第20話 一時の安らぎ

 その後、十数日間に渡ってラヴィーナは僕を様々な場所に案内して、色々なことを教えてくれた。彼女はとても親切に僕の疑問に答えてくれた。

 地形として何があるのか。どの都市が栄えていてどこが廃れているのか。都市部とそうでない場所の違いは何か。歴史は、技術は、経済は、産業は──等々。

 彼女は驚くほど博識だった。魔族はこれほど高い教育を受けているものなのかと驚いたけど、それは違っていた。

 だったのだ。僕は彼女と一緒に過ごすうちに何人か(魔族の数え方として正しいかはさて置いて)の魔族と交流を持つことができた。会話をしてみれば、彼らの知識はラヴィーナの持っているそれと比べるべくもなかった。

 今ならば分かるけど、彼らが物知らずなわけじゃない。ラヴィーナが異様に知っているというだけだ。


 今日もラヴィーナの提案で外に出ることになっていた。行き先は近くにある川だった。

 家の周囲には山の類は見当たらなかったけど、どうやら遠方にあるらしくこちらまで河川が伸びているようだ。


「シャール、行きましょう?」


 彼女に声をかけられて僕は一緒になって家を出る。

 ラヴィーナの手には木製の籠。中には果物や肉、人間界で言うところのパンと似た食料が入れられていた。食料の形態は実は人間界のものと大差がない。

 僕らはそれを持って川にまで行くことにした……要するにピクニックだ。「たまにはお勉強のための観光以外も」とは彼女の弁。


 二人で揃って暗い森の中を歩く。その最中に僕は今後のことに考えを巡らせる。


 ラヴィーナからこの世界の知識を蓄えていったけど、もちろんやってきたことはそれだけじゃない。『魔王』がどこにいるのかについても、当然聞いておいた。

『魔王』は魔王城と一般に呼ばれる城にいる。魔王城の周囲には城下町があり、そこがこの魔界の中心的な都市となっている。人間界における王城、王都と同じだ。

『魔王』の率いる魔王軍も本拠地は魔王城だった。とはいえ、幹部たる六大魔将はあの魔剣士ただ一人で、敵として数える必要は殆どない。

 僕の最終目標はこれで定まった。魔王城へと行き、『魔王』を討つ。


 場所が分かったのですぐに向かう──というわけにもいかなかった。

 まだ僕は『魔王』と戦って勝つ算段がない。何とかしてあの強大な力に抗う方法を考えなくてはならなかった。

 その方針として二つ考えがあった。


 一つは『魔王』そのものを探る。あの力には何か裏があるんじゃないか、という発想だ。『勇者』である僕は例外として、普通の生物は魔族であろうともあそこまでの力は手に入れられないはずだ。理由があるなら、それを突き止めることで対抗できるかもしれない。


 もう一つは、この世界そのものに僕の肉体を慣らす、というものだ。

 正直に言えば、今の段階で『魔王』と戦ってもすぐに殺されるということはないだろう。前回の戦いでは僕はかなり魔力の出力を落としていた。出力を上げ過ぎれば、地形自体を本当に激変させてしまう。それぐらいの力が『勇者』には出せてしまう。

 次の戦いのときにはそういった加減をなしにすれば、前のようにすぐに気を失うということはないはずだ。

 ただ、それだけ力を引き出せるようにするためには僕自身の肉体をこの世界に慣らす必要がある。『勇者』の特異性は世界そのものから魔力を引き出せることにあるが、異界ともなるとすぐにできるわけじゃない。

