103.神殿4-1

 今日は、魔術学園都市にある神殿に、シロウとミトカ、シェスティア、琴音だけで来た。女神様に聞きたいことがあるからだ。


 奥の礼拝室を使わせてもらうことになり、部屋に入る。すると、フィルミアの姿が現れ、いつものように時間が止まった。


「フィルミア様、お久しぶりです……というか、今日は半透明じゃないんですね?」


「ふふふ。あなたたちしかいないんですもの。史郎さん、そして皆さんこんにちは。久しぶりですね。さて、今日は私の同僚の女神を紹介するわ」


 と、フィルミアは言った。すると、フィルミアの横に女性が現れた。


「皆さん、初めまして。女神イサナミア、地球の管理神よ」とその女性は晴れやかに笑うと静かに言った。


 きれいなストレートの黒髪が腰あたりまである、黒髪ぱっつんロングだ。和風着物と洋服の折衷のような衣装を着ている。


「イサナミアは地球を管理している神よ。DNAベースの世界システムの専門家ね。私の世界開発におけるパートナーよ」とフィルミアはイサナミアを紹介した。


「フィルミア様、DNAベースの世界システムと言うと……」史郎が聞く。


「ああ、説明していませんでしたね? 世界システムというのはね……」とフィルミアは説明を始めた。




 神界では、「世界」を動かすための、複数の世代の世界システムが存在する。


 第一世代世界システムは、『物理量子現象シミュレーション型』といって、物理現象の詳細なシミュレーションに特化し、量子力学レベルのリアリティを追求する。そして、多様性の追求方法として、DNAによる有機物進化システムによる「生物」の多様性追求、または、シリコンベースのハード・ソフト型知能による多様性追求の二種類をサポートできる。


 この第一世代世界システムが、俗に言う、「DNAベースの世界システム」だ。



 第二世代世界システムは、『エンティティ・シミュレーション型』といって、これは過渡期のシステムで、今は使われていない。



 第三世代世界システムは、『エンティティ・オリエンテッド・マルチエンジン方式型』と言われていて、「存在」、つまり、「エンティティ」を中心に据え、物理現象の詳細は第一世代より簡略化(それでも量子レベル)、魔術などの任意の現象を拡張できる仕組みを組み込んだものだ。

「マナ」システムによるコンパクトで膨大なエネルギー源や、魂オブジェクトのより忠実な再現、第三世代系データパラメーター化ベースの魂のリンク。より元の魂オブジェクトに近い精神オブジェクト。そして、第一世代世界システムは、エンジンの一つとして組み込まれているので、DNAベースの生物も存在可能だ。


「ちなみに、フィルディアーナ世界は第4.1世代と言われている最新鋭のシステムが走るプロトタイプ試験世界よ。第4世代のベースは第三世代を進化させた、私の設計と史郎の設計の混合ね。4.1世代は、史郎さんの最新システムの機能をほとんど取り入れた物よ」とフィルミアは説明した。



「……そうなんですか? なんか、さらっとすごいこと聞いたような気がするんですが?」


 と、史郎は驚いた。思ったより、自分の設計の影響度が大きそうだからだ。


「ふふふ。史郎さん、あなた、自分で思う以上に神界に影響を与えているのよ。つまり、それは人間にしては異常なほど世界の理に近づいたということなの。だから、まあ、自分の考えに自信をもっていいわ。私、女神フィルミアが保証するから」


 と、フィルミアはほほ笑みながら史郎を見つめて言った。


「先輩のプログラミング好きも、とうとう神に近づいたってことですか?」と琴音は、半分あきれたような、半分すごいと感動したような表情だ。


「シロウはすごい」とシェスティアは畏敬の目をして、史郎を見た。


 ミトカは、黙ってほほ笑んでいる。



「まあ、だけど、精神接続部分関連とオド相転移についてだけは、私の設計と実装ね。それに、魂のクラス定義の実際は史郎さんの定義したよりも、もっとパラメーターがあるわよ。それに精神の力はもっと自由度が高いし強力よ。あなたたち、もっと思考の枷を取り外さないとね」とフィルミアは笑って言った。



「世界システムについては分かりました。それで、勇者召喚なのですが、なんで琴音たちなんですか?」と史郎は単刀直入に聞いた。


「ああ、それはもっともな疑問だわね……」とフィルミアは思案するような表情で言い淀む。


「それは、わたくし、イサナミアから答えましょう!」とイサナミアが言い出した。


「え? まあ、そうね、あなたが原因だものね」とフィルミアが言った。


「なぜ琴音さん達かというと……乙女の秘密よ」


 と、イサナミアはニヤリと言った。



「……イサナミア様、それでは説明になって……」と史郎は言いかけると、


「ストップ! 史郎君、あなたが原因で乙女の秘密よ。それ以上は言えないわ!」とイサナミアが史郎を制する。


 史郎は困って、イサナミアを見たが、その意外と真剣な目に少し驚く。


「……わかりました。とにかく事情があって、琴音達が来た、ということでいいです。ちなみに、彼女たちはきちんと帰れるんですよね?」


「ええ、それは私たちが保証するわ。すぐ返すこともできるんだけど、どうする?」

 と、フィルミアは琴音を見た。


「まだいいです」と琴音は即答する。


「ふふふ。そうね。どうせだから、フィルディアーナの世界を観光してちょうだい。史郎が問題を解決したら、その時点で帰るといいわ。ちなみに地球の時間は止まっているから、帰ったら来た時と同じ時間よ」とフィルミアは言った。


 そして、イサナミアが続ける。


「まあ、理由はともかく、あの使われた召喚陣は、本来は地球からフィルディアーナへの物質転送用だったのよ。史郎さん用のね! たまたま生物の転送を試すために設置した魔法陣が使われちゃったの。 今は無効化してあるから安心してね。それで、琴音ちゃんやほかの子たちにはそれなりの力と加護がフィルミア様から付加してもらってるから安心してちょうだい。彼らの精神状況は良好だし、基本善人だからね」

 と、イサナミアは説明した。


「さすが史郎さんの知り合いですよ、みんな、なかなかの潜在能力がありますよ」

 と、フィルミアはつぶやいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る