ジャングル(長い話)
くまみつ
12日間の長い話の始まり-1日目
ジャングル。密林。けもの道。
クマやパンダが踏み固めた道をスニーカーで踏みしめる。ここは熱帯。
木の枝をつたうのはカラフルな蛇だ。うろこが光る。あざやかな紅い花からしたたる蜜に蜂が群れる。
ここは熱帯。ジャングル。
僕は軽く音をたてて折れる枝や葉を踏みしめながら木の間を縫うように歩いた。
見上げると木漏れ日がまぶしい。
「世界が終わったとはね。」
木星3個ぶんほどの巨大隕石が太陽系の惑星軌道をめちゃめちゃにして去った。
海王星と冥王星はあっさりと太陽の引力圏から逃れて挨拶もなしに外宇宙へ旅立った。
土星のリングが散らばって弾け飛び、ビー球みたいにぶつかり合いながら自由への旅に出発した。
地球は一度大きく外宇宙に引っ張られ瞬間的に氷河期に入った後、ふたたび金星と火星の間の定位置に奇跡的に戻ったのだ。そしてどういうわけか僕の家あたりが熱帯、ジャングルになってしまった。
すべての人類が突然の氷河期で死滅。偶然にも冷蔵庫に閉じ込められていた僕は、コンデンスミルクをなめながらなんとか露命をつないだ。冷蔵庫に閉じ込められた時は、狭いし漬物は匂うしで随分不運を嘆いたものだけど、気温が元に戻り自然に冷蔵庫のドアが開いた時には幸運に感謝しないわけにはいかなかった。
なんと美しい世界だろう。ドアの外にひろがる熱帯のジャングル。カラフルなオウムが羽を広げている。世界は不思議に満ちている。僕と同じように冷蔵庫に避難していた動物たち。ずいぶんたくさんいるもんだ。
僕は冷蔵庫業界のみなさんのがんばりを讃えつつ、氷河期を前に冷蔵庫に駆け込んだ賢い動物たちの野生に感心した。人間が失ったものを彼らはしっかりと持っている。冷蔵庫の使い方も心得ている。
僕はコンデンスミルクを捨て立ち上がった。おだやかな夕暮れの光が僕の頬を赤く染めた。
「世界は今、生まれかわった。」僕は宣言し、最初の一歩を踏み出した。
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