 だから、この世界に長く滞在して肉体と世界との繋がりを強固にする。そうすれば全力で『魔王』と戦うことができるようになる。


 これが今の僕に考え出せる作戦だった。残念なことに、どちらにも欠点がある。

 一つ目の考えはそもそもあまりにも単純すぎる。『勇者』という例外がいる以上、『魔王』も通常の生物の範疇を超えていても不思議じゃない。

 二つ目の考えは、作戦というにはあまりに力技だ。要するに真正面からぶつかるということなんだから。


「何考えてるの?」


 黙り込んでいた僕を不思議に思ったのか、ラヴィーナが声をかけてきた。


「今日はラヴィーナが何を教えてくれるのかと思ってね」


 僕は適当な嘘をついておいた。『魔王』をどうやって倒そうか考えていた、とは口が裂けても言えない。

 あぁ、いや、嘘ってほどでもない。ラヴィーナが何を教えてくれるのかは、いつも楽しみにしていた。今日だってそうだ。

 透き通った青玉の瞳がこちらを見つめて、彼女は小さく微笑んだ。


「今日は休憩よ。先生も楽じゃないわ」


 悪戯っぽい笑みに僕は「むう」と唇を尖らせる。彼女のおかげでかなり魔界にも詳しくなったけど、未だに子供扱いされる。

 こちらの表情に、彼女がまた笑う。


「なぁに、その顔は? 先生に何か文句でもあるのかしら?」

「もうかなり賢くなったし、そろそろ卒業でもいいんじゃないですかね、先生?」

「ダメよ。それじゃ私が先生気分でいられないもの」


 ふふん、とラヴィーナが胸を張る。それに伴い豊かな双丘が強調されて、つい視線が引き寄せられる。

 今日のラヴィーナの服装もいつもどおりの灰色の布をワンピース状にしたものだ。腰を帯で巻いて固定しているせいで、胸のラインがかなり出ている。

 数日間一緒にいて分かったけど、ラヴィーナはかなりスタイルがいい。ふくよかな胸に、綺麗な丸みのお尻。それでいてお腹周りは引き締まっていて……。

 いや、別に見まくってるわけじゃない。わけじゃないけど、一緒に暮らしている以上、どうしても見えるときがある。意図して注目しているわけじゃない、と胸中で言い訳しておく。


「……どこ見てるのかしら、シャール?」


 はっとして視線を上げるとラヴィーナの笑顔があった。獲物を見るようなちょっと怖い笑顔だった。


「えーっと、いや、別に……」

「気になるのかしらね? ま、シャールも男の人だものね」


 流し目で見つめられて心臓が少し跳ね上がる。どうにも僕は彼女の瞳に弱い。

 というか、あれだ。からかわれてるな、これ。


「んー、まぁ、そうですね……僕も男なので気になります、はい」

「正直なのはいいことね。何なら、もやっぱり教えた方がいいのかしら?」


 う、と言葉に詰まる。何て言えばいいんだこれ。


「一つ屋根の下に暮らしているというのに、一向に何もしてこないもの。興味ないのかと思っていたわ」

「いや、いくら一緒に暮らしていてもそういうのはマズイんじゃないでしょうか……」

「奥手ね。それとも意気地なしかしら?」


 奥手でも意気地なしでも反論はできない。この手のことには確かに疎いというか経験がない。

 っていうか、何でこんな話になってるんだ。僕のせいか? ……僕のせいだった。


 森を抜けて風景が無数の木々から灰色の荒野へと変わる。相変わらず辺りには岩か何かがたまに見えるぐらいで地形というものが殆どない。


「……それで僕が本当に何かしようとしたら、どうするのさ」

「勿論、引っ叩いて寝台に戻してあげるわ」


 ラヴィーナがしれっとした表情で言い放つ。僕は思わず肩を落とした。


「あら、残念なのかしら?」


 再び少女の青玉の瞳に悪戯めいた光が灯る。話題を変えなくては。


「そ、そういえば、ラヴィーナってどの種族なの?」


 僕の唐突な切り返しに「意気地なしね」とぼやかれてしまった。


「そうね、そういえば言ってなかったわね。私は淫魔族サキュバスよ」

「……え、そうなの?」


 淫魔族は比較的人間に近い姿をしている。違いがあるのは翼と尾だ。彼ら彼女らには蝙蝠に似た翼と、特徴的な尾がある。ラヴィーナにはそれがないせいで、僕は彼女が何の種族なのか全く気がつかなかった。

 僕が驚いた声をあげると、また彼女が悪戯めいた笑みを浮かべる。わ、話題が変えられていない。


「そうよ。だからあなたの知らないうちに精気を吸っていたかもしれないわね?」

「あ、あはは」


 困ったように笑うことしかできなかった。


「私は別に、ご飯はこれじゃなくてもいいんだけど?」


 ラヴィーナの手が籠を掲げる。自分の顔が熱くなるのを感じる。


「……す、すいません。そろそろ違う話にしませんか?」

「仕方ないわね。ちょっといじめすぎたかしら」


 お願いして別の話題にしてもらってからしばらくが経ち、僕たちは目的の川にたどり着いた。

 そこは森の中だった。木々が少ないちょっとした隙間に清流が横切る。

 人間界であれば魚がいそうなぐらいには川は深く、それなりの川幅があった。

 周囲は相変わらず黒色の木々に囲まれていたけど、マナの輝きを水が反射して河がまるで光り輝いているように見える。薄暗闇の中で輝く水面は幻想的な光景となっていた。


「驚いたなぁ、綺麗だね」

「でしょう? あなたに見せたかったのよ」


 隣でラヴィーナが自慢げに言う。


「さ、座りましょう?」


 僕らは手近なところに座る。地面には草も生えているのでクッションにはちょうどいい。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 彼女からパンと、肉を保存用に加工したものを受け取る。挟んで食べるっていう、要はサンドイッチだ。

 肉をパンの間に挟み、それに齧りつく。主に塩味が広がる。こちらの食事の味付けは結構、大味だ。文化の違いを感じる。嫌いじゃないけど。


 ラヴィーナも同じような食べ方をしていた。ただサンドイッチを食べるってだけでも、美少女がやると様になる。


 川のほとりに穏やかな風が吹いて肌を撫でる。心地の良い風だった。水の流れる音に、こずえの擦れ合う森の騒めく音。マナの小さな輝き。世界が息づいているのを感じる。周囲には他に誰もいなくって、ただ僕と彼女がいるだけ。

 平穏そのものだった。こんなにも安らぐ気分になったのは初めてだ。ラヴィーナと出会ってからは、辛い気持ちを忘れられる時間が多い。


「気に入ってもらえたかしら」


 彼女が微笑む。透き通った白色の髪が揺れて、美しい青い瞳が向けられる。それだけで僕は言葉を失う。音も光も意識から消えてしまって、身体さえ動くことを忘れる。僕はただ、彼女を見つめることしかできなくなる。


 ──ああ、綺麗だ。そう思った。


「どうしたの? ぼーっとしちゃって」

「ごめん、見惚れてた」


 視線を外して、またサンドイッチを口に運ぶ。ちょっと塩辛い。

 沈黙。隣を再び見ると、ラヴィーナが口を結んでいた。


「どうしたの?」

「……ちょっと、今のは不意打ちすぎじゃないかしら」


 文句を言われてしまう。よく見ると頬が赤らんでいた。

 確かにちょっと恥ずかしいことを言った気がする。けど、事実なんだから仕方ない。


 正直言えば、僕は彼女のことが好きだった。もしかすると淫魔族サキュバスの術か何かに嵌まっているのかもしれないけど、それでもいいと思えるぐらいにはラヴィーナに惚れていた。

 この世界──異世界そのものにやってきてから、僕のことを僕として扱ってくれたのは彼女だけだった。だから、僕も初めて目の前の相手をありのまま見ることができた。

 僕にとって一緒にいてくれる相手はラヴィーナだけだ。だから、好きになるのは仕方のないことだと自分でも思う。


 当然、彼女は知らない。何故なら、僕は『勇者』だからだ。『勇者』が魔族を愛することほど傲慢で恥知らずなことはないだろう。『勇者』であることを黙ったまま想いを伝えるほど、僕は自分勝手にはなれなかった。

 僕の正体を知れば、ラヴィーナだって僕のことを『勇者』として扱うだろう。だから、正体は明かせない。

 もしもそうなってしまったら、今度こそ僕は何もかもを投げ出してしまうだろうから。


 それでも、僕はいつか彼女の元を離れなくてはならない。『魔王』を討ってこの戦いを終わらせるために。

 だからせめて、今だけはこうしていたい。何も知らないシャールとなって、彼女の隣に居たい。


 ちりちりと脳裏でノイズが走る。光の精霊が何かを訴えかけてきていた。魔界にいるせいか、声は小さい。

 きっと僕に文句でも言いたいのだろう。けど、今は無視。


「あなたって、奥手なのかそうじゃないのかたまに分からないわ」


 ラヴィーナが唇を尖らせていた。こういう表情もちょっと可愛い。


「素直なだけだよ」

「……まぁ、そうなんでしょうけど」


 軽い食事を終えた僕たちはお茶(こっちのお茶は何と甘い)で一息ついた後、少し川に入ってみることにした。

 水の流れは穏やかで流されるような心配はない。ブーツを脱いで川岸に置き、服の裾を捲り上げて素足を入れる。ひんやりと冷たくて気持ちがいい。

 ラヴィーナもワンピースの裾を持ち上げて川に入る。


「ん〜、気持ちいいわね」

「そうだねぇ」


 水は想像よりも透き通っていて水底が見えるぐらいだ。川の中をよく見ると生き物が泳いでいた。形状は違うけど、魚だ。

 魔界の魚は人間界のものと違って身体の後ろが広がった形状をしている。普通は抵抗を少なくするために流線型をとるんだけど、こっちではその必要が薄い。

 何故なら、彼らは身体の内側でマナを使い水流を噴射して移動する。そしてその微調整をヒレで行なっている。移動の際には前方に対して水を弾く膜のようなものも作り出すので、身体の形状を流線型に保つ必要がない。むしろ水流を作り出す器官を大型化する方向に進化したらしい。

 形状としては魚というより翼のない飛行機(もちろん、飛行機はこっちにないけど)だ。


 その魚が僕の足元をうろついていた。何となく馬鹿にされている気がする。

 そして何となく、捕まえたくなった。

 手を構えて、足の近くで挑発するように浮遊する魚に狙いを定める。そのまま真上から真っ直ぐに手を振り下ろす。


 強烈な噴射音。大量の水が僕の視界を埋め尽くして顔に吹き付けられる。


「ふふっ、シャールったら何してるのよ」


 水浸しになった僕を見てラヴィーナが小さく吹き出していた。

 足元にいたはずの魚は影も形もなくなっていた。僕に水をぶっかけるついでに逃げたようだ。


「……無念」

「下手っぴね。先生がお手本を見せてあげる」


 そう言うとラヴィーナは魚を探し始めた。

 こう言ってはなんだけど、それなりに身体能力に自信のある僕に捕まえられなかった魚をラヴィーナに捕まえられるとは思えない。

 ここは一つ、先生には恥をかいてもらおう。


 魚を見つけたラヴィーナが動きを止める。

 そしてそっと両手を水の中に入れてすくい上げる。手の中には魚が収まっていた。


「し、信じられない……!」


 思わず僕は声をあげた。あまりにもゆっくりな動き。あれで捕まえられるなんて。


「言ったでしょう、お手本を見せてあげるって。ほら」


 ラヴィーナが魚を僕に向かって放り投げてくる。慌てて捕まえる。

 次の瞬間、魚は噴射口から水を顔面に思いっきり噴出。よろけた僕の手に尾びれを叩きつけて跳ね、落下。水の中に戻っていった。


「嫌われているのかしらね?」


 悪戯っぽく微笑むラヴィーナに僕は何も言えなかった。

 あまりにも悔しい。何か先生には苦労をしていただきたい。

 何かないかと考える僕の脳内に閃きが走る。


「じゃあ先生、もう一匹ください」

「いいわよ?」


 僕の要望を先生は快諾した。かかったな。

 同じように静かに両手を水に沈めて、静かに魚を引き上げる。二回目だけどまだ信じられない。名人なのだろうか。

 そしてまた僕に向かって魚を放り投げる。僕はそれをしっかりと捕まえる。準備はできた。

 魚の眼に怒りの火が灯ったのを僕は確認。即座に僕は魚の身体を反対方向にひっくり返す。水の噴射口がラヴィーナに向くように!

