短編集

葉(休止中)

第1話 炉端の記憶(鎧狩)

 一つだけでもいいから、持っていなさい。


父はそう言いながら、強引に石の刃を握らせた。


「なんで鉄じゃないの?」


 炉に向って丸まった背中に問いかける。 父の手には、鹿の骨。長さは腕の半分ほどで、先端が丸く整えられている。平べったい台座に置かれた黒い石に炎が反射して、少しだけ眩しい。


「たまに手入れしないと、やり方を忘れてしまうからな」


 南方からの交易により、鉄の品がもてはやされて久しい。石よりも使い勝手が良く、鉄ばかり使いたがる村人も少なくはない。


「鉄は手に入れるのが難しいし、錆びるだろ? でも、石はどこにでもある。目利きさえあれば刃物は作れる。覚えておいて損は無いだろう」


骨と石の打ち合う音が止んだ。


「ウルヤ おまえの分だ」


 そのおっかない腕力じゃ必要ないかも知れんがな!と、からから笑う父の顔を覚えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る