第5話
暗闇だった俺の視界が少しずつ明るくなってきた。
少しずつ見えてきた視界にはさっきと同じ彼女の部屋が映る。そしてその中心にいた彼女は頭を抱えながら、何かを考えているようだ。これもやはり今まで見たことのない彼女の姿だった。
だが、その姿にどこか安心感がある。何故だろうあの彼女には人間味が感じられるのだ。彼女の行動に何の違和感もないのだ。だから俺は安心して声を掛けられた。
「ねえ、君は君じゃないんでしょ?」
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後ろから彼の声がした。
私は後ろを振り向いた。
彼はいつの間にか石化から解放されていた。
彼の目には彼女がしっかり映っている。
聞き間違いかもしれない。
だから……。
「えっ、それはどういうこと?」
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彼女はピンときていない様子だ。いや、気づいていないふりをしているのだろう。彼女の眼は何かを隠しているように見える。だからここは白黒はっきりつけてやらなければ。
「つまり、君は演じているんだろう?」
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彼は何か確信しているように思える。
これは言い逃れ出来ない。だから私は演じるのをやめた。
「いつから気づいたの?」
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彼女はやはり黒だった。その声からは落ち着いているように思えるが、顔にはかなりの動揺が見える。
「確信はなかったんだ。ある意味一か八かな。君は君じゃない誰かに操られているような気がしたんだよ」
「でも……」
「それに、それだけじゃないんだよ」
「どういうこと?」
「実は俺も中身は慧じゃないんだ。つまり君と同じで、俺は慧をずっと演じていたんだよ」
——————
彼はそう言って、ふう、と一息ついた。かくいう私は彼の話を信じた。すんなりと受け入れた。彼も慧を演じていたのであれば、彼があの本の慧とは別人に感じたのも合点がいく。
「つまり、慧――じゃなくてあなたは私と同じでずっと演じていたっていうの?」
「そういうこと。ここしばらく寝るといつもこうなんだ。でも、こうやって夢の中で人と会えるなんてなんだか嬉しいな」
「……えっ、夢の中ってどういうこと?」
——————
彼女はピンと来てない様子だ。でも、今回はフリでもない。本当にピンと来ていないのだろう。彼女の頭の上にはたくさんのクエッションマークが浮かんでいる。つまり彼女は俺とは違い、今ここにいるのは寝ているからではないというのだろうか。じゃあ一体彼女は何者なのか。
「俺は今、自分の夢の中にいるというわけなのだけど……。君はそうじゃないって言うの?」
——————
彼は確かにそう言った。ここが自分の夢の中であると。一方で私はどうなのだろうか。
結局のところ私がなぜここにいるのか未だにわからない。でも、彼と話せばなにかが分かるかもしれない、そう思ってやまない。
だから、私は彼に全てを告白することにした。
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