触れた足の先の地

その背中を見てたら、私、なかなか馬からおりれなくてね。

だって、ねえ。

ほんの少し、ほんの少し、うまく運命が噛み合わなかっただけだったのよ。

そう思うと、ね。馬から降りたら、きっともう彼は消えてしまうと思って。


え? だってそうでしょう?

フィアナ騎士団のオシーンだって、こちら側の地面を踏んでしまって、常若の国ティル・ナ・ノーグに帰れなくなってしまったのだから。

同じように、私がこちら側の地面を踏んだら、こちら側に帰ることになって、むこう側の彼とは、きっともう会えなくなってしまう。

だから、ためらっていたの。

彼も、私がためらっていたのをわかっていたのかもしれないわ。


でも、それもほんの数瞬だったわ――体感時間はそれよりも長かったけれどね。

誰かが駆け寄ってきて、私を馬から無理やり抱きおろしたの!

それには彼も驚いたのね、本当にびっくりした顔で私の方を振り向いて――でも、私の足が地面についた時には消えてしまったわ。


私を抱きおろしたのは、近くの家のおじさんだったわ。

私が道を外れるところから、遠目に見ていて、善き人々ディーネ・マハのしわざだと思っていたそうよ。

私はあの連れ去られてから戻ってくるまで、数時間程度と思っていたのだけど、実際には丸一日経っていたらしくてね。

おじさんは昨日の今頃って見張っていてくれたそうよ。

ええ、それで、突然現れた黄金色の馬の上に私がいるのに気が付いて、善き人々ディーネ・マハからこちら側に引き戻すつもりで抱きおろしたそうよ。


そうね、この話はこれっきり。

私の経験したむこう側はこれだけよ。

そう、この話自体はこれで終わりなのよ。

そこからここまでの、私にあったことの話は取るに足りない、本当にどこにでもあるただの人生よ。

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