19.マナ・瘴気・魔獣考察

「なあ、ミトカ。魔獣なんだけど、どうやって発生するんだ?」と史郎はふとミトカに尋ねた。

「よくよく考えてみると、俺の設計したフィルディ・システムの世界だと魔獣はいないんだよな」と史郎はつぶやいた。


 史郎のシステムでは、いわゆるゲームに出てくるような「モンスター」は存在する。それらは3Dモデリングされた物で、あくまでゲーム用の3Dモデルなので、どれだけリアルに見えても実体はない。なので、この世界にいるような、地球では考えられないような生物がどのように発生・制御されているかということを考えていなかったことに今さらながら気づいたのだ。


「そうですね、史郎。では、まずマナとは何かから始めないといけませんね。この世界の実装は、史郎本来の魔術設計より少し複雑になっています」とミトカ。

 そしてミトカは史郎に説明を始めた。



 まず、この世界には「オド」と呼ばれる粒子エネルギーが存在する。それは、物理学での素粒子に等しい。そして、この世界では素粒子と同じ扱いだ。


 さらに、オドは二つの素粒子から構成されており、それぞれスピンと言われる方向を持つ。


 そして、オドは、二つのスピンの方向の組み合わせで、性質が変わり、名称が付く。


 ― 常オド:上、下のスピン:この状態をマナと呼ぶ

 ― 強オド:右、右のスピン:この状態を魔力と呼ぶ:常オド+意識場によって生成される

 ― 非オド:下、上のスピン:魔力+意志力+魔術精霊による消費による魔術発現後の状態で、使用済みマナともいう

 ― 反オド:右、左のスピン:この状態を瘴気という。マナが特定の条件で変質したもの



「私たちが使う魔術は、世界にある「常オド」、つまり「マナ」を、ある程度の意志のある生物が発生する意識場によって、「強オド」という魔力に変換し、それを意志力と魔術精霊の消費によって、「非オド」に変換するという処理になります。つまり、マナは魔術の使用によって消費されます」とミトカは説明する。


「なるほど。じゃあ、マナの供給は?」と史郎。

「マナは、マナ精霊と呼ばれる精霊が非オドを常オドに変換する処理で再生します」


 つまり、常オドから強オド、強オドから非オド、非オドから常オドと循環する。


「ちなみに、強力な魔術を使用すると、非オドから常オドの変換が追い付けないので、マナの供給が絶たれます。この状態で魔力が枯渇すると、魔力の供給が途絶えるので魔術の行使が続けられなくなるという事態になりますね。これは、この世界でのあまりに強力な魔術の連続使用の制限になっています」とミトカが説明を続ける。


「なるほどな。あまり無茶な魔術は使えないと」


「そして、「常オド」から「反オド」への変換は、瘴気精霊、もしくは、ある一定の条件下での触媒による反応によって発生します。その「反オド」が瘴気と呼ばれています」


 ミトカは説明を続けた。


「より正確に言うと、瘴気は、ある程度の濃度のマナが、触媒――通常は地球でメタンと呼ばれる物質です――を介して発生します」

 そして、とさらに続ける。



 瘴気が非自我意識場(意識レベル4未満)の、通常自我のない動物や植物に長期間接触すると、「魔石の元」を生成し魔獣になる。その際その生物は強化・凶暴化する。瘴気が濃いほど強い魔獣になるのだ。

 なお、大きい魔獣ほど凶悪化する傾向があり、小さい魔獣は特に凶暴性に変化はない。この理由により。テイマー(魔獣の調教師)が使う魔獣は、だいたい鳥や小形動物。大きくても大型犬程度まで。


 いったん魔獣化した後は、魔力を持つ存在として存在し、魔獣によっては魔術が使える個体になる。


「魔石の元」が瘴気を継続して吸収し固体化、成長する。それが魔石で、魔石の密度が上がると結晶化し、魔結晶と呼ばれる。つまり、魔石・魔結晶は、瘴気を相転移し、固体化(固形化・結晶化)したもの。固体状態では、魔力蓄積の性質を持つ。(強オド+固体反オド→固体2強オド)


 ミトカは、注意することですがと言い、


「気体状態の瘴気は、魔力を吸収し非オドへ強制変換し、魔力枯渇を誘発する性質があります。さらに、精神をむしばむ危険があるため、瘴気に触れるのは危険ですので注意してください」と警告した。


 魔獣は死ぬと死骸と魔石(動物の場合)、魔砂(植物の場合)を残す。


 ちなみに、瘴気精霊による直接の魔獣生成があり、モンスターポップと呼ばれる。これは、マナ → 瘴気変換、続けて、瘴気 + メタンの環境で「魔石の元」を生成することから始まる。

 ダンジョン内では、ダンジョンコアがこの「魔石の元」を素に任意の魔獣を作り出す。

 また、ダンジョン外では、たいていの場合、「魔石の元」から直接スライムになる。瘴気の濃度によっては、魔獣が作り出されることもある。


「ほー、なるほど一応それなりの仕組みが作られているんだな」と史郎は感心し、俺のシステムにも取り入れようかな、とひそかに考える史郎であった。


「ところで、スライムを見かけないな?」と史郎はスライムの発生について聞いて、思った。

「そうですね……さすがにこの領域ではスライムも生き残れないか、瘴気精霊が少ないからかですね」とミトカは答えた。

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