85.対策会議・シェスティアの両親と

 謁見の後、きゅうきょスタンピード対策の会議が開かれることになった。


 会議の場には、第一王子のロバート、宰相のパトリックや、かくりょう、騎士団団長のクラーク、魔術師団団長のレズリー、神殿から神殿長エリック、巫女姫のミラーディア、王都冒険者ギルドのギルドマスターのルイス、魔術師ギルドのギルドマスターのジェフリー、が参加している。



「では、潜在的きょうであるスタンピード発生の可能性とその対応について、協議を始める」と、国王フェリックスが話を切り出した。


 会議の場には、前回と同じメンバーに加え、史郎達がいる。


「最新の報告を聞きましょう」とソフィアが言った。


「まずは冒険者ギルドですが、北東方面にあるハンボルトの谷での、瘴気の異常発生、それと、キノコの異常な大量群生が報告された点は、以前と同じままです。ただ、以前より範囲は広がっており、迷宮に入り込むのは時間の問題かと思われます。いえ、既に入っていてもおかしくはありません。そして、それが引き金にダンジョンから魔獣が溢れだすという可能性は非常に高まっていると思われます」

 冒険者ギルドのギルドマスターのルイスが報告した。


 続いて魔術師ギルドのジェフリーが報告する。

「前回の報告後、魔術師ギルドでも独自に調査しました。ダンジョン内の瘴気濃度は確実に高まっています。なので、ルイスが言うように、瘴気発生の異常がダンジョン内に波及している可能性は高いです。それに伴い、ダンジョン内の魔獣の数も増えているようです。ダンジョンは瘴気をもとに魔獣を発生されていると考えられていましたが、皮肉なことに今回の件でそれが証明されたようなものです。もしこのまま瘴気の増加が続けば、スタンピードの発生の可能性はかなり高いかと」


 さらに、騎士団の報告だ。

「陛下。騎士団からの報告ですが、遭遇する魔獣の数、狂暴度も以前より確実に増えております。騎士団でも負傷者が出始めました」と騎士団長のクラークが報告した。


 冒険者ギルドマスターのルイスが追加で報告する。

「同じく、魔獣の狂暴化は冒険者ギルドでも報告がますます増えている。確実に被害も増えており、深刻な問題だ」と。


「なるほど、ありがとうございます。確実に瘴気の濃度、魔獣の数、そして、魔獣の狂暴度が増えていると……」と史郎が話した。



「ああ、そういえば」とルイスが割り込む。

「関係あるのかないのかわからないのですが、ドラゴンの目撃があります」


「ドラゴンだと?」と国王フェリックスが聞く。


「はい。場所的には、まだ王都とは言えないのですが、ソトハイム方面からこちらの方に向かってきているかと。三組個別の冒険者パーティーの、しかも別の場所からの報告なので、信頼性は高いです」とルイスが言う。


「そのドラゴンは、ソトハイムで目撃されたものと同じかもしれませんね」と史郎は言った。


「ほう、ソトハイムでも目撃が?」とフェリックスが興味深そうに聞いた。


「はい、ソトハイムでワイバーンの襲撃があった際に目撃されました。襲撃のあとで報告があったことが分かったのです。なので、直接の関連性は分かっていません。時間的に考えて、そのドラゴンが王都まで飛来してきた、いえ、来ていると考えるのが妥当かと」と史郎は考えを述べた。


「ふむ、ドラゴンか。それは厄介だな」と騎士団長がつぶやく。


 史郎はしばらく思案した後、自分の目で現状を確認する必要があるなと思い、そう伝えることにした。


「まずは、私もひととおり調査してみます。そして同時に、騎士団、魔術師団、冒険者ギルドと魔術師ギルドには、いつでも出動できるように準備をお願いします」と史郎は言った。


「そうだな。よし、各部署はいつスタンピードが発生しても大丈夫なように臨戦態勢をとること。王宮としては、必要な物資の提供など出し惜しみはない。パトリックおよび各閣僚は必要な対応とサポートをすること」と国王フェリックスが宣言した。


「は!」と全員が同意し、準備に取り掛かることになった。



     ◇



「シロウ様、少しよろしいでしょうか?」とミラーディアが史郎に話しかけてきた。

「ああ、ミラーディア様、何でしょうか?」

「ミラとお呼びください」とミラーディア。

「いえいえ、王女様に対してそれは……」

「いえ、史郎様のほうが立場は上です」

「じゃあ、俺の事はシロウと、でいいかな、ミラ? 口調も普通で行きましょう」と史郎は押し問答するのは嫌なのであっさりと折れた。

「……わかりました」とミラも同意し、笑顔を浮かべた。なんだかほっとしたような笑顔だ。

 王女といえども、まだ少女。堅苦しくない方がいいのだろうなと思う史郎であった。


 そばでやり取りを聞いていたミトカとシェスティアは、笑顔を浮かべているのみだ。


「実は、ポーションの作り方で質問があります。シロウは、特級のポーションが作れるって聞きました。私は上級までしか作れないんですけど、どうやったらできるのかなって」とミラが史郎に聞く。


「ああ、ポーションの級ね……。というか、ミラって王女なのにポーション調合するの?」と史郎は不思議に思い聞いた。


「はい。私はあまり攻撃系の魔法は得意じゃないんです。性格的にも、後方支援が合ってると思うんですよね。それで、国民を守るために私ができることといったら何だろうかと思った時に、自分は何が得意かと考えたのです。私料理が好きなんですけど、なので、調合とかがあってると思ったのです。それなら皆のために役に立つのではと」

