UFO(ウホ)から出たまこと

平中なごん

01 嘘も方便

 それは、ほんの軽い出来心からのことだった……。


 僕は仲のいい学校の友人二人とUFOの偽動画を作成し、それを〝Tvuyaitter〟(ツヴヤイター)や〝Insitegozal(インシテゴザル)〟などのSNSに投稿するという分不相応な悪戯を思いついた。


 動機は「バズって人気者になりたい」というただそれだけ。


 別に僕らはオカルトマニアなわけでも、そんな動画の編集能力に長けているわけでもない。


 にもかかわらず、昨今のオカルト動画ブームにあやかって、UFOの目撃者としてチヤホヤされるばかりか、あわよくばその人気を足掛かりに有名〝YO! ツーバー〟になって広告収入で一攫千金! などという、棚からぼた餅以上に甘い見通しの野望を抱いてのことである。


 なので、偽動画を作るといってもPC上で動画編集ソフトを使って行うわけではなく、技術のない僕らの選んだ方法は「実際にその場でUFOの模型をピアノ線で吊るし、それをスマホでさも偶然見つけたように撮る」という、超ベタで、超アナログで、超低レベルな古典的方法だった。


「――ああ! なんだあれ!? もしかしてUFOじゃね?」


 動画撮る係の那佐なさが、いかにも大根役者な演技でそんな台詞を棒読みしながら、静まりかえった深夜の公園にスマホを構える。


 その誰もいない、街灯の白んだ明かりだけが灯る公園の上空には、僕が釣り竿で吊るす銀色の灰皿がフラフラと揺れながら浮遊している。


「カァァァーット! よーし! いいだろう。いい演技だったぞ、那佐。衿家えりやもいい感じだった。さっそくUPしようぜ」


 この計画の発案者であり、勝手に監督を務める運びとなった辺田へんだが、その気になって檄を飛ばすと、那佐と僕の下手クソなシロウト芝居を根拠もなく褒めたたえる。


「いい画が撮れましたね、監督! これはもう話題沸騰間違いないっすよ!」


 その言葉にお調子者の那佐も役者を気取り、どこからそんな自信が湧いてくるのだろう? 諸手を挙げて辺田に賛同する台詞を口走っている。


 こうして僕らの動画はなんの問題もなく短時間で完成し(こんな簡単な撮影で何か問題の起こる方がどうかしているが…)、すぐさまSNSで全世界配信されることとなった。


 自らの思いつきを自画自賛している辺田と身の程知らずな那佐はともかく、この低レベルな偽動画が果たして話題になるものか? いささか…いや、大いに疑問を抱かずにはおれない僕であったが……


 たいへん信じがたいことにも、UPと同時に再生回数、そして、いいね! とリツートの数はウナギ上りに上昇していった。


 また、静止画投稿メインの〝Insitegozal〟の方は、〝ヒストリーズ〟という24時間で消える動画投稿しかできないが、それも自分達が知らない内に無断でコピーされ、方々に拡散していっているらしい……。


 どうやら、オカルト動画作家業界ではすでに絶滅したであろうこのアナログな古典的方法が、むしろ世間では新鮮であり、逆に本物っぽく感じられたらしい……。


「スゲー! 早くも100万回再生だぜ!? これで俺達、超有名人じゃね?」


「SNSでここまでウケたんだ。これはYO! ツーバーとして生きてくのも夢じゃないね。テレビ局からも取材くるかも」


「まさか、こんなにも反響いいとはな……」


 世間のその反応に、僕らは異口同音に驚きと喜びを素直に感じていた。辺田や那佐とは驚きの意味合いが少々違うが、僕にしても同様である。


「え⁉ あの動画って辺田くん達が撮ったの?」


「すっごーい! UFOってどんなだった~!」


 当初、ここまで反響が出るとは思わず、地道な広報活動として嘘の目撃談を吹聴していたため、動画が話題になると同時にクラスの女子達も黄色い声で食いついてくる。


「ああ、もちのろんよ。俺達が那佐のスマホで撮った本物のUFOだぜ?」


「なんかね、銀色の灰皿みたいのだったよ」


 そもそも「人気者になる」ことが第一目標なので、辺田も那佐もそのことを黙秘することも話をはぐらかすこともなく、いつになく周りを取り囲む女子達にご親切にもペラペラと自慢げに語って聞かせている。