 凄まじい勢いで放出された水がラヴィーナに直撃した。


「きゃっ!」


 可愛らしい声があがり、ラヴィーナは川に尻餅をつく。心の中でガッツポーズ。それと同時に顔面に何かがぶつかってきた。痛い!

 手の中で暴れた魚が下に向かって水を噴出してその勢いで僕にぶつかってきたのだ。予想だにしない攻撃に足のバランスが崩れる。


「あ、あぁああああっ!!」


 そのまま背中から水面に落下。仰向けの姿勢で僕は川に突っ込んだ。冷たい水の感触が全身に広がる。こ、こんなはずでは。

 さっきの魚が馬鹿にしたように隣を泳いでいった。


 身体を起こす。目の前には水浸しのラヴィーナ。向こうからすれば無様にひっくり返って水浸しになった僕がいる。


「くっ、あははっ!」

「ふふっ」


 僕たちは一緒に笑ってしまう。


「もう。酷いことするのね」

「ごめんごめん。ラヴィーナが何でも上手くやるからちょっと仕返ししたくなって」


 僕の子供っぽい悪戯も彼女は笑って許してくれる。


「おかげで二人とも水浸しよ? ほら、あがりましょう」


 起き上がったラヴィーナが僕に手を差し出す。悪戯心がまた鎌首をもたげてきた。

 ダメだ、やってはいけないと思いながら僕は彼女の手を取って思いっきり引っ張った。


「きゃあっ!」


 二度目の可愛らしい悲鳴と共にラヴィーナが倒れ込んでくる。当然、僕も一緒になって水の中に突っ込むことになるけど、もうびしょびしょだしどうでもいい。

 二人とも水から身体を引き起こす。目の前には彼女のちょっと怒った顔があった。


「もうっ! 二回もやるかしら普通!」


 珍しく少し声を荒げていた。でも怒った顔も可愛い。


「あははっ! いや、今のはラヴィーナが悪いよ、あんなの誰でも引っ張るよ!」

「本当に子供なんだから!」


 彼女は怒っていたけど、仕返しがたっぷりとできて僕はかなり気分が良かった。


 ふと、視線が交わる。それだけで心拍数が上がる。お互い腰まで水に浸かった状態で、身体を支えるためにラヴィーナの両手が僕の肩に置かれていた。そのせいで彼女の顔は殆ど目と鼻の先にあった。

 視線を少し逸らすと、水に濡れて服が身体に張り付いて透けていた。白い下着が見えて、慌てて視線を上げ直す。


 青玉の瞳がじっとこちらを見つめていた。水を含んだ彼女の手が、優しげに僕の頬に触れる。


「ラ、ラヴィーナ……?」


 戸惑う僕にラヴィーナは微笑んでいた。とても穏やかに、慈しむように。


「シャール……」


 彼女の声が熱に浮かされたように名前を呼ぶ。綺麗な声に僕の心は掴まってしまう。視線を外せなくなった僕に、彼女が顔を近づけていく。


 互いの吐息が感じられるような距離で、ラヴィーナが目を閉じる。


 ──脳裏にノイズ。光の精霊かと思ったけど、違う。これは魔力の揺らぎだ。小さな地響きと共にここに何かが向かってきていた。

 ラヴィーナも目を開いて僕と同じ方角を見た。


 木々が引き倒される轟音。漆黒の森を引き裂いて、巨体が姿を現した。

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