『HALF』

火侍

第1部 ガンドライド

プロローグ

 ────世界が、終わろうとしている。

 空は赤く染まり、世界の至る所が燃え盛り、凍り付き、沈んでいった。

 地上は疫病と異形の化け物たちが徘徊し、人々は死に絶えていく。

『始まりの魔女』が引き起こした『大災厄』。たった一年にも満たない内に世界は終末を迎えた。

 そしてカラスたちが泣き喚く森の奥深く。

 一歩踏み出してしまったら、確実に死は免れない崖の前に二人の少女が現れた。


「着いたよ」


 と、崖を見据えながら白い髪に金色の瞳の少女が呟く。


「……うん、これなら確かに一発かも」


 崖を見下ろしやや引きつった表情を浮かべながら、黒い髪と同様に黒い瞳の少女が答える。


「でもさ、ぴったりでしょ。あたしたちの最期に」


 ニッとはにかんだ笑顔を白い少女が向ける。

 その笑顔を見た黒い少女も笑顔を浮かべ、ぎゅっと手を握った。


「そうだね。あいつらに殺されるぐらいなら全然マシだ」


 そうして二人は手を握り合い崖の前に立つ。

 今、一歩踏み出したら本当に落ちてしまうその手前で。

 二人は立ち止まる。

 握った手が汗ばむのを感じながら白い少女が話しかける。


「……生まれ変わったら、絶対に見つけてみせるから」


「うん」


「すぐに、誰よりも早く。あなたに再会する。絶対にだよ。約束だよ」


「わたしも」


「……ねえ、やっぱり死ぬの怖い?」


「……はは、ばれちゃったか」


 白い少女の問いに黒い少女は困ったように微笑みかける。

 その額には汗が滲んでいて、瞳は確かに不安に揺れていた。

 その様子を見た白い少女は息を呑み、やっぱり引き返そうかと案じてみせる。

 だが黒い少女は首を横に振って答えた。


「ううん、いいの。ちゃんとわたしの意思でここまで来るって決めたんだから」


「……」


「でもやっぱり怖いや。だからさ、せーので行こ?」


「賛成」


 二人は手を互いに握り締め、顔を合わせて見つめ合う。

 そしてどちらからともなく、胸から溢れ出た想いを口に出していた。


「大好きだよ、■■■。だから、生まれ変わったら絶対に会おう」


「わたしもだよ、■■■■。絶対にあなたを見つけてみせる」



「「せーのっ」」



 直後、二人は同時に崖から身を投げ出した。

 ほんの僅かだけ時間が止まったような感覚。永遠にすら感じられる一瞬の中で、二人は笑顔を浮かべ涙を流していた。

 そして、自由落下が始まる。硬い岩肌がすぐそこに迫っている。

 これで、世界とはおさらば。相手ともさよなら。この先に二人を待ち受けるの死あるのみだ。例えこれが希望へと繋がる『儀式』だとしても確証なんかない。しかし確信はある。

 だから眼前に死が迫ってもなお、二人は片時も手を離さず、最後まで見つめ合っていた。

 そして。






 ぐしゃり、と肉が潰れる音がした。






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