 なんか、不必要な説明まで入っているため、嘘がバレないものか少々危機感を覚えなくもないが……。


「衿家くんも見たんでしょ!? 宇宙人も見た!? なんかされたりはしなかった!?」


「あ、えっと……遠かったから宇宙人は見てないかな。特になんかされたってことも……」


 二人のように有頂天になったわけではないし、このありえない反響を素直には喜べなかったが、僕も女の子にチヤホヤされて、正直、うれしい気持ちがなかったわけではない。


 ここまで話が大きくなってしまい、嘘を吐いているという罪悪感と、それがいつかバレはしないかという不安感を完全には拭い切れないながらも、とりあえずは今しばらく、この偽りの優越感を楽しむこととしよう。


 そういう風に考え直し、超楽天的な友人二名を見習ってこの幸運を受け入れることにした僕であったが……。


 ところが、しばらくすると僕らの周りで奇妙なことが起こり始めた。


「なんかさ、今朝学校来る時、門の前を黒いトレンチコート来た怪しい男がうろうろしてたんだけど」


「ああ! あの黒い帽子にグラサンした黒尽くめのヤツだろ? 俺は帰る時見たぜ?」


 そんな不審人物の目撃情報が、教室のあちらこちらからちらほらと聞こえて来たのである。


 さらには……


「辺田、さっきさ、黒尽くめのヤツにあのUFO動画撮った生徒知らないか? って訊かれたんだけど、あんかヤバそうだったから知らないって恍けといたぜ」


「あたしも訊かれた! やっぱ怖かったから誤魔化して逃げたけど」


 そんな不気味なことを言い出すクラスメイトまで現れ始めたのだ。


「もしかしてさ、おまえらが本物のUFO撮ってUPしちまったから、例のアメリカ政府の秘密機関だかなんだかが動き出したんじゃねえ?」


「あ、それだ! 確かに都市伝説でいわれてるような黒尽くめの格好だし、いわゆる〝黒尽くめの男達メン・イン・ブラック――M.I.B〟ってヤツ?」


 ………………いったい、どういうことだ?


 僕は、その奇妙な出来事と、それに対するオカルト好きな友人たちの意見に頭を混乱させた。


 僕らが撮影して公開したのはUFOでもなんでもなく、百均で買ったただのアルミ製灰皿である。


 なのに、なぜそんなUFO事件の揉み消しに現れるという〝黒尽くめの男達メン・イン・ブラック〟が出てくるんだ?


 あんなインチキ動画で、まさか、そういったある意味・・・・UFOの専門家まで騙されるとはさすがに思えないんだけど……


  いや、そもそもM.I.Bなどというものは都市伝説の中の存在であって、現実にいること自体、にわかには信じられないと思うのであるが……。


「もしかして、あの灰皿がじつは地球上に存在しない金属でできた、ほんとは表に出しちゃいけないエリア51内仕様の灰皿だったとか?」


「んなわけあるか! こいつはきっと俺らの動画の出来が良すぎて、ヤツら本物撮られたと勘違いして揉み消しに来たんだぜ?」


 だが、困惑する僕を他所に、那佐はアホウな妄想を、辺田は自信過剰な台詞を口走って疑問を抱くことすら微塵もない様子だ。

 

「と、とにかく、もう一度、撮った動画をしっかり見直してみよう」


 そんな思い込みが強いといおうか、自分に都合よく考え過ぎにも程がある二人を誘い、僕らは辺田の家のPCで画面を拡大し、UPした動画を改めて見てみることにした――。

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