第四話 スーサイド・スペシャル 2
『じゃあ、貴方が軍に志願すると切り出した時は・・・・』
『今でもその光景が目に浮かびます。温厚で滅多に声を荒げたことのない彼が、珍しく私を怒鳴りましてね。1週間はそれが続きました。私は別に父に憧れて志願をしたのではありません。本当に自分の意思で入りたかった。それだけなんです』
結局最後には母と兄姉達が一緒に説得してくれ、とうとう折れた。
しかしそこで父親はある条件をつけたという。
『
というものだった。
『で、空軍に入隊して』
『最初はレーダー解析係でした。その後憲兵隊に配属になりましてね。今に至るというわけです』
彼は『ベースの中では喫えないので』といい、ラッキーストライクに火を点けた。
『貴方が軍隊に入られてから、お父上に何か変化は起きましたか?』
『いいえ、特には・・・・ただ、私が日本への転属が決まった時、妙に暗い顔をしたのを覚えています』
『どうしてでしょうな?』
『さあ、恐らく戦争・・・・第二次大戦の頃に関わりがあるのかもしれませんが、それでなくても軍隊時代のことはあまり話したがりませんでしたしね』
そういえば、と、彼は煙草をもみ消し、オーダーしたコーラを飲んで言った。
『私が日本に赴任してからしばらく後、休暇で本国に帰って父を訪ねた時、こんなことをいいました。”カワゴエってところを知ってるか”って、』
『埼玉県の川越市のことですか?』
『ええ、多分そうだと思います。知ってると私が答えると、続けて、
”そこに慰霊碑かテンプル・・・・仏教の寺院のことでしょう・・・・みたいなものがあるか?”と言ったんです。』
しかしそうは言ってみたものの、単に地名を知っていただけで、実際に川越がどこにあるかということは知らなかった。
そのうちに調べて分かったらメールするよ。父にはそう答えておいたのだが、仕事にかまけて先延ばしになっているうちに、とうとうあんなことになってしまったと残念そうに語った。
『分かりました。いろいろどうも』
俺はそう答えて立ち上がろうとした。その時少尉は何か気づいたように、
『参考になるかどうか分かりませんが・・・・』といって、一冊の黒い表紙の手帳を見せた。
『遺品の中から出てきたものです。何かのお役に立てれば』
『有難うございます』
俺たち二人は握手をして別れた。
某国の一等書記官氏に会ったのは、それから3日後のことだった。
正直、こっちの方は少々手間がかかった。
最初、外務省に掛け合ったが、
『国際問題になりかねん。民間人の調査に協力する訳にはいかん』と、てんで相手にしてくれない。
テレビドラマなら官僚か政治家のお偉方に知り合いがいて・・・・となるんだろうが、残念ながらそこまでのコネはない。
やむを得ん。もう一度マリーに連絡を取り、彼女が秘密にしていた『某国』の国名を問いただした。
最初は渋っていた彼女だったが、
『教えなければこの仕事は降りる』と脅しをかけると、
『絶対に他所へは漏らさないでね』と、くどいように念押しをして、やっとのこと国名を聞き出すことに成功した。
東京都港区赤坂といえば、大使館がひしめいている。
その国のはちょうど六本木一丁目のスウェーデン大使館の斜め向かいにあった。
さすがに産油国である。国はそれほど大きくはないが、金をかけた、結構どでかいビルである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます