04 解放
「…で、どう言うことか説明頂けますか?セオ様」
セバスの眉間はこれ以上ない程にシワをよせて、眼鏡越しに睨み付ける漆黒の瞳にはとてつもない怒気を含んでいた。そんなセバスにセオは、面倒臭そうに溜め息をついた。全く今の状況がわからない少女は不安げに二人の顔を見る。
「わかった、わかった。お手上げだ」
セオはそう言うと少女の手をとって自室のソファーに座らせる。そして何かを決めたような真剣な顔で言う。
「コイツを俺の妃に決めたから」
「………は、はい?」
その後数分間の沈黙が続く静まり返った室内に、唖然としたセバスの声が響いた。
─ 数時間前 ─
もう死ぬんだと思った。苦しくて息も出来ないし、もがいてもびくともしない。勝手に両目から涙が溢れて視界がぼやける。
「やっと、捕まえた」
そう言って腕をつかむ男は色白で、眩しい程の銀髪の前髪から燃えるような真っ赤な灼眼が覗く。未だに何が起こったのか理解できずに自身の腹部を見ると、主の服があるだけであった。視線を上にもっていくとバッチリと眼があって掴まれている腕を引かれた。
「大丈夫か?…首は少し赤くなっているようだな」
立たせてくれたのかと理解すると片手が伸びてきて、首を軽く撫でた。
「っ、…あ、あの、これは一体」
精一杯絞り出した声は震えていて、辿々しかったが聞こえたようで男が答える。
「もう痛くないだろう?治癒魔法だ。少し落ち着け」
セオはそう言って少女の肩を優しく叩いた。
「あ、ありがとうございます、っ!ちょ、どこにっ!」
セオは少女の手を引いて歩き出した。落ち着かなければいけないのは、むしろ自分の方である。掴んだ腕の離すタイミングはおろか、次の話題さえ見当たらない。セオの心臓は今までに感じたことのないような早い鼓動を打ってパニックになっていた。
「、ちょっと待ってください!あの…私まだ仕事が…、主様は、?」
「それは心配いらない、男は死んだ。仕事…、奴隷のか?それも必要ない。何故ならお前は今から我が城へと連れていくからだ」
「 へ? 」
その男が言った瞬間に、目の前の空間に黒い球体が現れた。それは細長く縦に伸びて、ぱっくりと真ん中が裂ける。驚きに、小さく声が出たが男は気にもとめずに裂け目の中へと入っていった。引っ張られるような形で進むと、豪華な装飾品のベッドや家具の並ぶ部屋へと出る。
「…何ここ、まるで王宮、みたい…」
「俺の自室だからな。一応シンプルな作りにはしてあるんだが…派手か?」
「いえ、とても綺麗な内装だと…。って!あのっ、帰してください!ここは何処なんですか!?貴方は一体…!」
「あぁ、すまない、名乗っていなかったな。俺は魔王セオ、ここは魔王宮殿の自室だ。茶でも入れよう、オセロット。」
手を叩くとセオの寝室の扉を開けて、オセロットが入ってきた。
「失礼します、セオ様ご用件をなんなりっ……?えぇぇぇぇぇんぐむっ!!」
「煩い、静かにしろ。驚くだろうが」
脅すようにオセロットの口を塞いで言うと、涙目で首を何度も縦に降った。それを見たセオはゆっくりと手を離して、茶をいれるようにと指示を出すと疾風のごとく部屋を後にした。
「あの…。何故、魔王様が私を二度も…お助けになられたのですか、?。ただの奴隷が慈悲を頂ける身分など…」
「わからん。慈悲をかけた覚えもない、ただお前が使う魔術が知りたいだけだ。」
「魔術…?私が…、」
「惚けるか。俺は触れさえすれば何でも見えるぞ、一応、魔王だからな、" イシュタル "」
「な、なぜ、私の名前をっ…!」
警戒心から、距離を取ろうとしたがセオによって引っ張られて、腕の中へと抱き寄せられる。
セオにとっては棚からぼた餅であった。捕まえるつもりが、勢いあまって今や腕の中にある。絶好の機会であった。セオはそっと人差し指でイシュタルの額へと触る。
「…、魔法も薬師スキルも使えない、のか?…じゃああれは一体なんなんだ…、」
頭を抱えてイシュタルを見るが、イシュタルも同じような表情をして立っていた。
そこで、オセロットから話を聞いたセバスが怒り、セオの自室に来て冒頭へと戻るのだ。
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