第26話 沈みゆく日(鎧狩)
『きっとうまくいきます』
そうだろうか。年若い族長は、妻の手を握る。
祖父の代から接触してきた隣国は、張り付けた甘い顔を剥がし、権力を振るうようになった。
先んじて隣国に繋ぎを作った一族は、この地において絶大な力を発揮した。
彼の部族や近隣の部族は、出遅れまいと一族に口を利いてもらい、次々に隣国へ働きに出た。
はたしてその結果はどうだろうか。
彼はなんとなく怖かった。
隣国は、外国から集めた技術と、大きな工房を持って、たくさんの人を動かし、ものを作る力を持っていた。
今まで、細々と自分達で作っていた物が、簡単に手に入るようになった。
そうして、便利だとどんどん身の内に取り込み、身の回りが隣国の製品であふれ…。
自分達の力で作れるものは、そのとき、どのくらい残っていただろう。
こちらが取り扱う立場であったのに、いつしかそれがなければ生活がたち行かなくなるほど、立場が下へ下へと、泥沼に沈んでいったのはいつからだったか。
彼は、その思いを、ぽつりと妻に語った。
しずかに耳を傾けていた妻は、大丈夫といって、空を指差した。
『この先、なにがあっても…。この赤い山と野を、思い出して。』
見るもの全てが眩しかった子供の頃に。大人への仲間入りに胸をときめかせた青年時代に。新しい家族を授かった、震えるほどの喜びがふってきた日に。
山のカミは、いつでも私たちの心と共にある。
その思い出があれば、たとえ別れようと、二度と会えずとも、私たちは繋がっていられるのだと、妻は笑った。
その目に、小さく怯えが浮かんでいても、震えをかくし、自らを奮い立たせて言葉を送ってくれたことも、彼は今も、覚えている。
ある秋の日、馬が二頭、騎手を乗せて、天も地も、赤く焼けた世界を駆けていく。
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