制止するも、恐慌状態に陥った保安官補佐どもは聞く耳を持たない。

 

「お、俺たちは好きにするからな!」


 それだけ言うと、保安官補佐達は固まって正面から出て行ってしまう。

 ゾロゾロと銃を頭上に掲げて、抵抗の意思はないと──。




「あら、ご機嫌用? ───そして、さようなら」

 ニッコリ──。


 パァァン!


 と、先頭の一人が何気な~く撃ち殺されると、ここでようやく事態に思い至る。

 軍は、味方ではないと────。


 あわてふためき応戦しようとする保安官補佐たちが、見るまに蹂躙されていく。


「くそっ、何が起こってる!? ……ビリィ! あの女はお前を探していたぞっ」

 ガクガクと震えるビリィの胸倉を掴むと、ガックン、ガックンと揺さぶる。


 そうだ……酒場で内偵していた時、確かにビリィの手配書を手にしてエリナはあそこに来た。


「わわわわわわ、わっかんねぇよ!!」


 揺さぶられながらも、首を振るビリィは、

「と、とにかく逃げようぜ! このままじゃ全員殺されちまうよ!」


 「ひぃぃぃ」と情けない声を上げるビリィは年相応に見えた。


「情けない奴だ……」

 しかし、このままではまずいことも明白。

 もはや指揮系統から離れた保安官補佐達は、我先にと逃げ惑い、正面から乗り込んできた騎兵隊に蹂躙じゅうりんされている。


 一部では応戦している者もいるようだが──……。


 くそっ、

 かなうものか!



「こここ、こっちだ! 来い!」

 突然、ビリィが立ち上がると、最後までビリィの手下どもが立て籠っていた建物──元司令部に向かって走り出す。


「逃げるのか? 馬がないと逃げきれんぞ!」


 そうだ。そうなのだ。


 ビリィ達はともかくとして、ガルム達は要塞攻撃のため馬を隠して接近した。

 そのおかげで逃げようにもがない状態というわけだ。


「わぁっーてるよ!」


 ダダダダッ! と、若さを見せるかのように健脚っぷりを見せるビリィに、ガルムはヒィヒィ言いながら追従する。

 その過程で───。



 ──みぃぃぃつ・け・たっ!



「やっほー……ビィィィリィィィィちゃぁぁ~ん」


 エリナとビリィの目があったらしい。


 彼女は、それはもう──美しい笑顔で、

 ビリィはもう──それは、それは、死人のような表情で、






「あーーそーーびーーまーーしょ?」





 「ひぃぃぃぃぃ!」と、まさに脱兎のごとく駆け出すビリィ。

 ピョンピョンと飛び跳ねる様は確かに兎だ。


 というかもう、要塞内が大パニックだ。


 生き残った保安官補佐達も賞金稼ぎも、ビリィの手下も一様いちように逃げ惑っている。

 たまに反撃しても、一発撃ったら十発帰ってくる始末。


 なんとか、外に逃げ出した奴も──いるにはいるが……、巡回している騎兵に捕捉されてあっと言う間に斬り殺されていた。


「おい! どうするんだ?」

「いいからついて来いって! ……あんた位の腕前でないとアイツ等は……アイツ・・・からは逃げられねぇよ!」


 ようやく司令部に到着。

 バンッと、乱暴に扉を開けると、中には馬車が──……!


 大型車輪に2頭立てのそれ。

 荷台には……


「お前、これで逃げる気だったのか?」


 それはもう。なんというか、もう──……ドル紙幣やら、金貨やら金塊やらがギッシリ。

 武器も積まれているし、ちょっとした食糧もある。


「なんかあった時の逃走用だ。まさになんかあった時・・・・・・・だろ? 今は!」

「あぁ、分かった……だが、ここを切り抜けたらケリをつけるからな」

「好きにしろっ」


 ビリィが壁についているレバーを操作すると、

 ゴギギギギッギ──と音を立てて、床板が開く。

 

 どうやら、地下へと続く道があるようだ。 コォォォオオオ──と風が吹いているところを見ると、どこかに通じているのだろう。





「要塞時代の抜け道だったみたいだぜ」




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