反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)
第7話 リボルト#02 新たな出会いは、そこに絆がある Part2 千恵子、いきりたつ
第7話 リボルト#02 新たな出会いは、そこに絆がある Part2 千恵子、いきりたつ
だが、一つ納得できないことがある。
「それにしても、二人ともひどいじゃないか。去年はたくさん電話をしたのに、なんで全然出てくれないんだよ?」
まあ、高校生になってから色々忙しいのは分かるけど、さすがにこの二人に限って電話に出ないような冷たい人間じゃないと思うな。
「ああ、そのことだが……実はここ、外部への連絡が一切禁じられているんだ」
「何だって?」
俺は思わず耳を疑う。確か携帯を持ち込み禁止の学校はあるが、ここは全寮制である以上、保護者に連絡ができないのはおかしいだろう。
「それだけじゃないよ! ネット通信とかもできないんだ~ほら見て、私の携帯!」
菜摘はスマホの画面を開いて俺に見せると、そこには「圏外」の二文字が表示されている。
おかしい、絶対におかしいぞこれ……たとえ田舎でも、電波が届くはずだぞ。まさか、ここは地球じゃないどこかなのか? そんなバカな。
「ゴホン!」
急に千恵子が、何の前触れもなく咳払いをする。って、今は授業中だったっけ。早く着席しないとな。
「わりぃ千恵子、哲也の隣に座っていいか? ちょうど席が空いてるし」
俺は哲也の右側にある空席を指さし、千恵子の方を振り向いてそう訊いた。どうせ座るなら、知り合いの近くに座りたいよな。うんうん。
「ええ、構いませんよ」
千恵子は溜め息をついて、半ば投げやりな口振りで許可してくれた。
「サンキュー」
俺は軽くお礼をすると、くるりと身を回しながら、ものすごい勢いで腰を下ろした。うん、柔らかいクッションの座り心地がたまらねえ!
俺は体勢を変え、前屈みになって肘を机につく。そして、教室は痛いほどの静けさに包まれる。これは明らかに不自然だ。
「あれ、なんかおかしくないか?」
「やっと気付いたか」
俺の質問に、思わず片手を額に当て、呆れた顔をする哲也。どうやらアイツも気付いたらしい。
「そう、このクラスに先生がいな……」
「そうだ、俺はまだ自己紹介してなかった! まったく、俺としたことが」
「そっちかい!」
俺の言葉を聞いて、何故か哲也が椅子から落っこちそうになっている。そして菜摘は両手で顔を隠し、必死に笑いを堪えようとしている。いつもの光景だが、このタイミングでは珍しいな。
「えっ、違うのか?」
「いや、違わないが、もっと大事なことがあるんじゃないか! ほら、教壇を見てみてみてくれ!」
哲也の指で導いた方向を見ると、そこにいるのは千恵子一人だけだった。俺は色んなアニメを見てきたが、確かこういう転学のシチュエーションでは、先生がいることは確実だ。
しかし俺たちのこのクラスには、いるはずの先生の姿がなく、ただくつろいでいるクラスメイトたちだった。うん、確かにこれはおかしいな。
「哲也、君の言いたいことがなんとなく分かってきたぞ。さっき俺は、てっきり自習でもしてるのかと思っていたけど、どうやらこの雰囲気だと、何か深い事情でもあるらしいな? あとさっき『みて』が一回多かったぜ」
「うっ、よく気付いたな……と、とにかく! この学校はおかしい、マトモじゃないんだ!」
哲也の口から、とんでもない情報が吹き出る。俺は最初は少しびっくりして退いたが、すぐに落ち着いた。なぜなら、哲也は真面目すぎて、少しでも常識から逸れたことで敏感になりすぎて、いちいち反応してしまうんだ。そんな彼を、俺はよく知っているつもりだ。だから今更慌てるとか、そんなことをまったく思っていない。むしろ余裕の表情を見せて、彼を安心させようとしてる。
「落ち着け、哲也。君は俺より先にここに来たんだろう? いい加減慣れろよ」
「まだ分かっていないのかい? 君だって、あのマトモじゃないバスに乗ってここに来たんだろう」
「あっ!」
そういえばそうだった。いくら変な状況に落ち着いて対応できる俺でも、確かにあのバスの存在は理解しがたい。それにあの不気味な森もだ。あれはどう考えても、現実の人が成し遂げられるような出来事じゃない。
「秀和、忘れたのかい? まあ、さすがに君もあの状況を理解できないか」
「当たり前だろう。CMを見た時から、なんとなく胡散臭いと思ってたぜ」
「うーん、先生がいないのは楽だけど、でも今になってただつまんない思いしかしないのよね~」
菜摘は子猫のように大きく欠伸をし、両手を上げて四肢を伸ばした。まさに退屈そのものだ。
「なんじゃそりゃ? 詐欺じゃねーのか、それ! 人が学費を払って、変わるために苦労してここまで来たのに、まさかの放置プレイ!? この世も末だな……」
学校の豪華な施設に反するいい加減なシステムに対して、俺の喜びが一瞬にして怒りに変わり、声も感情に支配されて大きくなった。
