第二章 シェスティア/魔の大樹海からの脱出編

41.邂逅-シェスティア1

 史郎がこの世界に来てから約4週間がたった。女神様の小屋のおかげもあって、史郎はそれなりに快適に過ごすことができていた。


 レベルアップのために毎日狩りに行き、魔獣を倒す。そして、スキルの考察と訓練、最大魔力量の増加、それらを毎日欠かさず行った。


 ミトカとの戦闘訓練もかなり慣れてきた。最初の方こそミトカにボロボロに負けていた史郎だが、最近は互角に戦えるようになってきた。もっとも、それでも常にミトカのほうが強いので、史郎は悔しく思っているのであるが。


 世界を調査しに視て回るにあたって、ある程度の戦闘をできるレベルまで持ってくることができたと史郎は思った。それでもまだまだ魔獣相手だけ、対人はミトカ相手だけで訓練のみだ。

 こちらの世界の人々や文化にはまったく触れていないので、それはこれからの課題だと思う史郎であった。


 そろそろ人のいる場所へ向かう頃かなと思う史郎であった。



 史郎は、今日もいつものように探査スキルの訓練をすることにした。修練のため、毎日少しずつ範囲を広げて探査するようにしているのだ。

 今の【探査】スキルはレベル3。半径2キロメートルくらいまで探知できるようになっていた。

 今日は3キロメートルにチャレンジしようと気合いを入れる史郎だった。


「ん? この反応は……」

 南西の方向2.5キロくらいの場所で戦闘が行われていることが探知された。


 ――『【探査】がレベル4になりました』


「お? 探査レベルが上がった? それにこれは戦闘? 人もいるか?」


 史郎の探査がレベル4になり、いつもより詳細が分かるようになった。魔獣が10体。ジャイアント・ヘッジホッグでレベル50、それと人間が三人いると分かった。


 ――人間三人で、この数のジャイアント・ヘッジホッグ相手だとかなりまずい気がするな。しかもジャイアント・ヘッジホッグは魔力・物理の両方に高い耐性がある上に、針の弾幕で攻撃してくるので結構厄介だ。


 史郎はそう考え、戦闘の場所まで様子を見に行くことにした。


「史郎、私もこのままいっしょに行きましょうか? それとも実体化を解除しておきましょうか?」


 と、ミトカが聞いてきた。ミトカは特殊な存在なので人に知られてはまずいのではないかと一瞬ミトカは考えたのだ。


「うーん、そうだな、そのまま来てくれていいよ。別に隠す必要ないし。必要な場合にサポートを頼む」 と、史郎は答えた。




 立体機動を駆使して森の中を跳躍しながら、史郎達は戦闘のある場所へ近づいた。


 三人の人間がジャイアント・ヘッジホッグにすっかり囲まれてしまっているのを確認する。男性一人、女性二人で、女性ひとりが怪我をしているように見えた。


 女性達二人が一応ファイア・ボールとアイス・ボールを撃っているようだが、まったく通じていない。


 男性が剣で応戦しているが、魔獣の体の大きさと数に押されている。


 史郎達が様子を見ていると、一体のジャイアント・ヘッジホッグが体表の針を飛ばすのが見えた。あの針は固く、体に刺さるとただではすまない。


 ――あっ、あれはまずい!


 史郎は、一瞬で彼らのいる場所を結界で囲んだ。間一髪針は結界に当たり跳ね返った。


 結界をいったん解除して、史郎とミトカが彼らの元へ着地すると、再び結界を張る。


「大丈夫ですか? 加勢しましょう!」

 と、史郎は声をかけて、一応確認した。


 突然現れた人物に、彼らは驚きを隠せなかった。


「〇◆▽〇×?」

 と、男が何かを史郎に話しかけてきた。


「あれ、言葉が通じない?」

 と、史郎は驚いた。すると、


 ――『【概念言語::フィルディアーナ共通言語】モジュールを自動インストールします』


 とのアナウンスが聞こえ、一瞬脳内で何かがはじけるような感覚を覚えたとたん、男が話している内容が分かるようになった。


 概念言語とは、特定の言葉にとらわれない、思考を概念化したものだ。


 言葉はなくても思考や思いはある。その精神の状態と精神内パラメーター値の遷移の羅列を概念言語と言い、それを介して任意の言語に翻訳できるのである。


 人間の場合は音声の言葉や文字。動物の場合は動きや鳴き声、どんな存在であっても、この世界システムでサポートされている精神なら、概念言語で思考され、外部言語でやり取りすることになる。その外部言語はモジュールとして用意されているので、任意の言語がインストールできるようになっているのだ。


「おい、お前達は誰だといっている!」

 と、男は史郎に向かって詰問したことが史郎に理解できるようになった。


「あー、すみません、えっと、通りすがりの者ですが、大丈夫ですか? お助けしましょうか?」

 言葉が突然解るようになったことに狼狽した史郎は間抜けな返事をした。


「は? あ、いや、助かるが、一体誰なんだ? どこから来たんだ?」


 と、男は混乱した様子で聞いてきた。とりあえず言葉は通じるみたいだなと史郎は思った。


「これは結界なの?」といっしょにいる女性がさらに聞いてきた。腕にけがをしているようだ。そして、「……どうしてメイドさんが?」との小さくつぶやく声が聞こえる。


「あなたたちはもしかして……」ともう一人の少女も話しかけようと近づいてきたが、


「はい、これは結界です。なので、もう安全ですよ。森の向こうの方から来ました。とりあえず周りの魔獣を何とかしますね。ミトカはここで皆をよろしく」


 史郎はこの状況で説明に時間を取るのもなんだかなと思い、簡単に答えてミトカに指示すると、一瞬結界を解いた瞬間、上へ飛び上がって行き素早く結界を戻す。


 そして、ある程度上空まで昇った後、


「ターゲット目視、【ロックオン】。自動発動停止付き攻撃オプション。【マルチ・ホーミング・メルティング・アイアン・ニードル】」


 と、叫んで魔術を発動した。


 融けかけるほど発熱した鉄の針状の棒が、ホーミング誘導で魔獣を串刺しにする。熱と針の形状で、物理耐性のある魔獣であっても、ひとたまりもない。


 下から見ていた三人は、史郎が突然上空に跳んでいったことと、あまりにもあっさりと魔獣を倒したことに驚いた。


 そして、史郎は下に降りた後、すべての魔獣をインベントリに入れたため、すべて消えてしまったのだが、三人はその様子を見てさらに茫然と史郎の方を見るのであった。

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