137.トレクト・ランス・スタンピード2

 勇者たちのすぐ近くでは、勇者たちの様子を気にしつつ、アリア、アルバート、ソフィアが戦っている。


 アリアとソフィアは、氷魔術、アルバートは、弓だ。史郎の作ったやじりを使っている。


「しかし、そのやじりはすごいな。私たちも弓を使った方が効率的なような気がしてきたわ」とアリア。

「そうだな」とソフィアは苦笑した。


 アリアとソフィアはそれなりの強力なせんめつ魔術を使えるのだが、今回のような場合、森そのものを破壊しないように、威力なりを調整しないといけない。そうすると、逆に、トレクト・ランスにダメージが与えにくいのだ。


 的確に当てること事ができる弓で、効率的な電気ショックによる攻撃は、結果的にいちばん効率がいいということが分かったのであった。



     ◇



 さらに、別の場所。シェリナ、アルティア、ユイナも戦闘を行っていた。三人とも、かつての冒険者パーティーの仲間なのだが、久しぶりにパーティーを結成して、戦闘に参加している。


 シェリナとユイナは、光魔術による、レーザー光線的な魔術で、トレクト・ランスを貫いていく。

 彼女たちは、光属性を持っていたのだが、これまでは活用してこなかった。使える定型魔法が限られていたからだ。


 しかし、史郎に教えてもらったこのレーザー光線の魔術は、強力だ。


「これはすごいわね。魔力効率もいいし、狙いもつけやすく、威力も抜群よ」とシェリナ。

「はい、今までの魔法が幼稚に思えるくらいですね」とユイナ。


「この剣もすごいぞ。切れ味がけた違いだ。そもそも、切れ味が落ちない」とアルティアは、史郎にもらった剣を使いながら、言った。


「彼は本当にすごいわね」と三人は心から感心するのであった。



     ◇



 さらに、北地区と西地区の境界当たりの上空、史郎、ミトカ、シェスティア、琴音がトレクト・ランスに対して、せんめつ魔術を撃とうと準備していた。


「撃て!」と史郎が叫んだ。そして、


「【ホーミング・ライトニング・ニードル】!」と史郎とミトカ。

「【ホーミング・アイス・ニードル】!」とシェスティア。


 合計数千の白く光る光の矢が降り注ぐ。


「ハムちゃん達、お願い!」と琴音。

 約百匹のハムスターが空に浮かび、同じく、ライトニング・ニードルを撃った。



 史郎は、ふと、ある地点に目が行き、その場所に降りていく。


「シロウ、何かある?」とシェスティア。

「ああ、ちょっとあそこにあるトレクト・ランスを見てみたくてな」

 史郎は、そう言い、一体のトレクト・ランスに近づいた。


 そのトレクト・ランスは、枝にマッド・ボアを串刺しにしたままだ。マッド・ボアも、トレクト・ランスもまだ死んではいない。しかし、両方とも瘴気に侵されて、精神状態異常になっている。

 そして、よく見ると、トレクト・ランスの周りには、ストーン・ブレットを発動した跡がたくさんある。


 史郎がそのトレクト・ランスに近づくと、トレクト・ランスは土魔法でストーン・ブレットを撃ってきた。


 史郎は障壁で防御し、そのトレクト・ランスにライトニング・スタンを撃ち込み、動作を止めた。


「史郎、あのトレクト・ランスは、異常個体ですね」

「ああ、そして、使えるはずのないストーン・ブレットを撃ってきた。で、鑑定しても、土魔法は表示されない。ただ……」


 史郎は、その2体の魔獣を鑑定、さらに、その瘴気精霊を調べた。

「ああ、なるほど。やっとわかったぞ」と史郎はつぶやいた。

「先輩、何が分かったんですか?」と琴音。


「ああ、なぜ、魔獣が使えもしない魔法が使えるのか。なぜ、それが鑑定に出ないのかだな……」


「へー、じゃあ……」と琴音が何か言いかけた。


 その時、彼ら全員が、ドラゴンの咆哮を聞き、そちらの方を見た瞬間、そのドラゴンがブレスを放つのが見えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る