Part.5 祝祭は 忘れた頃に やってくる

ハロー!私、唯野 凜。現在所持金200円。

家から結構離れてるから普通にピンチだよ!

そうこう言ってる間に残り80円……もうマヂ無理……私みたいなド素人は牛鮭定食すら食べれないんだって……




   *




「さあ、今年もこの時期がやって来たね!

みんな大好き、クリスマスだよ!!

今年はサンタさんに何を貰えるのかなー?

楽しみだね♪」


いつもの部屋の窓からはクリスマス仕様の飾り付けがされた街の様子が見える。

何故この時期にクリスマス? と思う者も少なからず居るだろうが、編集やエンコードに時間がかかっただけで撮影されたのは紛れもなく12月である。

そもそもジャパリパークでは年に2回以上クリスマスがあるので何もおかしな話ではない。



「なんと実は今回、ゲストを呼んでるよー!

勘の良い皆なら画面の端の方でチラチラ映ってたのが気になってたと思うけど一応紹介するね?

パークの平穏を心から祈ってくれる優しい狐の神様――オイナリサマだよー!」


「唯野さん!?見切れていたのなら何故教えて下さらなかったのですか!?」


「まあまあ、ソワソワしてるところ、可愛かったよ?

そういう親しみやすさは大事だからね。特にオイナリサマって名前にサマが入ってるから呼び捨てにしてても距離感があるんだよね。

実際ちょっと偉そうじゃない?処す?処す?

……と、いうことで、オイナリサマってなんか偉そうだと思った視聴者は赤のコードを、思わなかったら青のコードを切ってね!」


視聴者にアンケートらしき呼び掛けをしてみるが生放送ではないので反応は返ってこない。

そもそも間違った方を切ると爆発するタイプの爆弾を解体しながら動画を見る者はどちらかというと少数派に属するので参考程度にしかならない。


「はぁ……どう反応すれば良いのですか……?」


馴染みのないテンションについていけず困惑するオイナリサマ。

こればっかりは慣れて貰うしかないのである。


「まぁ、普通にクリスマスパーティーしてるところを流しておけば大丈夫でしょ。

美少女二人なら何やってもえるし、どう見てもキリスト教徒じゃないオイナリサマがクリスマスを祝うっていう高度なギャグとも取れるからね」


「自分で美少女と言い切りますか……

それはそうとして、これは一体どういうことですか?」


目前に並べられた料理の数々を指さしながら疑問を口に出す。


「やっぱり祝い事ならお寿司でしょ?

あ、自分の名前が付けられた物を食べるのって抵抗あるよね?いなり寿司は私が食べてあげるね!」


「完全にわざとやってますよね!?何の嫌がらせですか!?」


次々といなり寿司を平らげていく凜。

一方でオイナリサマの前にはサーモン・炙りサーモン・サーモンチーズetc. 良くも悪くも大衆向けのネタが乗ったお寿司が押し付けられていた。


「せっかくですからいただきますけれども、えぇ」


多少の不満はあるものの上品な仕草で寿司を口に運ぶオイナリサマ。

ギャップが大きすぎてなかなかにシュールな絵面である。


「どうかな?私特製のお寿司は美味しい?」


「貴女が作ったのですか?

てっきり職人の方が作ったものかと……

意外でしたが美味しかったですよ?」


何も乗ってない皿を片付け始める凜。

その後、スペースの空いた机の上にショートケーキを6つ運んで来た。


「さて、お楽しみのクリスマスケーキだよ!

1つだけワサビがたっぷり入ってるから気を付けてね?」


「まったく、貴女は……何故普通に食べさせてくれないのですか」


「ワサビ入りもある意味おいしいから大丈夫だよ。

私はどれがワサビ入りか知ってるからオイナリサマが先に食べる分を選んでよ」


「はいはい。仕方ないですね。

それでは――この3つをいただきます」


「私がこっちの3つだね。1つずつ食べていくよ。

うん、あまーいケーキだね」


凜の1つ目は至って普通のケーキ、セーフ!


「こちらも大丈夫のようですね」


オイナリサマも1つ目をクリア!


「どれがワサビ入りか知ってるせいでちょっとアレだけどこれもおいしいケーキだよー」


凜の2つ目も普通の味。


「2つ目もワサビ入りではなかったようですね。

ということは――」


次にどちらかがワサビ入りを食べることになる。

そんな局面でも意に介さずケーキを口に運ぶ凜。


「……んっ!

ちょっとツーンとしたけど普通のケーキだよ。

セーフだね!……ケホッ!!ケホッ!!」


(セーフでは)ないです。


「どこが普通のケーキですか……

フォークがワサビまみれではありませんか。

しかし、これで安心して食べられますね」


最後に残ったケーキを食べるオイナリサマ。

当然ながらワサビ入りではないはずである。

だがその時、異変は起こった――



「?!!?!?!!?!ゴホッ!ゴホッ!!ゲフッ!?」



突然むせるオイナリサマ。

その訳はというと――



「へへっ、ハバネロを入れちゃいけないなんてルールは無かったぜぇ?フリーダムだろぅ?」


フリーダム芸人、凜ちゃんの持ちネタが炸裂。

そもそも何故始まったのかもよく分からないロシアンショートケーキは引き分けのようだ。


この後、オイナリサマがわりと真面目に怒り動画としては見るに堪えない状況となった。その為、序盤の凜特製のお寿司が注目を集め、作って欲しいという依頼が殺到した。

彼女が大人気寿司職人になる日もそう遠くない――

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