105.琴音とモデリングスキル

「琴音、今もまだ3Dモデリングは続けているのか?」と史郎は琴音に聞いた。


「はい。先輩にもらったあのソフト、まだ使ってます」と琴音は、懐かしいことを思い出すような優しい笑顔を史郎に向けて答えた。


 史郎はかつて自分用、そして、琴音のために、3Dモデリングソフトを作ったことがある。VRベースで、粘土をこねるようにモデリングできるタイプだ。もちろんCAD形式の正確なモデリングも可能だ。史郎に抜けはない。


 ほかのソフトと違うのは、パラメーターライズ化、つまり、作ったモデルに対して、パラメーターで後から形を変えることができるようにするのが簡単になっているという点だ。さらに、定型の形がたくさん登録されており、それらの変形もモーションコントロールも容易だ。


 普通は、ゼロから形を作るのは大変なので、定型のモデルがたくさんある方がとっつきやすい。メインのユーザーである琴音の意見をいろいろと取り込んだものなのだ。



「そうか。……結構長い間使ってる感じ? もしかして……」と史郎。


「はい。ほかのソフトも試したことがあるんですけど、結局、先輩のソフトに戻っちゃうんですよね、使いやすいし」と琴音は笑顔で言った。先輩が作ってくれたソフトだし……、と琴音は小声で付け足したが、史郎には聞こえていない。


「ははは。ありがとう。まあ、自分でも使って使いやすいように作ったからな。琴音専用だし。ほかとはこだわりが違うよ」と史郎は自慢げに答えた。


 琴音はそれを聞いて、私のために……、とつぶやいて、少し顔を赤くした。


「じゃあ、まずは、魔力操作で、そうだな、1メートル立方程度の箱を目の前にイメージして、魔力をその形にできるか?」と史郎は説明する。


「え? 魔力を箱の形にですか? えーと、やってみます」と琴音。


 琴音はしばらくあれこれ言いながら試していたが、史郎の魔力視によるアドバイスもあって、何とか形を作ることができた。


「おー、いい感じだな。じゃあ、その状態で、【モデリング】って唱えてみて」と史郎は言った。


「モデリングですか……? じゃあ、モデリング」と琴音は唱えた。すると、



「あ! これって……先輩のソフトと同じじゃないですか⁉」と琴音は驚く。

 当然だ、魔法を発動したと思ったら、VR3Dソフトが目の前に浮かび上がったのだ。


「え⁉ どうしてですか? 私ヘッドセットも何もつけてないですよ? それに、これ魔法のはずじゃあ……」と琴音は混乱する。


「琴音、落ち着いて」と史郎は琴音の両肩を両手でおさえた。



「……先輩、何か隠してますか?」と琴音はハッとして、史郎を見つめる。変なところで勘の鋭い琴音なのだ。


「琴音さん、結構鋭いですね」と今までのやり取りを黙ってみていたミトカが急に話し出した。


「コトネ専用? いいな」とシェスティアは別の点に反応していた。



「琴音、今からいうことは大事な事だから、ほかには言っちゃだめだぞ?」と史郎は急に真剣な顔をして、琴音の目を見た。


「え⁉ 突然、何ですか、一体……」と琴音は史郎の目を見ながら、少し動揺する。胸もドキドキだ。「え、せ、先輩、告白……?」と、琴音は小さい声でつぶやいた。


「実はな、この世界は俺が設計したシステムと同じようにできてるんだ」と史郎が超真剣な勝ち誇った顔で言った。


「……え?」琴音はきょとんとする。そして、顔を真っ赤にして横を向き「……先輩、私のドキドキを返してください」と小さくつぶやいた。


「コトネ、意外とかわいい?」とシェスティが横でつっこむ。



「……はぁ、いいです。あぁ、フィルミア様が言ってた設計の事ですよね。で、先輩の設計って、具体的には、あの昔自慢げに話ししてたゲームのですか?」と琴音。


「……ゲームじゃなくて、VRの世界システムな! いや、まあ、それだ。あの後、死ぬほど努力して作り上げたんだけど、ある日フィルミア様がやってきてな、同じアーキテクチャーだから、詳しいでしょ、この世界を調査してねって頼まれたんだよ。だから、俺はこの世界に来てるんだ」と史郎が簡単にいきさつを説明した。


「……先輩って、基本一人で生きてるから、大丈夫かなって少し心配してたんですけど、やっぱり、簡単に話に引っかかるんですね? もっとセキュリティとかに気をつけないといけないじゃないですか! 美人に弱いんですね? 先輩って」と琴音がなぜか怒る。


「……いや、美人がどうとかじゃないんだけど……。何で怒ってるの?」と史郎はうろたえた。


「知りません! で、ホイホイついていったんですか? 凄いシステムが触れますよ! とか言われたんでしょ!」と琴音。


「いや、ちゃんと話を確認して、それで……。いえ、ついていきました」と、史郎は女神様とのやり取りを思い出し、素直に認めた。


「まあ、状況は分かりました。ちょっと目を離したすきに、そうなるんですね、先輩って」と琴音はぶつぶつ言った。


「まあ、琴音さん、史郎を責めないでください。史郎の決断のおかげで、私は魂を得たので、有り難く思っているんですよ」とミトカが史郎を擁護する。


「……ミトカさんって、もしかして……、あのミトカちゃん?」と琴音が突然思い出して聞く。


「はい。あのミトカです。お久しぶりと言うべきでしょうか? コトネサン、コンニチハ」とミトカは突然コンピューターチックな声で琴音に話しかけた。


「えー、うそ! あの、史郎先輩がのめり込んでたAIのミトカちゃんが、こんな美人に? あれ、ミトカちゃんって男性設定だったはずじゃ……。 先輩?」と琴音は驚くも、速攻で振り向き、史郎をジト目でにらむ。


「いや、俺のせいじゃないから。その件については、フィルミア様かミトカに直接聞いて! 俺、知らないから!」と史郎は叫ぶのであった。





「えーっと、話が進まないから、俺の事はいいから、な、琴音?」


「……はい。わかりました。とりあえず、モデリングのスキルの事教えてください」と琴音はシェスティアとミトカになだめられて、何とか落ち着いた。



「まあ、使い方はまったく同じはず。とにかく、それでモデルを作るんだ。そして、琴音のスキルの真骨頂は、メニューにある、【魔術精霊のインストール】だな。それをすると、作ったモデルがまるで生き物の様に動いて、命令を聞くんだ。いわゆる、「式神」というものだ。名前くらい聞いたことがあるだろ? 和式ファンタジー定番の」と史郎は説明した。


「マジですか、先輩? 私、式神って憧れだったんですよね。家でペットを飼えないですし。でも動物は好きだったし」と琴音はうれしそうに話した。


「まあ、とりあえず、作ったモデルは保存とかできるだろ? いろいろ試してみて、どれか決めたら式神化すればいいと思う。ミトカも詳しいから聞くといいよ」

 と、史郎は説明を締めくくった。

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