72.ワイバーン3

 ミトカとシェスティアが史郎のもとに戻ってきた。

「史郎、このワイバーンの状態をイデアスキルで確認してみてください」とミトカ。


 史郎はイデアスキルを発動すると、インスペクションでチェックする。


 ワイバーン 魔獣 レベル820

 スキル:【風魔術】、【竜巻】、【風纏】、【ウィンド・ボール】、【ウィンド・ブロー】


「なるほど、いやにレベルが高いな。そして、火魔法を持っているわけではない……? じゃあ、なぜ火魔法を発動できるんだ?」


 史郎は、思案する。これは明らかにシステムのバグだ。もし火魔法が使えるのなら、本来火魔法のスキルも表示されるべきだ。しかし、単なる表示の問題なのか、システムの問題なのかと、史郎は考え始めて、


「……いや待てよ。魔術が使えるということは魔術精霊がインストールされているということだよな? 魔獣にはどんな精霊なんだ?」


「史郎、魔獣の魔術は瘴気精霊が担当します。魔獣の種類によって、初級から上級まで使える魔術が変わります」


「魔獣の種類によって? ということは……」


 史郎は考える。魔獣の種類によって異なる魔術ということは、魔獣の種類ごとに魔術精霊があるということで、大本の魔術精霊を親クラスとした、魔獣魔術精霊クラスが魔獣の種類ごとにあるか、


「いや、もしかして、あまり考えたくはないけど……」


 魔術の個体ごとに魔術精霊のクラスが異なる可能性があるな、と史郎は考えた。もしそうなら、その場合は、魔獣の個体ごとにオブジェクトでプロトタイプからインスタンス化、魔獣の種類固有のメソッド追加型か?


「その可能性の方がありうるな。特定の魔獣の種類すべてじゃなくて、あくまで個体レベルでスキルの異常がみられるからな。だとすると……何らかの原因で魔術のメソッドがインストールされたか、魔術そのものが書き替えられたか……」


 史郎が思案していると、


「史郎、この個体もウイルスに感染しています」とミトカが言った。

 そして、

「種類的には、シェリナさんに感染している物と同じですね」と分析結果を報告した。


「ふむ、なるほど。ということは、そのウイルスが個体の魔術精霊に対して何らかの干渉を起こしているということで間違いないな」と史郎はそう思うのであった。


「シロウ、もしかして、そのウイルスの事が分かれば、母様の事も救えるのか?」とシェスティアが不安そうな期待の入り混じったような顔を向けて、史郎に聞いた。


「ああ、そうだな。救うだけなら、もう可能だ。俺の神術で封印は融ける。ウイルスの件は……、少し確認が必要だな。でも何とかなりそうだ」と史郎は笑顔をシェスティアに向けて、答えた。

 シェスティアは満面の笑みを浮かべ「ありがとう」と言うのであった。



「とりあえず確認は取れた。サンプルは取った。イデアを解除して締めくくろう」

 と、史郎は言い、イデアスキルを解く。そして、


「最後は【神術精密魔力制御】と【神術精密表層実体化】だな」と史郎はつぶやいた。


 ――『【神術精密魔力制御】レベル1 を取得しました』

 ――『【神術精密表層実体化】レベル1 を取得しました』


 史郎は、神術でさらにパワーアップした精密表層実体化した金属棒剣でワイバーンに迫り、

「【ライト・ソード】」

 と唱えると、長さ10メートル程の白く光り輝く剣になり、ワイバーンの首を切断するのであった。




「これで、全部か? とりあえずは何とかなったな」と史郎は集まってきた皆に向かってほほ笑む。

「素晴らしいわね。シロウ、最後のワイバーンはかなり手強かったみたいね」とアリア。

「ああ、レベル820。まさか、火魔法を使ってくるとは思わなかったよ」

「そうだな。私も長く生きているが、火魔法のブレスを吐くワイバーンは初めて見たぞ」とソフィア。

「とりあえず、死骸はインベントリに入れて街に戻ろう」

 史郎がすべてのワイバーンをインベントリに入れると、砦の方に戻るのであった。




 砦に戻ると、冒険者たちの歓声が聞こえた。

 ギルドマスターが近づいてきて、史郎達に声をかける。

「おい、すごい戦闘だったな。全部見てたぞ! よくやってくれた、街の皆を代表して感謝する!」とグレッグは叫んだ。

「おー」という歓声が砦中に響き渡ったのは言うまでもない。


「ほかの魔獣は大丈夫だった?」とアリアが聞く。

「ああ、それほど多くなかったし、十分対処できる範囲内の数だったよ」とグレッグが言った。


 この後、街まで冒険者全員で凱旋するのであった。



     ◇



 次の日、史郎達はギルドに、グレッグに質問をしにやってきた。

「ワイバーン目撃の前に何か特殊な情報は無かったのか?」と史郎。


「いや、実はな、ある冒険者が白いドラゴンを目撃したという報告があったのだが……。あまりにも突拍子もなく、そもそもその報告してきた冒険者の日ごろの素行が問題でな、ギルドでは最初は誰も信じなかったのだ。何百年も目撃されていないしな」とグレッグ。


 別の冒険者の目撃が3件あり、最初の報告が本当であったと分かった。飛んでいる様子と色と大きさから、おそらく同じドラゴンであろう、そして、ソトハイムの方に飛んでいたが、途中で向きを変え、王都方面に飛んで行ったと思われる。


「なるほど。じゃあ、そのドラゴンとやらが、ワイバーンとジャイアント・ボアの異常な移動に何か関係しているのは確かっぽいな」と史郎は言った。


 押し出しか、と史郎は考えた。群れが順番に来た理由は恐らくそうであろう。


 しかし、数の多さのと、異常な強さ・異常な魔術の理由、それらは一体何なのだろうかと史郎は不思議に思った。


 そして、その問題のドラゴンは一体何なのか? どういう理由で飛んできて、どういう理由で別の場所に行ったのか。


 今の所は手掛かりもない、引き続き調査が必要かと、考える史郎であった。

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