5.初スキル

 石舞台から見て北のほうには河原が見え、川が流れているのが見える。

 川幅は5メートルほど。川の水が妙に青白く見えるのを史郎は黙って見つめた。川岸はそれなりに大きな岩がたくさんあり、川面は地面よりさらに2メートルほど下だ。


「うーん、この場所から降りる前に、まずはスキルの確認かな? 下に何があるかわからないからな」

 史郎は少し不安になりつつも、座れる場所を探す。

 石橋をたたいて渡る。それが史郎のモットーなのだ。


 がけきわには石の壁があり、壁の内側は段差があって座れるようになっている。いったんそこに座って、ステータスやスキルの確認をすることにしようと史郎は移動した。


 この世界には、魔法がある。魔法は体内にある「魔力」を原動力として動く。魔法でできることは「スキル」と呼ばれていて、たくさんのスキルを持つほど優秀だということになるのだ。

 そして、自分の持っているスキルや、自分の体の状態――体力や魔力、攻撃力など――の一覧は「ステータス」(=状態)と呼ばれている。

 自分の持つ能力を、ステータスで逐次チェックすることがこの世界で生きる上で重要なのだ。RPG(ロールプレイングゲーム)と同じような仕組みが、この世界では現実として実現されているのである。


 

 視界にはVRでのユーザーインターフェースのようなものは見えない。なので、何らかの方法でそれを呼び出す必要があるようだと考えながら、ではまず定番のステータス確認かと史郎は思案した。


 ――現実にこの言葉を使うとなると何か恥ずかしいものがあるなー。

 史郎はそう思いながら「ステータス」と口に出した。


「……」


 ――何も起こらない?

 史郎は少しだけ動揺した。


『史郎、単にステータスと言っただけじゃ何も起こりませんよ?』

「え、そうなのか? じゃあ、どうすれば?」

『ステータス確認も魔術の一種なので、魔力を使う必要があります。なので本当に最初から自力で確認したい場合は、まず自分の魔力感知からですね』


「あー、なるほど。じゃあ、自力じゃなかったら?」史郎は尋ねた。

『ステータス表示の魔導具があると、それに触れるだけでステータスを確認できます。残念ながらここにはないですが』

 ミトカは続ける。

『まずは、体内に流れる魔力を感じてみてください。この世界に来た時点で体が変換されているので、魔力自体は既にあるはずです』


「そうだった、新しい体か⁉ 確かに体が軽くなっているような気がする。鏡がないから自分の容姿が確認できないのが残念だな。いや、容姿は同じか?」

 史郎は突然興奮しつつも、ともかく魔力を感じねばと気を落ち着かせつつ集中した。

 

「血液の流れのように、魔力が流れているはずだったっけ?」

『そうですね』

 

 史郎は自分の設計を思い出しながら、瞑想の時のように目をつぶって体内の魔力を感じてみることにした。魔力源は心臓のはずだと思い出す。


 しばらくすると、地球にいるときには無かった何か暖かい物が体内を流れる感覚に気づいた。


 ――『【魔力感知】レベル1 を取得しました』


 突然ミトカとは違った声のアナウンスが史郎の頭の中に流れた。


「おー、初スキル獲得か!」

『おめでとう、史郎』

「あー、ありがとう。それで、次はどうすればいい?」

『次は、その魔力の流れを操作して動かせるようになる必要があります』

「魔力操作だな。VRシステムだとこのあたりの現実に存在しない感覚は実装できないから、実際に体験してみると不思議なもんだな」

 と史郎は感心した。

 そして、とりあえずこの魔力の流れを粘りのある流体だと思って変形させてみよう、と試行錯誤する。


 30分ほど続けた後、ようやく魔力の流れが少し動かせるようになってきたような気がするな、と思う史郎だが、

「うまく動かせない。というか、まったく動かせる気がしないな」

 と、困惑する史郎。


『史郎、魔力操作は「動かす」というよりも、イメージに合わせて「形を作る」という方が近いと思います。史郎の設計を思い出してください』


「あ、そうか、そうだった。3Dモデリングで、魔力を流し込むというのが正しいやり方か?」


 と、思ったとたんに、史郎の体内の魔力が動き出した。


 ――『【魔力操作】レベル1 を取得しました』


「おぉ、できた!」


 史郎が喜びに叫んだと同時に、アナウンスが流れるのが聞こえた。


 ――『操作系魔術の初めての使用を感知しました。ミトカのバージョンアップ処理が完了しました』

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