 ミラは真剣なまなざしで思いを述べた。


「へー、なるほどね」

 国を守るためにってとこが、さすが王女だなと史郎は感心した。

「それで、使っている魔力水は神殿から?」

「はい、そうです」

「じゃあ、おそらく、まず魔力水を何とかすることろから始める必要があるな。俺が作るポーションは、魔力水も自分で作ってるから、込める魔力が高いんだよ」と史郎は言った。

「え⁉ 魔力水も自分で作るんですか? 魔力水は神殿にあるアーティファクトで作られるものだと思ってました」

「え⁉ そんなアーティファクトがあるの?」と史郎は逆に驚いた。

「史郎、魔力付加を史郎レベルの量で行える人はいません」とミトカが説明した。


「そうなのか。じゃあ、俺が魔力水を供給するということでどうだ? もっとも、そんなに大量にはダメだけど。とりあえずミラに卸すということで」


「いいんですか⁉ えーっと、じゃあ、適切な値段で買い取りますので、お願いします!」

「わかった。じゃあ、今度魔力水を作って持って来るよ」と史郎はいった。

「お願いします!」とミラは満面の笑顔で喜び、史郎の手を握った。

 史郎は、少し動揺して顔を赤くした。


 そばで、やり取りを聞いていたミトカとシェスティアは、相変わらずほほ笑んでいるのみだった。少し目つきが変わったかもしれないが。


 その後、ミラーディアは史郎からもらった魔力水と、少しのレシピの変更のアドバイスで、特級のポーションが作れるようになるのであった。


 ミラは、今回の戦闘用に大量のポーションを準備・手配して、後方支援として活躍することになり、人々から姫巫女としてますます敬愛されるようになるのである。



     ◇



 史郎が、珍しく一人で、シェリナとアルティアの部屋を訪ねた。


「シェリナさん、アルティアさん、その後体調とかはどうですか?」と史郎は聞いた。

「ええ、まったく問題はないわね」

「ああ、俺もまったく」と二人は笑顔で答えた。

「えーっと、今日はお二人にこれを」と史郎はインベントリから、魔剣と魔の杖を取り出す。


「これは……?」と、二人はもらったものを見て、黙り込んだ。

「シェリナさんの杖は、神木とミスリルの杖ですね。魔術発現効率20%アップ、予備魔力蓄積、精密表層魔力纏による魔力刃が使えます。アルティアさんのは、オリハルコンとミスリルの魔剣です。精密表層魔力纏による魔力刃、属性発現機能付きですね」

 と、史郎は説明した。

「え! それはすごいわね。もしかしてシロウさんが作ったの……?」

「はい、そうです。シェスティアやアリア、アルバートに渡したものと同じなので、使いやすさと能力は保証付きですよ。彼らに聞いてみてください」と史郎は営業スマイルで答えた。

「ありがとう。有り難く使わせてもらうよ」とアルティアはうれしそうに剣を見ている。

「わたしも、有り難く使わせももらうわね」とシェリナは笑顔で史郎に感謝した。



「ところで……」とシェリナが史郎を見て、真剣な顔で話しかけてくる。

「シェスティアの事なんだけど、シロウさん、これからも彼女の事お願いできますか?」

「ああ、俺からも頼む」とアルティアも頭を下げた。

「シェスはね、昔から芯が強い子で、なんでも一人で成し遂げようとする子なのよ。私たちが封印のせいでいなくなった後、シェスはずっと一人で、フィルミア様のために何かしていたみたいなのよ。フィルミア様の加護を持つってことの責任を人一倍感じていたみたいね。年齢的に、本当は母親である私が付いていてあげないといけない時期をすっぽりなくしてしまったから」

 シェリナは少し悲しそうな遠い目で言った。


「でもね、あなたと会ってから変わったって、ソフィア母さんもアリアも言ってたわ。何かこう陰が消えて明るくなったというか、周りが見えるようになったというか……、まるで、シロウさんという光が現れたかのようにね」

 と、うれしそうなほほ笑みを浮かべ、シェリナは言う。


「私たちからしてみれば、つい先日まで子供だったのに、突然大人びたシェスとアルバートを見ると、悲しいようなうれしいような。でも、二人の年齢を考えると、もう親の出る幕じゃないと思ってね。子が育つのはうれしい物よ、親としては。ちょっと急だけどね」


「そのとおりだ」とアルティア。そして、


「シロウ殿は、私たちから見ても、頼れる存在なのだ。使徒とかの立場は関係なくな。封印を解いてもらって以降、俺たちは、二人、いや、君たち皆の様子をずっと見ていて思ったのだ。俺達は貴殿という芯のある存在に非常に感謝している」

 と、力強く史郎の目を見て言うのであった。


「ありがとうございます。そこまで言っていただけると、少し恥ずかしいですが。でも、シェスティアの事は任せてください。彼女の通った道は……、いえ、これから向かうであろう運命は、俺が支えて守り抜きますよ」

 と、史郎は二人の目を見て、自信をもって宣言した。


 アルティアとシェリナは、ほほ笑みを浮かべ、少し瞳を潤ませながら、ありがとう、と史郎に言うのであった。

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