106.琴音と式神

「先輩! できましたよ! 見てください!」と琴音は次の日に史郎の部屋へやってきた。

「これです!」


 琴音が両手を前に出して、史郎に中身を見せた。

 そこには、大きさ3センチくらいのモフモフハムスターがいた。ドワーフハムスターだ。


「ね! かわいいでしょ! 本物のように動くんですよ!」と、琴音ははしゃぎながら、ハムスターをテーブルの上に置いた。


 ハムスターはフルフル動いている。確かに本物と見違えるようだ。ただ、毛の白さと柔らかさは実物以上のような気がすると史郎は感じた。


 ―― あー、琴音はぬいぐるみが好きだったからな、こうなるか。と史郎は思った。


「先輩、もっとあるんですよ!」と琴音は言うと、何やらつぶやき、机の上に魔法陣が光ったとたん、3センチハムスターが100匹はいるかというくらい出現した。


「……琴音、そんなに作ってどうするつもりだ?」と史郎は聞いた。


「へへへ。こうするんです」と琴音は、何やら呪文をつぶやいた。


 すると、100匹はいたかというハムスター達が光り、一つに集まって真っ白なマフラーになった。


「はい! ハムちゃんのマフラーですよ。あったかいんです。してみてください」と琴音が史郎に渡す。


 史郎は試しにそれを首に巻くが、

「確かに暖かいな。 ……というか、この状態で生きてるの? これ?」と史郎は聞いた。


「はい、合体して集まっているだけなので。魔法ってすごいですよね」と琴音は無邪気に答えた。


「……いや、まあ、いいけど」と史郎は何とも返事に困るのであった。が、ふと、気づいて、


「琴音、これ、白い小さいウサギとかでどうだ? 俺、アンゴラの毛糸の肌触りが好きなんだけど」と史郎が言うと、琴音はパッと輝くように目を光らせて、

「え! 先輩、アンゴラの毛糸が好きなんですか? じゃあ、今度、その糸で本物のマフラーを編みます! 待っててくださいね!」と琴音はうれしそうに言うのであった。


 いや、式神の話だったんだが、と史郎は思ったのだが、琴音のうれしそうな顔を見ると、黙ることに決めた史郎であった。




     ◇



「先輩! できましたよ! 見てください!」と琴音は次の日も史郎の部屋へやってきた。


「これです!」


 と、琴音は自分の肩を指さした。


 そこには、20センチくらいのオカメインコが乗っていた。


「あー、それって琴音が昔飼ってたやつと同じか?」


「そうなんです、リルフィー、子供のころに死んじゃって。なので、復活させてみました!」と琴音はうれしそうだ。


「それでですね、先輩、小さい物ばかりじゃ面白くないじゃないですか?」と琴音が聞いた。

「そうか? 別にいいと思うんだけど」と史郎。


「いえ、ちょっと大物も試したいじゃないですか! でね、私が長年飼ってみたいと夢見ていた動物がいるんですよ……」と琴音が言う。


 その瞬間、史郎は嫌な予感がした。


 だてに幼馴染みでお兄ちゃん役ではない。たしか、琴音が昔欲しいといっていたのは……、と史郎がフラッシュバックの様に思い出した琴音との昔の会話が頭に浮かぶ、と同時に、「おい、琴音、ちょっと待て……」という間に、琴音が言った。


「じゃじゃーん!」


 魔法陣が光って現れたのは、大きさ3メートルはあろうかという、有翼の獅子。かつて真琴が子供のころに親に連れられて行った海外旅行先のヴェネツィアで見たという「ヴェネツィアの獅子」のそれが現れた。


「うおぉっ」と史郎は思わず叫んだ。それほど大きいのだ。


「先輩、すごいでしょ! 褒めてください! ちょっと頑張ったんですよ、これ! しかも、本当の生き物のように動くんですよ、ね! トワちゃん!」と琴音はそのライオンの頭を撫でる。


 ライオンは羽を広げ、少し羽ばたきながら、気持ちよさそうに琴音に頭をつける。


 ああ、動きは猫だな? と、史郎は思わず考えていたのだが、はっと我に返ると、


「……琴音、そんな大きなの、どうするつもりなんだ?」と聞いた。


「当然、乗るんですよ? 先輩」と、そんな事も解らないのかという顔で、史郎を見つめた。


「なので、先輩、魔術的にどうやったらできるか教えてくださいね? 今は乗れるんですけど、まだ飛べないんです」と琴音は言った。


 史郎は、羽のあるライオンにまたがって、肩にオカメインコ、首にハムマフラーをした、琴音が空を飛ぶ姿をイメージしながら、まあ、それもいいかと思い、じゃあ、どうやって実現しようかと、思案するのであった。

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