「でもほら、ここはショッピングモールとか遊園地とかもあるし、まるでテーマパークじゃない! 気楽で不自由もないし、むしろ天国かも~」
菜摘は窓を通して外の景色を眺めながら、楽しそうな声で話す。そのヒマワリのような満面の笑みが、俺のイライラしている気持ちをなだめる。
「ああ、確かにそうだね。うるさい両親もいないし、ずっとここに住みたいかも~」
誰かが心なく放った一言。しかし、その言葉は、ある人物の神経を逆撫でにしてしまう。
「……学校は、遊び場ではありません!」
バンと大きな物音と共に、千恵子は凄まじい大声で叫んだ。心の準備ができていない俺たちの心臓は、全身の
「貴方たち、それでも学生ですか? もうすぐ18歳になるというのに、毎日だらだらとゲームやお喋りばかりに没頭して、無意味に時間を無駄にするんですか? 学生たるものは、真剣に勉強や学業に打ち込むことが大事ですよ! さもないと社会に淘汰され、受け入れられなくなって……」
スイッチに入った千恵子は、先ほどの大人しいイメージとはどこに消えたのかと思いたくなるほど別人に変わった。マシンガンのように絶え間なく続く彼女の熱弁は、この静かな教室を
「わー、耳が痛えな」
あまりにも正論だったからか、俺は何も言い返せず、ただ苦笑を浮かべていた。
「九雲さん、真剣なのはいいけど、ちょっと張り切りすぎなんだよ~まあ、日常茶飯事だけどね」
菜摘はまたしても眉間にしわを寄せていた。その顔には、無気力な笑みにしか見えなかった。さすがに自由奔放な彼女にも、手に負えない相手だったか。
「そこ! 私語を慎むように!」
話し声に気付いたのか、千恵子はビシっとこっちに人差し指を立て、鋭い眼光でこっちに睨んでいる。すっかり委員長気分にハマっているようだ。
「はーい」
菜摘はゆったりした口調で、適当にはぐらかす。そして千恵子の怒濤の訴えが、未だに止まらない。
あれから約15分後、ようやく説教が終わり、スタミナを使い果たした千恵子は教壇に伏せ、荒く息を切らしてる。先ほどの可憐なイメージと桁違いの、あまりにも情けない姿に、俺は思わず目を逸らす。
「はーい、九雲さん。よかったらこれをどうぞ」
菜摘は席から立ち上がり、ミネラルウォーターの入っているペットボトルを千恵子に渡そうと歩き出した。
「はぁ、はぁ……ありがとうございます、端山さん」
礼儀にうるさい千恵子は、忘れずにお辞儀をしたあと、菜摘から渡されたペットボトルを、お茶を飲むように両手で姿勢良く支えながら、少し顔を上げてごっくりと水を飲み込んだ。
「なあ、哲也、あの千恵子は一体何者なんだ? ルールに厳しいとか、言葉遣いや動きが丁寧だとか、どこかのお嬢様か? さっきから雰囲気が他の人と違うような気がするんだけど……」
俺は求知心に駆られて、ついに我慢できずに哲也に質問を投げた。俺より先にここに来たコイツなら、きっと何か知ってるはずだ。
「よく気付いたな、秀和。実は、彼女の実家は和食屋なんだ。そして彼女は、板前の一人娘さ。ここまで説明すれば分かるよな?」
俺の質問に対して、哲也は気軽に答えてくれた。なるほど、そういうことか。どうりであんな真面目なわけだ。俺の推測からすれば、彼女の過去はきっと店でお手伝いをする時に親父さんに色々言われて、それでルールを心に刻んだ、そんな具合かな。
だとしたら、何故彼女はここに送られたんだ? こんな完全無欠なお嬢様なら、親は不満に思うことはないと思うがな……うん、謎だ。
色々考えていると、いつの間にか千恵子は俺の目の前に現れた。
「狛幸さん、わたくしは少々お休みを取りますので、その間に、他の皆さんとご挨拶をしていらっしゃいませ」
そういうと、千恵子はそそくさと自分の席に戻り、疲れ切った顔を浮かべながら机の上に倒れている。一方菜摘は、彼女のそばで介抱している。
「うう……疲れましたぁ……どうして皆さんはわたくしのお話を聞いてくれないんですか……」
「まあまあ、誰にだってこういう時はあるって! ドンマイだよ九雲さん~」
よく頑張ったよと言わんばかりに、菜摘は優しく涙が溢れそうな千恵子の頭を撫でている。こういう意外な一面もあるんだな。
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【雑談タイム】
秀和「千恵子、こんなキャラだったのか……まるで別人みたいで驚いたぜ」
菜摘「まあ、九雲さんも女の子だもんね。泣きたい時は泣くよ」
哲也「それにしても、和食屋の娘か……改めてその真剣さが伝わってきたな。秀和も、少しでもあんな風になればいいのにな」
秀和「おいおい、親父みたいな言い方をするんじゃねーよ! そっちだって、もっと柔軟に物事に対応できるスキルを身に付けるべきじゃねーか?」
哲也「うぐっ!」
菜摘「あ~あ、八方美人って難しいね~」
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